のっぽちゃんと手紙


「あの……背丈さん…!その…受けとって下さい」
「へ……?あ……私にですか?」


目の間にいる女の子は他校のブレザーを着ていて、ビジューと少しのレースがついた可愛らしい髪留めが、頭を下げた瞬間にキラリと光った。
彼女が巻き上げた風にのって、甘い香りが届く。
両手で差し出された桜色の封筒を手に取る。
のっぽちゃんが受け取った瞬間、小動物みたいに小さくて可愛い女の子はその真っ赤に色づいた頬を隠すこともなく大きく息を吸い込んでから口を開いた。


「あのっ……!私、今週の日曜そこに書いてある場所で待ってます…!来てくれますかッ!!」
「ハッ…はい!?」


見下ろして眺めていたのっぽちゃんはその少女から発せられた想像以上の大きな声に驚いて思わず、そう。反射的に声をあげていたのだ。













「マジかよのっぽちゃんよぉ〜!こりゃあ俺にだってわかるぜ!ラブレターってヤツだろこりゃあよぉ〜!」


露伴邸で響き渡る間の抜けた億泰の声に、思わず握っていた鉛筆がぶち折れる。
いつも通りバイトに来たはずののっぽちゃんが溜息ばかりつきやがるから、ここはひとつ浩一君の力をかりて上手いこと聞き出そう……としたはずが、いつもきて欲しくないときにばかり来る仗助や億泰までもがやってきた。
わぁわぁやかましく騒ぐ二人の声を辛抱していると漸く聞こえたのっぽちゃんの溜息の理由に、露伴は呆れるを通り越しソファーで深く脱力した。


「えー……っやっぱりそう思う?……まだ中は見てないんだけどね…そっかー…そうだよねー…」


ごくごく自然にこの四人の会話に混ざるため、あらかじめデッサンモデルをしろとのっぽちゃんに言いつけておいてよかった。鉛筆はへし折ってしまったものの、正座だとか、セーラームーンのあのポーズだとか、あざとい寝そべって顎下にグーだとか色んなポーズが見れてこれはこれで満足である。またやろう。
スケッチブックを大袈裟にしまいながら咳払いをすれば、漸く四人の視線は自分に集まった。それを確認してなるべく興味なさげにのっぽちゃんに向かって手のひらを差し出す。


「?」
「いいからよこせ。中を見ないことには真意がわからないだろう。大体万が一決闘の申し込みだったらどうする。お前にはそっちの方がお似合いだぞ」
「うわー…相変わらずえげつないですね…」
「ホラ。早く」
「わかりましたよー…どうせ自分で開く勇気なんて無いですし…」


のっぽちゃんの白い、やっぱり女の割には大きい掌が自分の掌に近づいてくる。
デカイ猫のでっかい掌みたいで良い。フニフニしてやりたい。多分絶対、大きい癖に女っぽい柔らかい感触がするに違いない。その動作がただ単に紙切れを渡すためのものだったとしても構わない。とりあえず紙切れさえ脳内から削除してしまえば、そこにあるのは自分から僕に手を伸ばすのっぽちゃんが……


「よっと」
「あ……!」


あと少しというところで、手が止まる。現実世界に戻れば、仗助がニヤニヤとカンに触るあの顔で笑っていてその手にはアッサリ奪われた例の封筒が収まっていた。


「おい……クソ野郎」
「まーまー。いーじゃんかよぉ、こういうのは露伴みたいなおっさんじゃなくて、仗助君に任せとけって」
「お前。単純に面白がってるだけだろう」


ヒラヒラとこれ見よがしに扇いでいた手紙の封を雑に開けると、軽い咳払いなんかをしながら仗助はそれを読み上げた。
仗助の声にどこかのクソ女の書いた頭の悪い文書は聞くに耐えない無惨なものだったので簡単に省略するとこうだ。


1、以前のっぽちゃんがバイトをしていたカフェで制服の彼女を偶然見かけ、何度も通ううちに気になるようになった(まずこの時点でこの女は見る目が無い。ギャルソンパンツののっぽちゃんが良い何て言うヤツは俗物の極みだ)
2、それから、いつも物腰が柔らかくてニコニコしているのっぽちゃんに惹かれていった(救いようの無い馬鹿女が。接客業なんだよ接・客?業!サービスに決まってるだろうがッ)
3、いつかお話したいと思っている間にバイトをやめられたようで、それからなぜ勇気を出さなかったのか後悔した。是非一度私とお出かけしてお話をしてほしい(図々しいんだよウジ虫女がァッ!今更後悔したってやり直すチャンスなんかお前にはもうないんだよッ!わかったらとっととそのなんでも都合よく解釈する恋愛脳を抱えて自分の巣に帰れ!)



「おいのっぽちゃんよぉ…!会いたいって書いてるぜ?」
「やっぱり…去り際に勢いでオーケーって言っちゃんだ……その子なんか凄く真剣で…言い出せなくて」



手紙を読み終わってから零した億泰の質問に明かされる衝撃の真実。
こいつ今何て言った。


「えっ……!のっぽちゃんじゃあ…この女の子とデートするの?……きっと、この子のっぽちゃんのこと…おとこのこ…だと思ってるんじゃないかなぁ…?」
「わかった!のっぽちゃん!オメェ女もいけんだな!」


浩一君の的確なツッコミに思わず強く拳を握る。
よく言った浩一君。それから億泰。お前は黙れ。


「前の制服ズボンだったし…勘違いされても仕方なかったかも……向こうもまさか、こんな大きな女がいるなんて思わなかったのかもだし…」
「で、どうするんだいのっぽちゃん。まさか行くなんて言わないだろうな?」


いつまでもうじうじ進まない堂々巡りの会話を繰り広げているのっぽちゃんに人差し指を突きつけてやると、しばらく虚空を見つめたあとにのっぽちゃんが出した結論はまさに愚の骨頂だった。


「……でも、行くって言ったのにすっぽかすのも、女でした、なんて暴露して終わらせるのもあの子に悪い気がする……きっと恥ずかしい思いさせちゃうだろうし………せっかく私のことを勘違いとはいえ好きになってくれたんだから、ちゃんとあの子が好きになった自分で断らないといけない……ような気がする」
「ッヒョ〜。まじかのっぽちゃん……お前いい男だよ……よしわかったぜのっぽちゃん、俺らがバレねぇように全力でサポートしてやるよ!」


バンバンのっぽちゃんの背中を叩く仗助に、ちょっと困ったように笑いながらのっぽちゃんはありがとう。とそう言った。
面白くない。本当に、こいつらが来ると不愉快な事しか起きないじゃあないか


「おいのっぽちゃん」
「何ですか先生?」
「僕も行くぞ」
「は……はぁ」



[ 12/13 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -