昔、僕がルフだった頃



捏造が甚だしいです。
苦手な方はUターンをお勧めします。
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ルフside






僕は、彼のルフだった。


彼は黒くて長い髪をなびかせ、いつも真っ直ぐな赤い瞳で世界を見渡し、何よりこの世界を大切に思っていた。







彼は強かった。



だけど独りぼっちだった。







人は、誰も彼に近付こうとはしなかった。
それだけ彼は特別な存在だった…。






でも、「僕たち」は知っている。





彼の孤独、心の弱さ、意志の強さ、

「僕たち」に向ける『いつもありがとう』という優しい言葉、

「僕たち」にしか見せない本当の笑顔――――――






彼は何をするにも「僕たち」の力を使った。


彼の力になれてるんだ、助けになってるんだ……って、それだけで嬉しかった。









それだけで良かった。






そう思っていた筈なのに











僕は求めすぎてしまった。









実体のない僕らには彼の力になることは出来ても、彼を言葉で慰めることも、彼の傍に寄り添うことも出来ない。




なら、実体を持てばいいんじゃないか……。


そうすれば、もっと彼の役に立てるんじゃないか……。



そう思った僕は、他のルフに馬鹿馬鹿しいと笑われながらも祈り続けた。
頼み続けた。



『どんなに未完成な人間でもいいんです。高望みはしません。
だけど、どうか……どうか僕を、彼に寄り添える人の子にしてください。


彼の傍に、いさせてください――――――』





…と。










気がつくと、僕は二本足で立っていた。
腕を振り、地面を蹴って大地を駆け回っていた。



ただただ嬉しくて、でも信じられなくて、早くこの姿を彼に見てほしくて…。

僕は近くの町に入り、彼を捜した。

この町は、彼が以前話してくれた町だ。
次の目的地なんだと、僕らに話していた。





きっと彼はこの町にいる。




そう思ったとき―――――









「何が「マギ」だ!大したことも出来ないガキが、偉そうにしてんじゃねえ!!」



何かが割れる音、罵声、悲鳴がどこからか聞こえてきた。

何が起こっているのかは分からないが、「マギ」と聞こえたのは確かだ。
きっとそこに、あの人がいる…!





声のした方に駆けていくと、人々が集まって何かを見ていた。

僕はその人たちの間を縫って一番前に出る。




「――――――っ!!」



思わぬ光景に、僕は息をのんだ。





そこには地面に座り込んで頭を押さえている僕の嘗ての主人と、手に煉瓦を持った男がいた。
彼の頭からは鮮血が滴り、手と顔と服を汚している。



それでもお構いなしに、男はジリジリと彼に近付く。


しかし彼は動かない。




(なんで…?)


どうして魔法を使わないの?
どうしてその男を攻撃してしまわないの?




どうしてそんなに優しい顔をしてるの…?












『俺さ、絶対に一般市民には魔法を使わない、って決めてるんだ』


ふと、昔彼が話してくれたことを思い出した。


『ほら…俺って、嫌われてるだろ?誰も近付いて来ないだろ?
でも、だからって俺が人を嫌いになるわけにはいかないんだよ…』


彼は、寂しそうに笑っていた。


『皆がどれだけ俺のことを嫌いでも、俺が皆のことを好きでいたらいつかその中の一人が俺のことを好きになってくれるかもしれないだろ?
だから、俺は誰も傷付けない。傷付けさせない。

不満があるなら、全部笑って受け止めてやるさ…。
たとえそれが只の暴力だって…な』





僕がハッと顔を上げた時には、男は今にも手に持ったそれで彼を殴ろうとしていた。


このままでは彼が傷付いてしまう…!




(ダメ――――!!)




気付けば僕は勢い良く地面を蹴っていた。
きっと、何も考えちゃいなかったんだろう。

ただ、あの人を守りたい…その意志だけで僕は動いていた。











ゴッ…!








という鈍い音と同時に、人間でいうと多分「頭」という部分に、恐らく「痛み」という今までに感じたことのない衝撃が走った。







どうしてだろう…。


倒れ込んだ地面はこんなにも冷たいのに、頭はとっても熱かった。



周りから聞こえる悲鳴にうっすらと目を開けると、そこに僕の知っている地面は無かった。



どこまでも赤い、混じり気の無い赤。

彼の瞳と同じ色。

彼の頭から出た鮮血と同じ色。






あぁ、よかった。



僕は……





(ちゃんと人間に、なれたんだ)



視界に彼の顔が映る。



早く早く…!

あなたとお話がしたい…!




でも、どうして







(こんなに「眠い」んだろう…)






いつしか僕の視界は、真っ暗な闇に覆われていた。









これは、優しい彼と


滑稽なルフの





「出会い」「再会」のお話。






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