17 ホグズミードでのクリスマス

最近できた話題の喫茶店 マダム・パディフットのお店は、なんとも言えない独特な雰囲気を醸し出していた。カーラやリーマスが来るにはまだ少し早かったのかもしれない。壁という壁がピンクや赤のフリルで彩られ、ハートの風船がふわふわと浮かんでいるその様子は、大人のカップルには素敵に感じられたかもしれないが、二人にはちょっぴりへんてこに見えた。可愛いを詰め込んだような内装はカーラの好みでもなければ、リーマスの好みでも絶対になく、そこらじゅうカップルだらけで見つめ合ったりキスしている中、まだ一年生の二人が昼食をとるには少々落ち着かない空間だった。

早く出ようという暗黙の了解で、紅茶とサンドイッチを急いで丸呑みした後、カーラとリーマスは魔法用具店や洋装店を見て回り、友人や家族へのクリスマス・プレゼントを時間をかけて選んだ。

まず二人が向かったのはダービシュ・アンド・バングズ魔法用品店だ。カーラはここでマルシベールにドラゴン革のブックバンドを買った。取っ手つきで持ちやすく、教科書の扱いが雑でいつもバラバラと落としているマルシベールにぴったりだ。それに、同室のゾーイとアマンダには占い機能付きのスノードームを選んだ。たくさんの種類があって迷ったが、薄紫色の薔薇が散りばめられたのはゾーイに、桃色の蝶々が舞っているのはアマンダにと決めた。その次はスクリベンシャフト羽ペン専門店で、リリーに百合の香りのインクと緑色の綺麗な飾り羽ペンのセットを購入した。うっとりするような華やかなインクの香りが、リリーのイメージにとても合っている。

ホグズミードに住んで数年経つので、カーラはほとんどのお店をよく知っていたが、クリスマスシーズンのショッピングは格別に楽しい。リーマスと二人で色々なお店を巡ったが、グラドラグス魔法ファッション店で買ったものが一番多かった。ロスメルタには小さな赤い薔薇が連なったブレスレットをカーラとおそろいで買った(自分用のは白いデイジーにした)。ロスメルタの父親であり、カーラの面倒を見てくれているエディおじさんにはシックな銀色のカフスボタンを、エバンには青い石のついた銅色のタイピンを選んだ。深い青色の石がエバンの瞳の色に似合いそうだと思ったのだ。リーマスへのプレゼントも同じ店で買った。上質で暖かそうなチェック柄のマフラーで、紺と茶の落ち着いた色合いがリーマスにぴったりだ。カーラとリーマスは互いのプレゼントを事前に見てしまわないよう、店内では別行動をしていたので、リーマスに知られずにこっそりとマフラーを購入することができた。

クィディッチチームのブランドン・ノットとジャネット・ザビニの二人とは、スラグホーンパーティーで知り合ってからまだ数日と経っていないのでプレゼントを用意するかどうか迷ったが、相手から貰ったのにこちらは何も用意していなかったという気まずい事態は避けたい。二人に気を遣わせない程度の贈り物で、嫌いな人もいないものといえば、ハニーデュークスしかないと思い、ノットとザビニにはクリスマス仕様のお菓子セットを選んだ。

一番時間がかかったのはセブルスだった。初めはグラドラグス魔法ファッション店で防寒用の手袋などを買おうかと思ったが、セブルスは全く持ち物にこだわりがない様子なので、好みが分からない。趣味に合わないものをプレゼントしてがっかりさせたくはないけれど、一体何なら喜んでもらえるのだろう?カーラはセブルスのことをよく知っていると思っていたが、意外と知らないことが多いことに気付かされた。悩みに悩んだ挙句、学術書物専門店の隅に埋もれていた『呪文の深奥──新たな魔法を生み出す』という古い本を選んだ。店長に呪文開発に役立つ本はないか聞いたところ、危険な遊びをしようとしてるんじゃないだろうねと訝しがられながら出してくれたのがこの本だった。店長いわく数十年前に出版された名著だが絶版になっていて、ホグワーツの図書館にもない貴重な本だということで、その一言が決め手になった──図書館にある本なら、セブルスはきっと大方読んでしまっているだろうから。

