◯◯はこんらんした!



「一体全体どうしてこんな事になったのよ!!」




ジョセフと待ち合わせしていたカフェで、承太郎と随分前に帰った筈の名前がテーブルクロスに噛み付く勢いて手を握りしめて突っ伏していた。
その鬼気迫る勢いに思わず息を飲んだ仗助は、妊婦ってメンタルとか色々大変なんだなぁなんて適当な事を考えていた。


「どっ……ドォしたんっスか?名前さん……夫婦喧嘩ですか?」


自分の言葉に急に上半身を起こした名前さんは、断じて違う。とそれだけ言うとウエイトレスを呼んで甘そうな名前の飲み物を頼んだ。


「……みんな勘違いしてるけどね。承太郎さんの子供じゃないのよ」
「正直ビックリっすよ、多分康一も億泰もみんな承太郎さんの赤ん坊だと思ってました」
「なんでそうなるのよ!」


そうは言われても、彼女のそばにはいつも承太郎さんがぴったりくっついていたし、段差の度に律儀に名前さんの手を握ったり長くなりそうならさりげなく座らせたりする承太郎さんは、自分には妊娠した妻を気遣う理想の旦那さんに見えた。
うまく言えないが、承太郎さんが彼女を見てる目とか二人が話してるときの表情は柔らかかったような気がしたし……


「………じゃあもしかして、夫婦でも」
「ないわよ。私独身だから」
「……ますます複雑で頭がねじきれそうッス。じゃあ承太郎さんはずっと他人の子を妊娠してる恋人を大事に扱ってたってこと……?」
「あー…それがね仗助君。空条先生と私は上司と部下であって、決してそんな色っぽい関係では無かった筈なのよ」


なんだかいよいよ混乱してきた。
じゃあつまりは、承太郎さんと名前さんは他人で、名前さんは単純に他人の子供を妊娠してる。で、将来的に名前さんはシングルマザーになって承太郎さんはそこで彼女を手助けするような間柄では無い……と。
ホテルからとんぼ帰りしてきた彼女はやたら荒れている……というか混乱しているように見えて、単純に承太郎さんと何かあったのかな。と思って素直に聞いてみると途端に彼女は奇妙な呻き声しか上げなくなった。
そうしてまた冒頭のくだりにもどる。
ここまで彼女の見解と自分の認識がズレた原因なら仗助にもなんとか想像がつく。


「わかりました。承太郎さんが名前さんに迫ったんじゃあないんですかぁ?承太郎さんって意外と強引そうですもんねェ」
「じょっ!?仗助君!?」


アワアワしながらも救いを求める目をしている彼女を見て、成る程当たったなとほくそ笑んだ。
承太郎さんが痺れを切らして彼女に思いのたけをぶつけて、考えてもみなかった名前さんはただただ混乱している。
……自分が承太郎さんの立場だったらと思うといたたまれない。
アピールし続けている好きな女性が、知らない相手の子供を妊娠していて、それでも諦めきれずこんなところまで連れてきてしまう。
話を聞いている限り名前さんに恋人がいる様子はない。


(むしろここまで我慢できた承太郎さん大人ッス………グレート…)


カラカラとアイスティーに入った氷をかき混ぜていると、名前さんはようやく落ち着いたようで、お腹に片手を当てながら何か考えている。
短い付き合いではあるけれど、名前さんも無責任に子供を作るような人には見えない。実際こうしてお腹に手を当てながら何か考えている彼女の優先事項は絶対的に赤ん坊なんだろう。


「もったいないなぁ、承太郎さんなら超カッコイイ親父になれそうなのに」
「……そうは言ってもね仗助君。私は今までむしろちょっと怖いヒトデが病的に好きな変わり者の上司だとしか思ってなかったわけだから…」
「まぁ……でもほら、考えてみて下さいよ、今まではそうだったとしても、どうですか?これで新しいカンケイってのを築いていけば……」
「………そうよね、先生だって大人だし……急にどうこうって意味じゃあ無かったのかもしれないしね…」



ちょっと涙目になっていたせいで崩れた目元のメイクを直そうとハンカチを探す彼女は小さな鞄を漁りはじめて、急に何か見つけたようで小さな写真を机の上に乗せた。


「あっ…そうだ見て見て仗助くん。これ前行った検診でもらったんだ。エコー写真だよ」
「ヘェー、なんか砂嵐のテレビみたいっすね」
「ふふ……ここ。この塊が赤ちゃん。男の子なんだって」
「……こういうのも、やっぱり嬉しいんっすか?」
「そりゃあ!もう!自分の子供ですから、ねぇジョセフさん、ジョセフさんも子供の写真は持ち歩いちゃいますよね」
「そりゃあそうじゃ。娘だけでなく孫の写真も持っておるぞ…!仗助との写真も撮って帰らなくちゃあなぁ」


興味深そうにその写真を覗き込んでいたジョースターさんが、おもむろに財布をとりだすと写真を探すように弄り始める。


「おお。あったあった」


真っ白なテーブルクロスの上に、小さな古い写真が置かれた。
写真の黒髪にグリーンの目をした、幼く可愛い少年は、雰囲気はかなり違う。


「あっ……!これ承太郎さんッスね!」
「おぉ。そうじゃ、今と違って小さい頃は可愛げもあったんじゃぞ?」
「成長って凄いッスね……ねぇ名前さん!」


彼女の方を見上げると、名前さん見たことないくらい奇妙な表情で写真を見つめて固まっていた。



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