昔、僕がルフだった頃A



ジュダルside


俺は目の前の男に殴られるはずだった。


そして、今以上に大きな傷を負うはずだった。






でも俺の代わりに赤く染まったのは







青い髪の小さな男の子だった。





――――――――――――

ルフside




真っ暗だった視界に、僅かに光が戻ってきた。



人間の、「瞼を持ち上げる」という動作はこんなにも困難なものなのだろうか…。


目を開けた僕は首を動かし周りを観察する。

その度に頭が鈍く痛んだが、そんな痛みさえも今は嬉しかった。



(あの人は…)



あの人は今、何処にいるのだろう。

もう次の町へ行ってしまったのだろうか。
それとも席を外しているだけなのだろうか…。


どちらにしろ、こんな所にずっと寝ているわけにはいかない。

早く彼を見つけなきゃ―――――





「う…ぉ、もう起きたのかよ…」




扉が開く音と同時に、聞き慣れた声が聞こえた。



彼だ…!


彼が今、僕の前にいる!
実体のある僕を、目視している!



戸惑う彼とは反対に、僕は彼に笑いかけた。


笑いながら

『ねぇ、分かる?僕だよ!』

『君の力になりたくて、人間になったんだよ!』




…って











言おうとした。











だけど―――――――













「〜〜〜〜〜!!」



「ん…?どうした?」



「〜〜〜!!〜〜〜っ!?」








なんで…?








どうして僕の声が







彼に伝わらないの?









僕の声……







声?



こえ?



コエ?






分からない…







僕の声って……なに?










「お前、声が出ない…のか?」



彼のその言葉に、僕は現実を突きつけられたような気がした。




出ない?声が出せないの?

目の前に彼がいるのに、せっかく人間になったのに、彼の支えになれると思ったのに…!




目からボロボロと零れ落ちるコレは、きっと涙だろう。
生暖かくてしょっぱくて、心の中は「悲しい」で埋め尽くされている。



どうしよう、どうしよう…!

こんな僕、すぐに見離されてしまうに決まってる。
邪魔者扱いで、いやな顔をされて、捨てて行かれるに決まってる…!




僕はただ俯いた。


鈍い頭の痛みを感じたけれど、そんなこと今はどうでもよかった。



「どうした?傷が痛むのか?」


心配そうな声の彼が、僕の頭にそっと触れる。


「ちょっと待ってろよ、今包帯を取り替えてやるから…」



なんで…




どうしてこの人は、こんなにも優しいのだろう…。

人間にあんな酷いことをされて怪我をして、それでも尚、人の心配をするなんて…。



「あぁ、よかった。傷はそんなに深くないみたいだ…。

ほら」


そう言って、彼は僕に鏡を手渡した。

これで傷口を見ろ、ということなのだろうが、僕は他のものに目を奪われた。






初めて見る自分の顔。



真っ赤な目の色の彼とは正反対の青くて大きな瞳。

それと同じ色の、彼と同じくらい長い髪の毛。



(これが、僕の姿…)



僕が鏡を持ったまま呆然としていると、上からひょいと鏡を取り上げられた。


彼のほうを見ると、彼は恥ずかしそうに顔を掻きながら「あー…」と言葉を濁した。


「なんだ、その…えーっと……あ…りがと…な…」


「……?」


「お前、俺を庇ってくれただろ?俺なんかのために怪我させちまったのは悪いと思ってるんだけど、正直助かったっていうか…命拾いしたっていうか…」


僕、彼の役に立てたの…?
彼の命を守れたの…?


「そんなに不思議そうな顔すんなよ…。
なんだ?俺が口下手だからお礼がお礼に聞こえないか?」


ちょっと不機嫌そうな彼の声に、僕はフルフルと首を振る。


頭が…痛い……。


「ははっ!冗談だよ冗談!!ただ、口下手なのは本当だから許してくれよな。
普段こんなに人と会話するなんてこと無いんだ」


うん、知ってるよ。

だって僕は、ずっと君の傍にいたんだから…。



ニカッと笑いながら髪をグシャグシャと撫で回す彼に、僕も笑顔を見せる。


僕が喋れないからか、見た目が幼いからか…
彼は、僕に対しての警戒心を解いてくれたようだ。


「そうだ…まだ自己紹介をしてなかったよな。
俺はジュダル。巷じゃ「マギ」なんて固っ苦しい呼び方されてるが、嬉しいもんじゃないんだ…。
今は王に相応しい奴を見つけるために旅をしてる。

ま、「マギ」っていってもルフの使い方が特殊なだけであって……って、そんな話したって分かんねえか…」


その言葉に、僕は思わず首を振ってしまった。

ハッとして彼を見ると、とても驚いたような顔をしている。


「え、お前ルフとか知ってんのか…?
そういえば、お前の周りのルフなんか変わって…」



しまった…!

彼はマギなんだからルフが見えるのは当然だ。
僕の周りのルフがどうなっているのかはよく分からないが、この状況は非常にマズい。


「〜〜〜っ!!」


口をパクパクさせ、身振り手振りでなんとか彼の思考を停止させる。


「ん、どうした?
…って、まだお前の名前を聞いてなかったよな。

紙と筆ならあるけど、字は書けるか?」



差し出された紙と筆を受け取りながら頷く。








……ん?






名前…?







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