prologue

名前はずっと徐倫と一緒にいた。
一番古い思い出は幼稚園時代のもの。彼女は男の子たちにいじめられて泣かされていた名前を助けてくれた。幼稚園児ながら男の子達に飛び蹴りを食らわせながら視界に飛び込んできた徐倫はとても格好がよくて、最初は男の子だと思ったものだから名前を聞いてびっくりしたものだ。それでもそれ以降名前あっちに行こうと手を引いて、内気で人見知りな名前の世界を広げてくれたのは誰でもない徐倫だった。手を引かれてあちこち行く様は一方的に引きづられているようにも見えたかもしれなかったが、名前はずっと幸福で満たされていた。いつだって自分の前を行く徐倫は私の王子様だった。
徐倫が自分の名前を呼んでくれることが殊更嬉しくて堪らなくて、このままずっと一緒にいららればそれで十分な筈だった。
彼女は成長するに従ってとても美しい女性になっていき、意思の強いキリッとした涼しげな目元はいつまでも名前を魅了し続けた。
自分のこの思いが異常だと知ったのは中学に入ってからだ。14になった名前の地球の自転の真ん中にいるのはやっぱり徐倫だったし、二次性徴真っ只中の同級生達の色めき立つイケメンや男性教諭にも露ほどの関心も抱かなかった。ただそうした同級生をみては、いつか徐倫も自分から離れて行ってしまうのだという恐怖だけがジリジリと名前の心を焦がすだけだった。後述した通り名前は気弱な乙女であった。
高校一年の入学式。まだ見知らぬ校舎で徐倫に手を引かれて屋上に上がり、二人で高校デビューをしようとずっと短くしたスカートを抑えながら走った時。春一番の強風に乗った淡い桜の花びらが青い空を舞っている情景を二人で見て、ずっと胸は高鳴りっぱなしだった。こんな美しいものを一緒に見られるなら、やはり高校でもこの想いを隠して一緒にいようと思えた。だからこそ、徐倫の柔らかい体が屋上で名前を抱き寄せて、お揃いのリップの甘く柔らかい唇を合わせた時に、天にも昇る気持ちだった。
彼女も同じ気持ちだったのだと知れば、あぁこのまま死んでもいいと思えるほど幸せで、ずっと彼女と一緒にいよう。と決意したのだった。








「やだ名前、まだ動かないで」
「だって徐倫……ちょっとだけくすぐったいのよ」

高校が始まってまだ一ヶ月。徐倫と名前は早くも授業を抜けて、徐倫の部屋のベットで横になりお互いの爪を磨いていた。
徐倫がスカートを短くするなら名前も、徐倫がサボるなら名前も当然一緒だ。
名前の手を取って、目の細かい鑢でピカピカ担っていく様を見て徐倫は嬉しそうに微笑んでいる。

「名前、ママが置いていったサンローランのマネキュアがあるの。二人でお揃いよ」

徐倫の手の中には、モスグリーンのネイルカラーがキラキラと光を受けてエナメル質に輝いている。自分の爪にはもうすでに塗り終わっている徐倫は、そのまま名前の爪にブラシを落とす。
ヒンヤリとしたマネキュアの感触。
名前はふとこのマネキュアの持ち主であった徐倫のママの事を思い出す。
とても優しい人で、2年ほど前に徐倫の両親が離婚するまではよく三人で夕食を食べていた。

「ねぇ名前、今日も家には誰もいないのよ?親父は当分帰ってこないんだから、また二人で寝ましょ?」

指先を汚さないように宙に浮かせたままの名前の肩に徐倫が寄りかかる。
いつも凛としてカッコいい彼女のこんな可愛いお願いを、当然名前は叶えてあげる。

「明日は土曜日だもん。リビングで映画を見ながら、あのクソ親父のお酒を拝借しましょ、わー!楽しみ!」

クソ親父。と何度も徐倫は吐き捨てる様に言った。意外な事に離婚後彼女を引き取ったのは、名前も数える程しか会った事のない彼女の父親だった。名前もなんとなく、いい印象はない。
嬉しそうににはしゃぐ彼女は名前の頬に顔を寄せて、ぬいぐるみにする様にキスをした。

「好きよ名前」
「私も大好きよ徐倫…」

自分はずっとこの温かくて柔らかい、彼女で満たされた世界で生きていきたい。とそう思った。











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