らぶはぐ | ナノ

澄んだ瞳で濁りきった微笑みを

「…はは、はっ。あぁ、もう笑うしかありませんねぇ。生きていたなんて、」


青年、ここの頭の足音がアジトに響く。ほんの数日前、死にそうな顔で奥さんに逢いたいと云っていた男と本当に同一人物なのだろうか。最も、死別という前提なのだからその意図が解らんし、解ろうとは思わん。廊下を挟んだこちら側にまで聞こえる程声高に、気持ち悪ささえ感じるくらいだ。

この件については探りを入れない方が良いと考えちゃいたが、この様子じゃどうも腑に落ちそうもない。女がどれだけ不憫か。若くして愛する者と死に別れ、あまつさえその者がせせら笑う。冷ややかに蔑んだような口元をしているに違いないのだ。そんな男と再会したとてどう対応しろと言うのだ。ぐるぐるを巡る考えを消化しきれないうちに、どうしても聞いて欲しい事があると襖越しに話しかけられ咄嗟に書類を片す。


「…今日はやけにご機嫌ですね」
「えぇ、先日話していた妻に逢えたもので…」
「それでどうだったんですか、」


よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに男は濁りきっている目を澄ませ、話し始める。


「淡白な人だとは思っていたんですけど、未だに私の墓参りをしてましたよ」
「……愛されてたんですね、」
「どうでしょうね。生きていた・・・・・頃は私ひとりだけを見て欲しくて、彼女を閉じ込めてしまいたいくらいには嫉妬していましたよ。だから試すように死んでみた、でもいっその事愛なんて無ければ良かったのかもしれませんね………」


小さな沈黙の後、最後に悲しく溢した言葉に俺は動揺を隠しきれなかった。と、同時に耳を疑わざるを得なかった。

―――これじゃぁ殺しにくいじゃないですか、
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