独 琴 ◆ウィルたん
Wilma・ウィルマ
覚者。 貧しい家に生まれ育ち、幼い頃から体が弱く、大人になっても周りの人間から比べて随分と華奢な体をしている。だが、その体と反比例して精神はしっかり芯が通っていて図太い。 エルの記憶にはなかったらしいが、彼の放浪時代に一度だけ面識がある。花をもらった(17)
覚者に選ばれたのは、ほんの些細な偶然からだと彼女は言う。竜が来て、その場にいて、立ち向かっただけ。 人はその“ほんの些細な偶然”の事を時々“運命”と呼ぶが、彼女はそれを嫌った。 反乱軍の旗印となったのも、ただの偶然。 貴族に反発し、お尋ね者になったから。
彼女を反乱軍の旗印にした側の人間は、ただのお飾りくらいにはなるだろうと考えていたようだ。だが彼女の働きは想像を上回るもので、反乱軍が急成長するきっかけにもなった。 白銀の鎧を身に纏い、戦場を白馬で疾駆するその姿を、人は親しみを込めて白百合の騎士と呼んだ。
エルと再開した時、最初出会った時とは違い、なんだか棘があるように感じた。彼の眉間に、深く皺が刻まれた所為かも知れない。それに、聞いた話によれば、遊びほうけていた昔とは違い、今は真面目に“貴族”をやっているそうだ。気苦労も多いのだろう。 正規軍の内部で暗躍し、情報を流してくれると約束して帰っていく後ろ姿を見送り、ふっと溜息を吐く。心配、だった。
ある事件が起きた。それは些細な事だったが、民心が爆発するには充分な事件だった。 正規軍と決別し、私兵を率いて合流するエルの姿を遠目に見、彼女は小さく疑問に思うのだ。この戦いに勝った後、自分に国を治められるような器量があるのか、と。 王とは、あのような風格、器量、才能がある者がなった方が良いのではないかと。 エルは傍らで参謀として働くようになったものの、距離が近くなった分だけ、胸に抱く疑問は大きくなって行った。
そんな折、再び竜が姿を現した。 自分の心臓を抜き取っておきながら、我が元へ来いと言いながら、どこかに引きこもっていた竜が。 良い機会だ。彼女は一通の手紙を残し、陣営を密かに抜け出した。 後は参謀殿に一任する。
相棒と二人、竜の座へ……
山を見上げる。大きな山だ。視線を下ろし、一つ溜息を吐いた。 すると、背後から聞き覚えのある声がする。ううん、振り返ってはいけないのだ。 彼女は前へ、足を踏み出そうとした。だが、声の主が肩を掴む。 エルの顔が、視界に入った。
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