小説

どうなってやがる!ふざけるな、俺以外の奴に抱かれるなんて、例え夢であっても許せない!
ベッドの上で荒い呼吸を続けるナマエの手を握り、耳元で懇願するように叫ぶ。
「お前は俺の女だろ!」





* * *





「今日は特別任務だよ!西棟と東棟、それぞれ二人ずつに分かれて呪霊を祓ってもらう。先に全部祓ったチームに今日の晩飯メニューの決定権をあげちゃうよ!」
いつもの如く、ムダなハイテンションでいぇい!いぇい!とポーズを決める五条先生と盛り上がる虎杖釘崎を尻目に、ナマエを見遣る。ポカンと空いた口はいつもと変わらないアホ面で、バレないよう小さくため息をついて病院へ足を向ける。
ナマエは俺たちの中で一番弱い。釘崎のように戦い慣れてもいなければ、虎杖のような無鉄砲さもない。どこにでもいるような、普通の女の子。入学時より俺にまとわりついて離れない、まるで犬のような彼女に気づけば惹かれていた。
大切な人を守りたい、入学理由を問えば悲しげに伏せられたまつ毛に、深くは追求しなかった。弱くとも必死に食らいつく姿、決して弱音を吐かない辛抱強さに守ってやりたいと思うようになった。だから告白された時には、断る理由がなかった。
「玉犬」
影から姿を現した玉犬と共に病棟入り口をくぐれば、妙な気配を感じる。与えられた事前情報では低級だけのはず。ナマエへ警告しようと後ろを振り返れば、突如視界を奪う低級呪霊の群れ。玉犬に指示を出して祓えば、視界の端でナマエが倒れる様子がスローモーションのように流れる。
「ッ・・・!ナマエ!おいっ!しっかりしろ!」
いくら声をかけても眠ったように動かない。抱きかかえたまま入ってきたドアを開けようと力を込めるが、びくともしない扉に苛立ちが募る。
「クソッ!」
ナマエの意識を奪った呪霊がどこかにいるはずだ。そいつを祓えば恐らく術式が解ける。そうと決まれば時間がない。玉犬を一頭ナマエの側に残し、愛する者を守る為に病棟の奥地へと足を向ける。誰の女に手出してるのか思い知らせてやる。





* * *





「あちゃー、完全にあてられてるね。まっ、大丈夫でしょ。恵はナマエ連れて高専に戻りなよ」
「対象の呪霊は祓いました、早くなんとかしてください」
「できるならとっくにやってるよ。ナマエは今、夢を見てるんだ」
「夢?」
「そっ。己の欲望を忠実に再現した夢。まぁ、夢は夢と言っても、淫夢なんだけどね」
「ふざけるなっ!」
「それより恵、どうしてナマエのこと追いかけなかったの?グッとこなかった?」
なんでアンタが知ったような口を聞くんだよ。目覚めないナマエに呑気な五条先生に苛立ちは募るばかり。五条先生じゃダメだ、早く家入さんに見せたほうがいい。少し離れた場所で車と共に待機している伊地知さんの元へ向かえば、風が五条先生の言葉を微かに届ける。

僕からの最後のアシストだよ、恵

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