のっぽちゃん目をつけられる

杜王町を一望できるスポットがあり、かつその山には色々珍しい生き物が出るという噂に引き寄せられ、普段は行かない山の奥に行ったのがそもそもの間違いだった。
河原に着いた時に、林の奥で何かが動いた気がしたのだ。
まぁこんな平凡な街の平凡な山に出る珍しい生き物なんてハナから期待なんてしちゃいなかったが、この際ウサギでもなんでもいい。
獣道を分入って、大きな岩の近くまで来た時に、開けた視界に杜王町の景色が見えた。
なかなかいい眺めじゃないか。せっかくなら更に眺めのいい所でスケッチしてやろう。
なんて大岩の上に登った時に、朝露に濡れた岩の苔に足を取られたのは不覚だった。
あまりに予想外だった出来事に頭をしこたま大岩にぶつけ、自分はそのまま仗助の野郎に水をぶっかけられるまで気絶していた様だった。
起こすと痛む頭と、なんだか無性に腹が立つこの気持ちを仗助にぶつけてやろうとおもい体を起こそうとした時に、自分を必死に抑える康一君の代わりに、見たこともない野郎が自分の肩を掴んで地面に押し付けてきた。なかなか力の強いやつだが、なんだかくねくねしてて気味が悪い。
知らない奴に体を触られた嫌悪感を剥き出しにして素直にソイツに感想を述べてやると、外野からの非難の嵐。
あぁもう本当に心底うざったい。
こういうウザい動物の鳴き声は聞かないに限る。
それにしても康一君とこんなところで会うなんて運命を感じるな。流石僕の親友というだけある。









結局デカい男女に肩を借りて山道を降りるハメになった。
色気のかけらも無い体格の女に密着しても何も感じない。


「……えっと、いたくないですか?」
「…大丈夫だ。それより君ちょっと汗臭いぜ。本当に女なら僕を担ぐ前にそれくらい気をつけたらどうなんだ?」
「あぁ…はい、すいません」


ヘラヘラ笑うこの女は本当にデカイ。
担がれてから気付いたが僕よりデカイなこいつ。本当に女か?


「おーいのっぽちゃん!大丈夫か?代わってもいーんだぜ!」


少し先に進んでいる億泰が声を張る。女は大丈夫だと言い返すと、ここで休むからと僕を丁度いい大きさの岩の上に誘導した。
なんだか漸く捕虜から解放された様なそんな気分だ。
息をついて痛む後頭部をさすっていると、女は水とアルミホイルとサランラップに包まれたお握りを手渡してきた。


「いつから倒れてたのかわかんないですし、とりあえず食べてて下さい」
「……君が作ったのこれ?」
「……一応は女の子なんですよ」


取り敢えず腹は減っていたので女の渡してきたお握りに素直に口をつける。
なんか妙にしょっぱくないかこれ。微妙だな。


「えーっと、食べながらでいいんで、足を見せてもらっていいですか?支えててもここから体重かけちゃうと思うんで…」
「別に大丈夫だよ。必要ない」
「………まぁそう言わず。冷やすとかはもう今更ですし、私の為だと思ってお願いしますよ」
「あぁそう」


返事をするのも面倒になって適当に返事をしながら水を飲む。女は慣れた手つきで自分の足にテープを巻いていった。
背負ったリュックが四角く変形している。
おい、それはもしかして……


「おい!それは僕のスケッチブックじゃあないか!!そんなところに入れられたら折れちまうだろうが!?」


突然の剣幕に一瞬怯んだ女はすぐにまたヘラヘラと、笑ってるんだか困ってるんだかわからない顔をする


「あぁ……大丈夫ですよ、大事なものみたいだったんで、川遊び用に準備してた使ってないバスタオルに包んでしまってます。折れ曲がったりはしてないと思います………そういえば悪いなと思ったんですがコッソリ中を見ちゃいました。やっぱりプロの方ですか?凄い上手ですね」


テープを巻き終わった女がゴミを受け取って、改めて自分に肩をかす。


「……別に、プロなら当然だ」
「凄かった……時々読むジャンプに乗ってるあの漫画に似てます…私あの絵柄好きなんですよね、えっと……そうそう」


ピンクダークの少年でしたっけ?あー作者の名前は忘れちゃったンですけど。
目の前でケロっとしている。本当に気付いてないのかこの女。
だがしかしこの岸辺露伴の絵が好みなんていいセンスをしてるじゃあないか。スケッチ程度の僕の絵柄で似てるかどうかわかるなんて見処あるぜ。


「あ、ここ結構段差が大きいんで気をつけて下さい」


それにコイツそこそこ気が効く。
良く見ると時々大丈夫なのかこっちの顔色を伺っている。
女に担がれている奇妙なこの体勢もなかなか経験できることじゃあないしな。よく観察しておこうと思い、ジッと女の横顔を観察する。
せめて髪を伸ばせばそれなりに女に見えるかもしれないのにバッサリ切られたショートカットに、よく言えば中性的なんだろうかあっさりした顔立ち。それを至近距離で見ていると、何だか変な気持ちになってきた。
そういえば知らない女で、僕がとやかく言った後もこんなに親切にされたのはいつぶりだろうか。


「でも本当まだ足で良かったですね、手とかだと勿体無いですもん。スケッチブックに書いてた鳥の絵凄く良かったです………あの」


あんまりこっちを凝視しないでください。と細い声で言った女の言葉などなんのその。
ジッと見続けていると可愛げがあるじゃやあないかコイツ。
良く見ればまつげだって長いし、骨格も細いし女だ。
例えるなら、大型犬化したチワワ、巨大化したうさぎに背負われているような……そんな不思議な心地がしてくる。
そう思って見ていると、不思議と可愛らしい大きな生き物に見えてきた。
脳内に何時ぞやネットで見た馬鹿でかいウサギの動画が浮かび上がってくる。
馬鹿でかいくせにひくひく神経質そうに鼻を動かして耳を立てる姿と、こっちを時々チラチラ見てくる姿が重なってきた。
うん。なかなか可愛いじゃあないかコイツ。
気に入ったぞ。
家に着いたらコイツにはその時々読むらしい僕の漫画を特別に家で読ませてやろう。


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