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柔らかな陽がカーテンの隙間から差し込む。それはまるで、仄暗い部屋に天国の階段を連想させるかのような光柱だった。外ではヒバリが囀り、木々の根元には庭師が施したのであろう花壇の花が朝露に打たれていた。

こんな春らしい爽やかな朝だというのに、この部屋の主は未だ夢の中。余程良い夢を見ているのか、幸せそうな笑みを浮かべ時折寝言を言っている。

「……まぶしい」

カーテンから差し込んだ光が彼女の目元を照らす。
呂律の回らない声を出しながら寝返り打つと同時に手探りに落ちかかった布団を引き戻す。徐々にフェードアウトしていく視界。再び夢の世界へと入ろうとした途端、いきなり目蓋の向こう側が暗くなった。いや、正確には光を何かに遮断されたと言うべきか。

んん…と言葉にならない声を出しながら、油を差し忘れたブリキのようにギシギシと目蓋を開ける。
段々と鮮明になっていく視界。それと伴い影の正体も分かってきた。


「おはよう。お寝坊さん」


そうおっとりとした口調でこちらを覗き込むのはマンちゃん。

「ああ、おはよう......えっ?!」


鼻が触れ合うほどの至近距離に驚いてしまい、勢いよく起き上がる。だが彼の存在を思い出し、不味い!と目を閉じ衝撃に備える。だが────

痛くない......

いつまでたっても訪れることのない激痛。不思議に思い恐る恐る瞼を開いてみれば近くに置いてある椅子に腰掛けていた。
まさかこの人、私の咄嗟に攻撃を避けたの?
でも、どうやって……ええい、そんなことよりもまず先に苦情を言わねば。


「近いよ!びっくりするじゃない!」
「だってえ。エレナが中々起きないから」
「他にもっといい起こし方があったと思うんだけど」
「王子様との熱いキスとか?」
「はあ......」


ニタニタと意味深な笑みを浮かべては、勝手に舞い上がっている。ため息がこぼれた。
そんなことされたら、心臓がいくつあっても足りないよ。普段現実的な事しか言わないくせして根はロマンチストなのよね、この人。


「あ。そうそう、朝食できているよ。今日はガレットだって」
「本当?! 」

ベットから身を乗り出し、



「うーん、だけどエレナが起きてこないからエレナの分まで食べちゃった」
「え…マンちゃん、酷い」
「なーんて。冗談。ちゃんと取ってあるから。でも早くしないと冷めちゃうよ」


よいしょと言い椅子から立ち上がると扉の方へと向かう。扉の前まで来ると、こちらを振り返り口元を指さし、「涎ついてる」とそう悪戯げに笑いながら告げ、部屋を後にした。


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