のっぽちゃん

広瀬康一は、駅前で人を待っていた。
時刻は昼の12時。休日ということもあって人通りの多い駅で、約束した友人を携帯片手に待っている。待ち合わせ場所は目立つところが良いよね、と言って駅前の大きな時計の下を指定した彼女は言っちゃ悪いが自分の事をまだあんまりわかってないようだった。
約束の時間を5分ほど過ぎた頃に彼女は現れた。
道行く人から頭一つ抜けた彼女は、自分を必死に探しているようだ。逆にこちらからは、彼女の大きな背丈のおかげで大した努力をしなくても見つける事ができる。
彼女の元へ走って行ってやると、こちらに気付いた彼女はホッとしたように笑った


「よかった!遅れてごめんね!仗助達は?」
「仗助君達はまだだよ。それにしても
のっぽちゃん、今日のスポーツウェア可愛いね」
「本当に!?ありがとう!ピンクってなんだか勇気が要るよね!」


仗助君、億泰君、のっぽちゃんと自分の四人で山に行こうという話になったのは先週の事だ。最近仲良くなったのっぽちゃんにどこか遊びに行こうと誘うと、彼女は迷わず町に近く、そこそこ高さのある山登りを希望した。
白地に、細いピンクのラインが入ったアディダスのスポーツウェアは、素直に可愛いし似合っていると思って褒めたが、彼女は自分にはこういったものを似合わないと思っている節があるらしく、変じゃなくて良かった。となんとも複雑な喜び方をしていた。
ショートカットに、細身の彼女はよく男の子に間違えられる。僕も最初にスーパーでジーンズとシャツの彼女に会った時は男の子だと思っていた。
彼女の顔立ちだとか着ているものだとかより、その印象を強めているのはのっぽちゃんの背丈だった。


「おー!のっぽちゃん!康一!待たせたな!」


仗助君と億安君が大きく手を振りながらこっちに走ってくる。
急いで走ってきた二人は中々に息が切れてしんどいようで、膝に手をついて息を荒くしていた。
そんな二人にさりげなく水を手渡してやるのっぽちゃんは結構気の利く女の子だ。
そんな彼女の優しさもなんのその、億泰君は思いっきり水を飲み干して、ありがとうなのっぽちゃん、それにしてもまたデカくなったんじゃねぇのか!と失礼極まりない言葉を投げかけた。


「オイ!!億泰!」
「いいんだよ〜仗助君。そうなの、実は今日のシューズ結構底が厚いんだよね、よくわかったね」
「だろ?俺はそういうの鋭いんだぜぇ?そういやのっぽちゃん、お前どれくらいあるんだ?」


特に気にした風もない億泰君の、なんとなく今まで誰も聞けなかった疑問に僕らは息を飲んだ。のっぽちゃんは目測でもかなりある。
なんたって、仗助君達よりも背が高いのだ。


「ウーン、そうだなぁ、春に測ったきりだけど、182センチくらいかな?」
「マジか!?すげぇな!!羨ましいぜ!」


億安君がデカイ声で告げた感想に思わず同意する。僕にも分けて欲しい。切実に。
のっぽちゃんはちょっと困ったように笑ったけど、これ以上は伸びないと思うけどね、なんていって、気まずそうに頬を撫ぜるのっぽちゃんはやっぱり女の子だ。


「とりあえずもう行こう!今日はお弁当作ってきたんだ」


抱えているリュックを指差して、歩き出したのっぽちゃんについていく。
足も長いせいでズンズン進んでいく3人についていくのは大変だ。
いつも猫背気味な彼女の背が、今日はスッと伸びていた。

(楽しみにしてたもんなぁ、のっぽちゃん)

なんだかウキウキしている彼女の様子が嬉しくて、僕らは大股で進んでいく彼女を微笑ましく見ていた。

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