黒と「黒」



※アラジン堕転注意


世界の全てを知っているつもりだった。






でも、この世界は僕が思ってたよりずっと






汚くて


醜くて





虚しいものだった。





――――――――――――





「マギよ、準備はできたか」



「君たちは いちいち煩いね。僕には僕のペースがあるんだ。放っておいてくれないかい?」


僕はそう言いながら黒衣を纏った男を睨む。

男はそれに怯んだのか、俯きがちに部屋から出て行った。


「何度言っても学習しない…。全く、低脳な連中だね」



ここに来て、もう半年が過ぎようとしていた。




僕たちがアルサーメンに敗れてから半年。



世界が暗黒に覆われてから半年。



アリババくんやシンドバッドおじさんが死んでから半年。












僕が堕転してから半年。






(汚れちゃったなぁ…)


部屋に置いてある姿見を見ながらふと考える。


勿論外見が汚れたわけではない。青や白基調の衣服から、全身黒の衣服を身に纏う自分に違和感もない。




何が汚れたのか―――――


それは、僕自身が一番よく知っている。




鏡の中の自分を凝視していると、視界の端にふと黒い鳥のようなものが見えた。



「慰めてくれるのかい?
ありがとう、堕転しても君たちは変わらないでいてくれるんだね…」


目に映ったのは、堕転して黒く染まってしまった僕のルフたち。
悲しげな鳴き声をあげる彼らに僕は微笑んでみせた。

この子たちも完全に堕転してしまったけれど、本質は変わっていないように思う。



(それに比べて僕は…)




僕は変わってしまった……と、思う。



人を殺すことに躊躇いがなくなった。


自分の魔法で人を傷つけるのが楽くてしょうがない。







そして




この世界に、運命に絶望した。




(あの人も、こんな気持ちだったのかなぁ…)



鏡に映る自分と、かつて敵対した黒いマギの姿が重なって見える。

あの人も運命を憎み、人を信じられなくなって、自分を嫌いになってしまったのだろうか…。



今の僕のように―――――








「おいチビ」



声のした方にゆっくりと目を向けると、不機嫌そうな顔をしたジュダルくんが立っていた。


「やあ、ジュダルくん。
久しぶりだね」


うっすらと笑みを浮かべながらジュダルくんに話し掛ける。

しかし彼は厳しい表情を崩さない。


「「久しぶり」、じゃねえよ。親父どもが早くしろって苛々してたぞ」


「あぁ…そういえばそうだったね、忘れていたよ。
ありがとう、ジュダルくん。


じゃあね……」



ジュダルくんの機嫌も良くないみたいだし、早く男たちのもとへ行ってしまおう。


そう思った僕は、彼と目を合わせることもなく横をすり抜けようとした。



その時




「ちょっと待てよ」


すれ違いざまに突然肩を掴まれる。

それは痣が出来てしまいそうなほど強い力で、僕は痛みに顔をしかめた。



「いっ……。何なんだい突然!」


キッと彼を睨むと、ジュダルくんは真面目な顔で僕の目を見ていた。



「お前さぁ、メシ食ってんの?」




「は?」




意味が分からない。


「なにそれ。君には関係無いだろう?」


冷たく言い放つと、ジュダルくんは眉間に皺を寄せて言い返してきた。


「関係無くねえよ。いくらお前でも、こんな状態で外に出て来られたら足手まといだ」


「…僕はどこも悪くないし君たちの足手まといになるつもりはないよ。
そんな話どうでもいいから、さっさとこの手を離してくれないかい?」


僕がそう言うと、ジュダルくんは溜め息を吐きながら僕の肩から手を離した。






やっと解放された。




そう思った僕はそそくさと部屋を後にしようと思ったのだが――――――










ドンッ





「うわっ…!?」



何かに弾き飛ばされ床に尻餅をつく。

この空間で、こんなことをする人は一人しかいない…。



「何するんだい!?」


僕を突き飛ばしたであろうジュダルくんを睨むと、彼は冷ややかな目で僕を見下ろしてきた。


「…この程度で倒れるような非力な奴が人なんて殺せるわけねえだろ。
今日は俺が代わりに行くから、お前は部屋にでも閉じ籠もってろよ」


そう言い残し、彼は踵を返して行ってしまった。




一人残され呆然としていると、不意に視線を感じる。


ハッとして見ると、そこには姿見に映ったニヤニヤと笑う自分がいた。


「―――――っ!!」


気味が悪くて咄嗟に投げた杖は鏡にヒビを入らせる。




どうして、なんで僕はいつもいつも……。



「クソッ…!」







ヒビの入った鏡に映る僕は、苦悶の表情を浮かべていた。















いつだって僕は






彼に守られてばかりだ






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