この教室では"暗殺"という行為が許されている。教師でも親でもない。国からだ。しかもどちらかというとお願いされていると言った方が正しい。椚ヶ丘中学校別校舎3-E。本校舎組の見せしめの為に、モチベーション維持の為に作られた一クラスが地球の危機を救うことになってしまった。そんな不運なのか幸運なのか分からないクラスへ本校舎から落ちた、という偽装をして潜入し暗殺に加われと指令を受けたのが半年前になるが、今は上手く溶け込んで学校生活を送っている。ちなみに私に白羽の矢を立てたのはリボーンだ。綱吉が中学に上がるまでには殺しとけよと脅されながら資料を渡された時には、大きな溜息が溢れた。

「おや、浦原さん。余所見とはいけませんねぇ」

いい天気だな、と外を眺めながら欠伸を噛み殺していると声が飛んで来た。黄色いタコ、ころセンセーは恐ろしく速い。声を掛けた時には教壇に居たはずなのに、視線を窓から戻すと私の席の真横にいた。私の本気の瞬歩とどっちが速いのだろう。何度も思って何度も試そうと思ったが、万一の切り札になるのではと思って未だ使えていないでいる。そう、使えていないでいるということはこのマッハ20に負けるかもしれないという気持ちがどこかにあるということだ。夜一に知られたら殺される。だから、この暗殺が終わるまでは義母様のいる浦原邸にはなるべく行かないようにしている。一応ボンゴレの仕事として来ているので、ボンゴレが借りたマンション住まいだ。ちなみにワンフロア貸し切りだ。私が和テイストの部屋じゃないと落ち着かないと思い込んだコヨーテの心遣いである。値段は考えないことにして、素直に嬉しかったのでありがとうとお礼を言ったら彼も嬉しそうにしていたのでこの件は丸く収まった。この仕事が終わったらこのフロアは売り出すらしい。そういうところはちゃっかりしている。

「だって、いい天気じゃないですか。室内にいるのが勿体無いですよ」
「そうですねぇ。先生も日向ぼっこは大好きですが、今は歴史の時間。天人が幕府と条約を結んだお話です」

その言葉に再び窓の外に視線をやる。それにセンセーは焦ったようにニュヤッと言って再び私の名前を呼んだ。

「なぁに、センセー」
「前から思っていたのですが、歴史嫌いですか!?先生の話面白くないですか!?」
「面白くない…と言えばそうね」
「ニュヤッ!?」

隣のカルマが笑っている。というかクラス全員が面白がって本格的にこちらを見始めた。私は偶にこうやってセンセーをいじる。専ら歴史の時間に。だって、私はその時代を生きた人だ。真選組の一人として、江戸を守り天導衆に喧嘩を売った。それが単なる活字になって、中立的に書かれているのが何となく気にくわない。その中には勿論真選組のことも書いてあるし、私のことも書いてある。だから名字だけ変えた。ちなみに副長達のはあるのだが、幸いにも写真はない。というか後々面倒なことになると思ったから写らないようにしていた。大正解だった。
再び瞬き一つの間に教壇へと戻りチョークで黒板をコツコツと叩きながらころセンセーは熱弁を振るう。

「いいですか!浦原さん!幕府は、地球の人間の命を守る為にこの条約を結んだのですよ。江戸幕府が地球上全員の命を救ったのです。日本人が誇るべきことだとおもいませ、」
「成る程確かにそういう解釈もあるだろう。だが、実際結ばれたのは幕府のトップである征夷大将軍を天導衆の傀儡人形とし、侍から魂と言える刀を奪い、未知の生物に情けなくも頭を垂れる不平等条約だった。代わりに与えられた進みすぎた文明に、腰の重みを忘れ、誇りも忘れた侍の落ちぶれ様。それを見た未だ矜持を持ち続ける侍がどれ程悔しかったか。今の時代一体誰が理解出来る。分かったような口を利くな。分かったように"あいつら"を語るな」

死にたいのか。
そう言い捨てた時には私は教卓に座っていて。右手に持つ対センセー用に作って貰った刀を迷わず横一線に薙いだ。
初めて瞬歩を使ったし、初めてこの刀を使った。剣道をやっていたからその方が攻撃し易い、と烏間さんにお願いしておいたのが漸く役に立つ時が来た。途中から様子を見ていた烏間さんはやっと使ったかと溜息をついていることだろう。いや、そんな場合でもないか。
私が放った攻撃は奴の首に2.5センチ程食い込んだところで、急に手応えがなくなった。目では追えないが、霊圧で追える。マッハ20での移動地点、教室後方に私も瞬歩で追い付き、そこにまた刀を振り下ろす。慌てて自分の洋服で白刃取りをしたセンセーに左腕に隠し持っていたナイフを出して刺す。狙いはネクタイの下。そこだけやたらと霊圧が密集しているのは確認済みだ。そして、この攻撃を止められることも。フニョンとふざけた感触で掴まれた左手からナイフをポロリと落とすと、人差し指をネクタイへと向けて呟いた。

「【白雷】」

直後、床に穴が空いたのを確認して、鬼道の発動速度を上げるべきなのかと思える辺り、少し冷静になったか。
そこに戻るのも三度目になるのだろう。教壇に呆然と立って首を抑えて私を見るセンセーに刀を鞘に収めながら、ため息を一つ吐いた。

「言ったでしょう。歴史は嫌いだって」

いや、嫌いってレベルが違ェーよ!!と我を取り戻したクラスメイトが揃って叫ぶまで、あと5秒。

[ 1/8 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]