ブルーシルエット





最近、彼女は変わった。と思う。


山岸由花子は、目の前でコーヒーを飲みながらペンを走らせるなまえをそっと盗み見た。

天井のシンプルだが上品なコッパーカラーの照明が、大理石のテーブルに反射してなまえの顔を照らす。
きらりと彼女の薄緋色のアイシャドウが光って、長い睫毛に丁寧に塗られたマスカラがキリッとした彼女の目元を際立たせている。

定期試験が近いから一緒に勉強会をしないかといったのは由花子の方だったが、なまえがそれに乗ってくるのは意外だった。
単に最近ベッタリだった徐倫がアナスイとかいう大学生の彼氏と一緒にいるようになったから。と思っていたが、まさか家に……それも彼女が義理の弟と暮らす家に呼ばれるだなんて、夢にも思わなかった。

無言で空になった茶器を下げるメイド達に戸惑ったそぶりも見せず、なまえは簡単なお礼を言ってお菓子を頼む。
随分様になっている彼女の、さりげない身のこなしが美しくなったのは、最近義父に通わされていると聞いた沢山の習い事のせいだろうか。


「……とても大きなお家ね、まさかここに招待してくれるなんて、驚いたわ」

そう素直に伝えると、なまえはペンを置き頬杖をつくと由花子を見つめて少しだけ気まずそうに微笑んだ。
肌にのせられた頬紅が上下する彼女表情合わせて動く。

「私もね、最近ちょっと、努力してるの」
「…そう」

その一言で、なんとなく彼女の言いたいことがわかった気がした。
新しく準備された由花子の紅茶がカチャリと、錆色の水面を波立たせながらテーブルの上にそっとのせられる。

なまえは、本当に綺麗になったと思う。
以前の幼さの残る彼女はどこへ行ったのか、大きく見た目が変わったわけではないが、余計なものを削ぎ落として洗練されたさりげない美しさがある。
綺麗に磨かれた爪だとか、以前よりも細やかに手入れされるようになった眉、変わった持ち物や以前よりカジュアルになった服。

休憩しよう、となまえは悪戯っぽく笑って 紅茶に口をつけた。

なまえと過ごす時間が多くなって改めて気がついたのは、彼女は自分が思っているよりもずっと強い人間だということだった。
母親が大変な今、以前のように揺らぐ生活をしていない彼女には何か覚悟のようなものすら感じる。
ようやく今なら、この話題にも触れられそうだ。
と由花子は口を開いた。

「そういえば、なまえ。最近ご家族とはどうなの?」

伏せられていた目があって、付け足すように言葉を続ける。

「…ほら、以前のようにあなたが出歩かなくなったし、すごく…今の環境に慣れているように感じたから」

気を悪くしないで欲しい。と口に出そうとした由花子の言葉は予想外のなまえの微笑みに飲み込まれた。

くっ。と笑った彼女は、凄く困ったようで、どこか柔らかい顔をしていた。

「……大丈夫よ、最近ジョルノとも遊んだりするし…下らない話も。家にたくさんメイドさんがいるのにも、ようやくね。凄くよくしてもらってる。ただ……」

言葉を止めたなまえは少しだけ首を傾けて、ため息ともつかない声で続ける。

「ディオのことは……よく、わからない。最初は嫌だったけど、別に、父親を強要されているわけでもないし、家族に…なれると思う…」

私が、どうかは分からないけど。

気まづそうに揺れる瞳は、まるでここになまえが受け入れられないのだ。と言っているようだ。

「……まるで以前のあなたとは正反対ね」

思わずついて出た感想に気を悪くした様子もないなまえは、最近あった話をして誤魔化すように笑った。

クランペット、イギリスのパンケーキの話をする彼女を見ていると楽しそうな反面なんとも言えないモヤモヤとしたものを感じる。
違和感に近いような、何かもう少し……

「今度由花子とも作ろうかな、ジョルノは、お姉ちゃんの友達と3人で遊んだって、嫌がったりしないだろうし」

教科書取ってくるね。
そう言って立ち上がった彼女のスカートがひるがえる。
ふわりとシトラスの混じった男物の香水の香りがした。




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