助けられた女の子がストーカーになる
私の人生史上、1番ヤバイ。

なぜそんな事が起こったかというと、それは私の性格に原因があった。
私は元来、とんでもない人見知りで、コミュ障だ。人と喋ると100%の確立を誇り吃るし、目線はどこを見て良いのか分からない。いつでも怖いからうつむいて過ごし、人と関わりを持ってこなかったからか友達もいない。
ただ、家がそこそこお金持ちということもあって、お財布にはいつも一万円札が常備されていた。
ーだからか、クラスのギャルに目をつけられたのは。
かつあげだけで済んでいればよかった。寧ろそれで私の身の安全が確保されるなら、お母さんには申し訳ないけど、私自身趣味もなければお金の使いどころもないので、許してほしい。

でも、お金を毟るに飽き足らず、わたしはギャル達によって窮地に立たされていた。ギャルたちは、笑いながらいま目の前でスマホのカメラを構えている。
そして私の腕をつかみ、服を破くのは見知らぬヤンキーだ。
ヤバイ。ヤバイ。これはヤバイ。


「あははっ!色気のないパンツ〜〜!!」
「なに〜〜泣いてんの〜〜?!初めてアンタが泣いてるとこ見たんだけど〜〜!!」

「お、オイ。本当にいいんだよなっ!?」
「いいよぉ〜〜?アンタヤンキーの癖に童貞なんでしょ??筆下ろししてもらいなって!」
「この子前髪上げれば全然イケんじゃんっ…悪いな、ラッキーって事で。」


趣味が悪いにも程がある!!
パンツはたしかに3枚千円の綿パンツだし、ブラも申し訳程度の細やかな胸を支えるべく買ったやっすいやつだが!!それを差し引かれてもわたしがこんな目に合うのはおかしいじゃないか!!

「や、や、や、やめて、やめてくださ、い…っ!!ごめんなさい、ごめんなさいっ!おかね、おかねならあげますからっ!!お願いです!!やめてください!!」

勇気を振り絞り声をあげても、ギャルはキャハハッと笑うだけ。ヤンキーはハアハアと鼻息を荒くするだけ。ここは外であり路地裏。是非とも場所を考えて頂きたい!!!

私の性格がもっとはっきりしたものだったら良かったのか。そしたらギャルにも目を付けられず、こんな目にも合わなかったのか。

べろり、べろりとヤンキーの舌は私を首や耳を弄る。ーー気持ち悪い。こんなに知らない男性の舌とは気持ちが悪いものなのか。

涙が出てくる。バタバタと足を動かし抵抗するが、高校生とはいえ男性に馬乗りになられていたらなす術は無い。この際舌を噛みきり死んでやろうか。


「っきゃあ!!!なに、すんの、!!」

そんな死を覚悟した刹那。
いつも聞こえるギャルの悲鳴が聞こえた。ばきっと鈍い音が聞こえる。数回。同じような音が聞こえて、私の身体も軽くなった。

「テメェら何やってんだ!!!」

怒声。
私の上の男の人が見る見るうちにその突如現れたその男の人に殴られ、顔が変形していく。横を見ればギャル達のスマホは大破していて、怯えたように震えていた。
何が起こったのか分からない。分かったのは、どうやら私はまだ死ななくて良いということだけだった。


________


わたしを虐めていたギャルはいつのまにか居なくなり、襲っていた男の人は倒れている。颯爽とやってきた男の人は自分の着ていた上着をそっと私にかけてくれた。
ーキラキラする。すごく、キラキラする。

「…アンタ、大丈夫か?」
「好きです!!!!!!」

「…はぁ??」

私は、生まれて初めて恋をした。


____________



「一郎くん一郎くん一郎くーーーん!!今日は一郎くんの好きなラノベの最新刊を持って参りましたので是非にお納め下さい!!」
「あー、悪い、それもう今読んでる」
「なんですって…っ!!もうダメだわたしはゴミだなんで一郎くんが買う事を予想しなかったんだもうダメだ死ぬしか無い」

「お前なぁ…。ハァ。保存用、欲しかったから貰ってもいいか?」


一郎くんは溜息をついた後に、呆れたように笑って私の頭をポンポンと撫でてくれた。
ーシンデモイイッ!!

