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掴み損ねた貴方の心

今まで自分の心に素直に生きてきたつもりだった、駆け引きなんて柄じゃないし。旦那が亡くなった時も近所迷惑になるくらいには泣きじゃくって…でも、どうしたって世の中というものは非常なのだ。私を蔑むような周囲の視線、本当は私が薬を盛ったなんて噂話も出てたっけ。

それからはなるべく自分を偽って愛想笑いばかりして。噂話をかき消したい一心でふたりの家にそのまま住み続け、真相を知りたくて真選組の門を叩いた。馬鹿正直に顛末を話しても時間の無駄だと言わんばかりに隊士希望として。女中希望にしなかったのは旦那を殺した奴をこの手で裁きたかった、それだけだ。女だからと前線に立つ事さえあまりなかったが、これはこれで良かったのかもしれないと今なら思う。

家に帰っても真っ暗だし誰もいない部屋の中で愛を叫び続けても、心は乾いたまま一向に潤いはしなかった。強がってみた処で所詮仮の自分。想い続けたところで解消しきれないもどかしさを埋める為に彼を利用した。女には困っていなさそうだったし後腐れない関係を望んでいたが、其れは私の方だけだったようで…悪いことしたなぁ、なんて言葉を呟いてみたところで罪悪感はなくなりやしない。

そんな私の心を抉るかのようにあの男に魅了されてしまったのだから、もう笑うしか無い。同い年で童貞だった・・・彼は、私を蝕んだ。十四郎との関係を勘違いされ、一方的になった彼を受け入れたがそこに愛は無かった。私のことを好いている筈なのに何も感じられず、虚しさだけがそこにあった。女を知らないとひとりでに決めつけていた彼は想像を遥かに超え、そればかりか私色に染めてしまいたいという欲望に駆られるなんて…嗚呼もうどうして、こんな事しか考えられなくなったのかしら。

―――もし明日死ぬとしたら、最期に抱かれるのはあなたがいい。

掴み損ねた彼の心を、私の我儘で誤魔化した。
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