正シイ御薬ノ勧メ | ナノ
「一杯目からブラックはやめときゃ良かった…」


誰かさんが言ってた。朝イチのブラックコーヒーは胃に来る…と。胃薬は飲んだのに今回はたまたまなのか効き目が悪かった。お昼を過ぎても胃が重い、否、痛いのか…何とも言えない感覚が私を襲う。挙げ句の果てに嗚咽までしてくるもんだから、もう一層の事吐いてしまった方がマシかもしれない。


「おぇぇぇ…」
「吐くなら厠行けよ、」
「山崎の顔見たら余計吐きそうだわ…」


辛辣な言葉を投げ飛ばしてきた地味な奴は同僚の山崎退。イラっと来たので自分も同じく暴言を吐いた。違う物も吐きそうだけれど…いやそうじゃなくて。


「どうせまたブラックコーヒーしか飲んでないんだろ」
「おぉ、当たり。どうも甘ったるいのは苦手でね、おぇぇぇ…」


此処で吐くなよ、と優しい言葉が降ってきたと思ったけどそれは間違いだった。万が一此処でしてしまったら後片付けが面倒なだけだと。やっぱり奴は辛辣だ…まぁ私もだけど。
好きな人には何とやらってヤツで、どうも私は素直になれないでいる。女らしさの欠片も無いこんな女、相手にされてないだろうけど…そんな想い人からたった今紙包を渡されたが何のこっちゃさっぱりである。


「何これ?」
「胃薬、すげぇ効くから」
「ありがと…」


山崎の癖に酷く優しい…まるで弱みを握られたかのようだ。あの山崎が私に?と一瞬思ったけれど此処で飲むまで離れないと言わんばかりの視線を浴びて仕方なく飲んだ。
じゃぁ暫く寝てろよ、と頭をすっ叩いて去ったあたりはやっぱりいつもの山崎だった。然し乍らここはひとつ同僚の優しさに感化されていよう。胃が治ったら今度は此方が弱みを握ってやるんだから。



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部屋の外から嗚咽が聞こえた…奴だ。二日酔いかはたまたブラックコーヒーか。昨日は徹夜だったろうから恐らく今日は後者だな、なんて知る筈の無い事を俺は知っている。一晩中明かりを灯してカリカリと報告書でも捌いていたんだろう。
あの顔を歪めてみたいと…俺しか知らない声で啼き喚くみょうじを見てみたいと思い始めたのはいつからだったか、それはもう覚えていない。仕事に律儀で表情も崩さず、戦へ出ても傷一つ負わないあの女に俺を刻みたいと…イケナイ考えをするようになったのは。隙あらばと探っても、隙なんか見当たりもしないのに…
そして俺はいつも通り柔らかく暴言を吐き捨て、紙包を渡す。暴言を吐いている時点で柔らかくも優しくもないが。


「胃薬、すげぇ効くから」


その辺の薬局に売ってるパッケージでもなく、敢えて紙包に仕込んだ“胃薬”を渡す。仕込んだって云う時点で、ンなもん大嘘である。取り敢えず此処で吐かれちゃ困ると建前を紡いだ。飲み込む場面を見るまでは部屋に戻ってやるもんか。観念したのかみょうじはソレを飲み喉元が揺らいだ。その一瞬だけで俺は興奮したのだが、ここはまだ我慢しておこう。さて、薬が効くのを待つとしようか…
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