私がこうなったのは、あの事件の後。私を助けてくれた一郎くんに一目惚れをして、しつこくしつこく求愛行動を取った事が始まりだった。イケブクロディビジョンに学校帰りに必ず寄り彼を探し、見つければストーキングをして、彼が欲しいものを調べ上げそっとお供え物のようにポストへと投函した。
そんなわたしのストーカー行為に激怒した弟さん達によって捕まえられ、一郎くんの目の前に罪人のように正座させられたのが最近のこと。
一郎くんは、プレゼントありがとう、と神のような言葉をくれて、わたしを許し、そんなに俺が好きなら友達になるか?と声をかけてくれた。

それから、今までの私はどこにいったの?ってくらい急変した性格。それは私を虐めていたギャル達を跳ね除けるほどであったらしい。


【あなた達にお金をあげるくらいなら一郎くんのために漫画やゲームやブルーレイを買って貢ぎたいですしなにより一郎君のライブにも行かなければならないので一切無駄遣いが出来ないんですこれ以上わたしに付きまとうのであれば然るべき所に相談してあなた達の親から根こそぎ慰謝料奪い取りますけどよろしいですか??悲しくもわたし、親の力もありその辺の体力はめちゃめちゃあるので。ただ、出来ればやりたく無いんです。一郎くんは自立してらっしゃいますし、わたしもバイトをして稼いだお金で一郎くんに貢がなきゃいけない。そう思ってるので親のお金はもう頼りたく無い面がありまして。
ちなみに今までのいじめの証拠や音声なんかもすべて撮ってあるのでそうなったとしてそこそこ貴方達に不利ですよ??それでもよろしいですか??あ、そろそろ一郎くんが欲しがってたラノベの最新刊情報が解禁なのでチェックしなきゃいけない!すいません、お暇いたします。それでは。】


そのノンストップ一言からギャル達はわたしに近寄らなくなった。
なんともありがたい話だ。恋する乙女は強いというのは本当だった。
あんなに人と喋るのがいやだった私は一郎くんのためにアルバイトを始め、目を見れなかったのも一郎くんの目を見るために克服した。
わたしを人間にしてくれたのは一郎くんだ。

そんな一郎くんのお陰で人間となり、一郎くんの優しさで友達へと昇格したわたしは、ご迷惑にならない範囲で家に遊びに行く。それは、友達だから。


「ねえ、一郎くんは、どうしたら私の事を好きになってくれますか?」

「んー、俺に貢ぐの辞めて、ストーカーもやめて、匂いを嗅ぐのをやめたらだな」
「貢ぐのもストーカーも匂いを嗅ぐのも辞められないので、無理そうですね…」
「いや諦めんなよ…それに、黙ってストーカーするなら普通に連絡して普通に遊びに来いって言ってるだろうが」
「なので、今日は普通にご連絡して普通に玄関からお邪魔致しました!偉いですか!」
「おーおー偉い偉い。俺はラノベを読みたいからちょっと静かにしてようなぁ」


ぐい、っと膝の上に私の体を押し付けて、一郎君は読みかけのラノベを読み始める。
私はうつ伏せで一郎くんの膝に乗ることになってしまった。あーもうほんとに…この人はどこまで優しいんだろう。

あの襲われた日。
彼はあのまま家に招いてくれて、暖かいシャワーと綺麗な着替えを貸してくれて、コンビニのおにぎりまで振舞ってくれて。


【アンタ、その長い前髪上げてた方がいいと思うぜ?それに、普通に喋れんじゃねぇか。
イジメが辛いなら戦え。黙ってるだけじゃなんも変わんねぇぞ??】


笑った彼はすごくキラキラと輝いていて、私はキャパ越えでその日そのまま鼻血を出して倒れた。その日から、私は山田一郎信者となった。

あまりにも私が好き好きうるさいので、一郎くんは諦めさせる事を若干諦めている。
私も私で、たまにこういう一郎くんタッチのご褒美がもらえるのでどうしても辞められない。
彼女になりたい、だなんて大それた願いは心に仕舞い込む。
たまに、こうやって触れる事を許してくれれば、わたしはそれで幸せなのだ。


「一郎君」
「んー?」
「好きです。大好きです」

「知ってる。」

ラノベを上げて、悪戯っぽく笑う一郎くんに、わたしは再度鼻血を出した。








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