一年越しのバレンタイン






色々あったバレンタインデーから早一年。
結局俺は昨年のホワイトデーにアラジンにお返しをすることもなく、一年間ダラダラと引きずってきた。


だが、ずっとそんなままでいられるわけもない。




何故なら今日は―――――









「あれ、今日って何日だっけ?」



「やぁねぇジュダルちゃん。今日は二月十四日じゃない」








バレンタインデーだったようです。















「うおぉぉぉぉ!!チビぃぃぃぃぃ!?」



勢いよく窓を開け部屋に侵入する俺を見ながら、アラジンは驚きつつも非常に迷惑そうな顔をした。


数秒間目を合わせたあと、アラジンは読んでいた魔導書を閉じ椅子から降り、俺の前に立って大きく溜め息をつく。



「あぁもう、窓閉めとけばよかったよ。この前の食べ残しに寄ってきたのかなぁ」


「へっ…?」


「叩き潰してもいいけど、コイツらって死ぬ瞬間に卵を撒き散らすらしいし」


「…………」


「そうだ、おじさんに言って殺虫剤を貰ってこよう!」











「俺はゴキブリじゃねえ!!」



「うわ、しゃべった!」



「い い か げ ん に し ろこのチビ!!」



思わずグーでアラジンの頭を殴ってしまった。



大人気ない?



いや、俺には殴る権利がある。



「痛っ…!なにも殴ることないだろう!?」


「自分のことを害虫に形容されて怒らないほうがおかしいだろ!」


俺の主張に、アラジンは下を向いてしまった。

これには流石のアラジンも反論出来ないようだ。



どうだっ!!












「もう…今日は来ないのかと思った…」


俯いたアラジンがポツリと呟く。


「あ……えっと…」


外を見ると、すっかり日は暮れ空には星が瞬いている。

必死になってここまで来たからか、周りの景色を全く見ていなかった…。


「わ…悪かったな…。
でも、今日はちょっと用事があって…」


「………忘れてたくせに」


「うっ…!」


なんでバレたんだ…。
もしかして、読心術とか使えるんじゃ…!



…いやいや、今はそんなこと考えてる場合じゃねえだろ。

とにかく、何か声を…。



「えっ…と…。
チビ、怒ってんのか?」











って……ああああ!!




俺のバカ!なに聞いてんだよ!

怒ってるに決まってんだろうがぁぁぁぁ!!!



「あ、やっぱり今のナシで…」




ナシって何だよ!



ナシって何だよ!




もう取り返しがつかねえよ!



「なぁチビ、とりあえず顔上げろって。

な?」


俯くアラジンの頬を手で優しく包み込み、さり気なく力を入れる。



が、




(う…動かねえ…!)


結構な力を加えているはずなのだが、どういうわけかびくともしない。


(こいつ、意地でも俺のことを見ねえつもりか!)



なら、俺にだって考えがある。



「なぁ、こっち見てくれよ。遅くなったことは謝るからよ…アラジン」



その名も、「名前で呼ぶ攻撃」!
いつも名前で呼んでいない俺に名前を呼ばれたら、チビだってこっちを向………



「………………」



あれっ?



「どうしたんだよアラジン。こっち向けって…」



そう言いながらしゃがんでアラジンの顔を覗き込もうとした、その時












左側から風を感じた。









「なぁ、アラ……ぐぉっ!?」




左頬に走る尋常でない痛み。

そのまま体勢を崩し倒れ込む俺。

そんな俺の前に立ちはだかる、杖を握って目に涙を浮かべたアラジン。



「…っジュダルくんの――――」



アラジンが杖を持ったまま大きく振りかぶる。



「ちょっ…ま……!」


「ばかぁっ!!」


「おぉぉぉ!?」



間一髪でボルグを張ったが、魔導士の物理攻撃とは思えないほどの衝撃が走った。


それを今、こいつ…。


(俺の頭狙ってなかったか…?)


バレンタインデーというイベントとは全く関係無い不吉な予感に俺の心臓が高鳴る。

そんなことを考えている間に、アラジンの第二波が俺を襲った。


「げっ…!」


よくよくアラジンの杖を見てみると、微かにだが赤いルフが集まっている。

熱魔法だ…!


「お…おい、ちょっと待てチビ!流石にそれは…」


「…………」


スッと杖を振りかぶり、渾身の力で俺のボルグに叩きつける。




そして――――――――













バリィィィン!!









という、俺にとってはトラウマとなり得る音が部屋に響いた。



「うっ…わ…!?」







今度こそ殺られる―――――!






そう思い、覚悟を決めて目を瞑っていたのだが…。



(あれ…?)



何もされない。

何も聞こえない。







…いや、聞こえてきたのは






アラジンのすすり泣く声のみだった。



「チビ…?」


「……の……かぁ…」


「え…なんて…」


うまく聞き取れず、恐る恐るアラジンに聞き返す。

その一言でスイッチが入ってしまったのか、アラジンは目から大粒の涙を流し声を上げて泣き出した。



「…っうわぁぁぁ゙ぁ゙ぁ゙ん!!ジュダルくんのばかぁぁぁ!!!!」



「お…おいチビ、マジでどうしたんだよ!?」


今までに見たことのないアラジンの様子に思わず怯む。


しかしアラジンは泣き叫ぶばかりで、魔導書やらペンやら、落ちている物を投げつけてくる。


終いには持っていた杖まで俺に投げつけてきた。



「なんで君はいつもそうなんだよ!!なんで僕の気持ち分かってくれないんだよぉ…!!
君は僕のことをどんな風に思ってるのか知らないけど、僕だって普通の子供と同じなんだよ!!寂しい時は寂しいし、嬉しい時は嬉しいし、好きな人に会いたい…っていう気持ちだって…!なのに、なのに君は!!」



「あ……」



もしかして、こいつ…



「今日、ずっと待ってたのか?」



俺の言葉に、アラジンの顔がみるみるうちに赤くなる。


「…待ってたよ。

なに、待ってちゃ悪いかい!?君がいつくるかな、とか、来たら何て言おうかな、とか、そんなこと考えながら平静を装って待ってちゃ悪いのかい!?」



泣きながら顔を赤くするアラジンを見て、本人には申し訳ないが可愛いと思ってしまった…。



俺はアラジンの目の前まで近づき、へたり込んだまま泣きはらしたアラジンの体をそっと包み込んだ。



「ごめんな…俺、お前がそんなに俺のことを思ってくれてるなんて知らなかった…。
ありがとう、アラジン」



それに応えるように、アラジンも俺の背中に手を回す。


「うぅ…ジュダルくんなんて……もう知らないんだからぁ…!」


行動と言葉が噛み合ってないって…。


「あーはいはい。
でも、俺はお前がいないと駄目な人間だからな。お前に見捨てられたら、俺ショックで死ぬかも。
だから、「知らない」なんて言わないでくれよ…?」


俺がそう言うと、アラジンは少し恥ずかしそうに俺に密着してきた。


「ん…分かった。


ねぇ、ジュダルくん…」



「どうした?」


アラジンの顔を見たいのだが、それを拒むかのようにアラジンは俺の胸に顔をうずめる。
どんな顔かは大体予想出来るけどな…。



「……………






大好き」




言わなくったって、知ってるよ。





「あぁ、俺も」












お前のこと、大好きだから。











一年越しのバレンタイン






――――――――――――

「去年のお返しは、これでチャラにしてあげる…」


「なんか…ごめんな」









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