静かにひとり


「名前は小学四年生になったのか!学校は楽しいか?」
「うん!お爺ちゃんもお仕事楽しい?」
「お仕事!……それは…そうじゃのぉ〜!楽しいのぉ!」


お父さんが仕事でいない三人の食卓も、お爺ちゃんが来ればにぎやかで楽しい。
お母さんの作る美味しいごはんを食べながら、承太郎と自分の学校の話をすれば、お爺ちゃんは嬉しそうに笑ってくれる。


「名前はねパパ、音楽の成績が凄〜くいいのよぉ!教室に通ってるわけじゃないのに上手になるのが速いの、やっぱりお父さん似なのねぇ!」


お母さんがそう言ってくれるのがいつも嬉しい。
他では弟に負けっぱなしだけど、音楽だけは承太郎に負けた事がない。
食事を終えて、お爺ちゃんが買ってきてくれた沢山のアメリカのお土産を開けて、承太郎と遊んでから、お爺ちゃんと3人でお風呂に入った。
名前も10歳になったから、お爺ちゃんや承太郎と一緒にお風呂に入ってくれるのもこれが最後かもなぁ。とお爺ちゃんが言うと、承太郎は必死で私の腕を掴んで、嫌だ嫌だと我儘を言ってお爺ちゃんと私を困らせた。










子供はもう寝る時間よ!
とお母さんに布団をかけられて、承太郎と二人で布団を並べて横になる。
今日が楽しくてすっかり目が冴えてしまって、何度も寝返りを打っていると、眠れないのは承太郎も一緒だったらしい


「お姉ちゃん、お爺ちゃんが買ってきてくれた本……一緒に読んで」
「そっか……承太郎はまだあんまりわかんないんだったよね、図鑑の英語難しいよね、いいよ」


弟の誘いに、机の上のブックスタンドを持ってきて、布団のそばで電気をつける。
お爺ちゃんが承太郎にかってきた魚の図鑑はとても分厚くて、色とりどりの魚が綺麗だ。


「お姉ちゃんもわかんない英語あるかもしれないから、お父さんの部屋から辞書借りてくるね。静かに待ってて」


そう言ってそっと子供部屋を出て、こっそり階段を降りて父親の部屋を目指す。
お母さんとお爺ちゃんに見つかったら怒られちゃうから、ゆっくり息を殺して廊下を歩いた。
お父さんの部屋に差し掛かった時、なぜか電気のついたその部屋から、お爺ちゃんとお母さんの声がした。
なんの話をしているのか気になって、そっと近づく



「嫌よパパ……!名前は私の娘よ…!この家で大人になって、私と貞夫さんのところに帰ってくるの!家族なんだから…!」
「ホリィ……!わかってくれ、あの子は特別なんだ。ずっとここには置いておけない………本当はずっと財団で育てるはずの子だった」
「名前は特別なんかじゃないわ!承太郎と同じ私の子供です…!」
「………ホリィ、あまりわしを困らせんでくれ…」
「どうして言わなければいけないの?家族として凄く幸せに暮らしてるのよ……!名前が自分の本当の生まれを知る必要はないわ……」
「参ったな………こうなると思ったから、わしはお前が名前を引き取るといった時に反対したんじゃ」



英語で交わされる会話に、名前は自分の聞いた言葉を信じられなくて、息を殺したまま階段までフラフラと歩いた。
部屋から離れても、まだ二人が言い争う言葉が聞こえる。


"ずっと置いておけない"

"名前の本当の生まれ"

"引き取る"


そのフレーズがずっと自分の頭の中をぐるぐる回っていた。
なんだかお母さんとお爺ちゃんに話を聞いたことを知られてはいけないような気がして、おぼつかない足取りで部屋に戻った。
手ぶらで、無言で帰ってきた自分を不思議そうに見つめる承太郎の緑の目がなんだか恐ろしい。目をそらしたまま承太郎の問いに答えないでブックスタンドの電気を消して布団に潜り込んだ。
不思議なことに呆然としたまま涙は出なくて、自分の中の綺麗でキラキラとしたものが全て消えて無くなってしまった様な気がした。



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