一日かけて皆へのプレゼントを選び終えた時にはもう夕方で、カーラもリーマスもくたくただった。両手に抱えたプレゼントを郵便局のふくろうを使って送り出し、空っぽのお腹をぐうぐう鳴らしながら、その足で三本の箒へ向かった。





* * *





三本の箒でのクリスマスイブ・パーティーは、それはそれは楽しいものになった。ロスメルタはいつも以上に腕を奮ってごちそうを用意していたし、バタービールや蜂蜜酒を楽しみに来たお客はカーラの大好きなホグズミードの住人たちばかりで、皆カーラやリーマスにホグワーツでの生活はどうかと声をかけてくれた。ロスメルタのごちそうはクリスマス・プディングや熱々のステーキ・キドニーパイ、七面鳥のローストにトライフルなどカーラの好物ばかり。おまけに、普段はまだ早いと言って飲ませてくれないバタービールを特別に一本空けることを許してもらえたので、カーラはこの上なくご機嫌だった。

「ルーピンおばさん、お身体はもう大丈夫ですか?」

カーラはローストポテトを山盛り取り分けながら、リーマスがいつだったかおばさんの体調が悪いと言って学校を数日間休んでいたことを思い出した。隣に座っていたルーピン夫人に何気なく問いかけると、ルーピン夫人は素早くリーマスに目配せして──ほとんど気づかないほど素早かった──カーラに「ええ、すっかり良くなったわ。ありがとう」と微笑んだ。カーラはほんの少しだけ引っかかったが、その後ルーピン夫人からホグワーツの授業について質問を受けたので、些細な違和感はすぐに忘れてしまった。

「カーラは飛行術が上手だと聞いたわ。前に村の外れでリーマスと一緒に飛んでいるのを何度か見たけど、とっても速かったものね」
「実は休暇が明けたら、寮のクィディッチチームの試験を受けようと思っているんです」カーラははにかんだ。
「まあ!それは素晴らしいわね」ルーピン夫人は嬉しそうに顔を綻ばせる。
「リーマスは来年、チームに立候補しないの?」カーラはリーマスに問いかけた。
「いや、僕は……カーラやジェームズほど上手じゃないし、人前でプレイするのには向いてないよ」

リーマスは控えめにそう答えたが、カーラとしては是非ともグリフィンドールのチームでプレイしてほしかった。そうすれば、ライバル同士にはなるが、来年のクィディッチシーズンがもっと楽しくなることは間違いないのに……。それにリーマスは同学年の中でも飛ぶのが上手だし、周囲をよく見ているので、チェイサーなんかに向いているとカーラは思っていた。

「学期末の試験は上手くやれそうかい?」
「あなたったら。まだ学期の半分しか過ぎていないのよ」

蜂蜜酒で上機嫌のルーピン氏が二人に笑いかけると、ルーピン夫人は気の早い夫に呆れたように笑った。

「うーん、勉強は嫌いじゃないけど私は箒で飛ぶ方が……」カーラが言い淀む。
「そろそろあなたも自分の箒を持ちたい頃ね。違う?」ロスメルタが追加の七面鳥を持ってきて話に加わった。

カーラは飛び上がってロスメルタを振り返った。カーラの聞き間違いでなければ、今、箒を持ってもいいと言ったように聞こえた。

「えっ、箒?もちろん!買ってもいいの?」
「ふふっ、実はもう……。いいえ、明日のお楽しみね」

ロスメルタは意味ありげに笑って見せた。カーラは両手で掴んでいたチキンを放り出してロスメルタを問い詰めたが、ロスメルタは明日の朝まで待った方が楽しみは大きいと言い張って、詳しくは教えてくれなかった。

これまで使っていたロスメルタのお下がりのコメット180も悪くはないが、自分だけの新しい箒という響きには敵わない。カーラはリーマスと二人で何の箒をプレゼントしてもらえるのか予想しながら、1日早いクリスマスディナーの続きを楽しんだ。

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