のっぽちゃんはやさしい

町に近い大した高度の無い山だけれど、それでも山の空気は清々しくて気持ちよかった。
適度に歩きやすいよう組み木で作られた階段や軽く張られたロープは、この土日に高校生がまぁ行ってもいいかな。と思える運動強度の登山にしてくれている。
今年になって初めてできた友人達に、どこかに遊びに行こうと誘われた時はとても嬉しかった。どこでものっぽちゃんの好きなところに行こうぜ。といってくれた彼等に感謝しながらも、登山という選択をしてしまって軽く後悔していたが、下流へと流れていく川辺でズボンの裾をめくってはしゃいでいる彼らを見れば楽しんでもらえているようで安心した。
のっぽちゃんは山が好きだ。
昔から山で遊ぶ同級生はほとんどいなかったし、街や公園で遊んで目立つのが嫌だった。
多分、普通の人よりも引っ込み思案な自分は、堂々としていればいいのにどうしても自分に自信が無い。


「のっぽちゃん!お前も入ってこいよ!」
「うん…!私中に水着着てくるから、ちょっと裏に行ってくるね!」


そう言って慣れた獣道を歩くと、少し奥まったところにある大きな岩場の裏に回る。
小さい時から歩き慣れた山なだけに、のっぽちゃんは結構こういう便利な場所を知っている。完全にみんなから見られ無い事を確認してバックを置こうとした時に、コツンと自分の足に当たった何かの感触に気付いて、自分の足元を見た。


「……!?ちょっと!?大丈夫ですか!?」


地面に転がっていたのは、凡そ山に登るのにはふさわしく無いような、奇抜な白い服を着た男性だった。
まさか死体!?と思うと体が硬直したが、すぐに慌ててしゃがみ込んで体を揺らす。
うつ伏せから仰向けに転がして体位変換すると、ヘアバンドをした整った顔立ちに、思わず見とれてしまった。

(………すごい。かっこ、いい…!)

伏せられたまぶたの長い睫毛に見とれていた事に気付いて、思わずハッとしてから、改めて男を見た。
気絶しているようで息はしていた。
この大岩に乗って何かをスケッチしようとしていたのか、そばにはスケッチブックなどの荷物が散らばっている。
とりあえず覚悟を決めて、男の腕を肩に回して立ち上がった。
…………悲しいかな、この男も自分よりも背が低いようだ。











「うぉっ!?のっぽちゃん!?」
「おー…っ!?岸辺露伴!?」
「露伴先生!?」
「あれ。3人とも知り合いなの?」


自分が担いできた男はどうやら3人の友人だったらしい。
河原の砂利の上に寝かせてやると、ピクピクとまぶたは動くが起きる気配はまだ無いようだった。


「なんでまたこの人、こんなところに……?」
「うーん…多分先生の事だから漫画のスケッチじゃあないかな?」


心配そうに男……岸辺露伴さんを見下ろす孝一君に対して仗助はかなり冷たい。彼は自分の水筒のコップを使って川の水を汲んでくると、無情にもそれを男顔面に向かってぶちまけた。


「…ッ!?なんだッ………!?」
「あっ!?起きた!!露伴先生!!大丈夫ですか?」


どうやら効果はあったらしく、パチリと目を覚ました彼は、半身を起こして濡れた顔を片手で拭うと、定まってきた視界の中で仗助の姿を認めると思いっきり顔をしかめた。


「目ぇ覚めたっスか?」
「………東方仗助…!」


明らかにバカにしたように笑っている仗助に対して、起き上がって対抗しようとする岸辺露伴さんを康一君が一生懸命押さえつけていた。
申し訳ないがあまり効果はなさそうだ。
いよいよ康一君が弾き飛ばされそうになった瞬間、失礼ながら岸辺露伴さんの肩を片腕で思いっきり地面に押し付けてやった。


「もうちょっと寝てたほうがいいですよ、水分取ってください。どうぞ」


スッと、男と目があった。
やっぱり起きても男は凄く整った顔をしていて、そういえば男の人とこんな近い距離感で喋ったのは初めてだ!なんて一人ドキドキしていた。


「……うるさいなぁ、オカマ野郎。お前に指図される筋合いは僕には無い。とっとと手をどけろよ」


親切心でお茶の入ったボトルを渡したのに、帰ってきた予想外の罵倒に、のっぽちゃんは思わず持っていたボトルを地面に落とした。

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