空条家の性教育その1(15年後)

「承介。お前"また"彼女ができたらしいな」


休日に父親が家にいる。なんて随分久しぶりだった。
その上、今は朝の5時だ。
いつもなら8時ぐらいまで夫婦の寝室から出てこない癖に、今日に限ってやけに早起きじゃないか。
日課のランニングをしようとスポーツウェアに着替えて一階に下りると、既にコーヒー片手に新聞を広げていた父親がおはようよりも先に声に出したその言葉に承介は思わずこけそうになる。


「なんだよ……俺の彼女がしょっちゅう変わるのは今更だろ…長続きしないだけなんだからそんな言い方しないでくれよ」
「……承介。お前はちょっと適当に人と付き合いすぎだ」
「適当……って言われちゃうとアレだな。断ると悪いだろ、母さんにも女の子を泣かしちゃダメだーって言われてるし」
「………はぁ」


わかりやすいため息をついた父親は、椅子にかけてあった自分のコートのポケットからガサガサと何かを取り出すと間髪入れずにそれを投げて寄越した。
結構なスピードで飛んでくるその小さなものを両手でキャッチすると、クシャリという音とともにそれはスッポリ手の中におさまった。
小さなビニールの正方形の袋に入ったソレが何か理解すると、涼しい顔をしたままコーヒーを飲む父親の前で思春期らしく声を上げる。


「ウッ……!?父さん!?」
「何か知ってるなら安心したぜ………ヤるなとは言わねぇ。避妊はしろよ」


もっともな事だが、余計なお世話だ。
流石に承介だってそんな簡単に女に手を出しているわけではない。


「……なぁんか俺、父さんの勘違いされてない?……別にそう言う付き合いをしてるわけじゃ……」
「俺はまだジジイにはなりたくないからな。いいから持っておけ」
「……父さんだって俺ぐらいの歳の頃には彼女くらいいただろ?モテた?」
「それは問題のすり替えだ。紳士にやれ。俺はお前の母さんと婚前交渉なんかしなかった」
「ウソつけ!出来婚の癖に!」


なんとも、母さんが聞いたら卒倒しそうな会話だ。最も、母さんは俺が同じくらいの歳の女の子とどうこう……なんて夢にも思わないだろう。
ふと、用事は終わったとばかりに新聞を畳んで席を立とうとする父親に少しだけ意地悪な気持ちが湧いてくる。


「………俺は母さん似でとてもそんな大胆なコトできねーよ」
「母さん似な……だから心配してるんだぜ?」
「……………どういう意味?」
「俺より母さんの方が大胆だぞ」
「…………ハァ?」


遠くで寝室のドアが開く音がする。母親のものだろう小さな足音が聞こえてきた瞬間。アッサリ混乱している息子を見捨ててリビングから出て行く。


「承太郎さん……?今日は早いですね……承介の声がしてたけど……あの子ランニングに行ってる時間じゃあ……?」
「今出てった。寝室に戻るぞ」
「…?承太郎さんコーヒーの匂いします。コーヒー飲んだのに寝直すんですか?」
「…………具体的にどうしたいかここで言っていいのか?」
「ヒッ……!さっ…さぁ戻りますよ先生!」


バタバタと寝室に戻っていく二つの足音を聞いてから、承介はイヤホンを耳に押し込んで家を出る。
相変わらずデリカシーというか、子供の情操教育的な物に対する意識に欠ける父親のセリフに聞きたくなかったよそんな夫婦の会話。とひとりため息を吐く。
………それにしてもさっき父親は言っていた。


(母さんの方が大胆……とか)


全く想像のつかない。っていうかあんまり考えたくない。


「………母さん。昔父さんになにしたの?」


思わず承介の口からこぼれた疑問の答えは、ふたり以外。誰も知らない。


[ 2/3 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -