不器用だって、それでいい
「…で?喧嘩して髪が絡まった………と」
「「はい…」」
並んで正座をする僕とジュダル。そして、目の前には鬼の形相で僕らを見下ろすジャーファルお兄さんが。
「で、絡まってほどけなくなったから私の所に来た」
コクコクと無言で頷く僕達。ジャーファルお兄さんの顔を見ると、優しげな笑みを浮かべ………いや、目が笑っていない。
「つーか、さっさとほどけよソバカス」
あぁ、この人って本当にバカなんだな…。
「お前さぁ、いっつも話が長ぇんだよ。そんなんだからバカ殿にも―――――うおぉっ!?」
「うわあ!?」
突如、ジャーファルお兄さんの攻撃を避けたジュダルがこちらに倒れてくる。
「あっぶねぇなぁ!!何すんだよ!?」
「痛いじゃないか!こっちに倒れてこないでおくれよ!!」
そんな僕達を見ながら、ジャーファルお兄さんは舌打ちをした。
「チッ。外したか」
怖い…。怖すぎるよジャーファルお兄さん!
「何故避けるんですか」
「避けるに決まってんだろ!殺す気か!!」
「そんな、滅相もない。私はただ、その絡まった黒い髪の毛を切ってアラジンの髪の毛を解いてあげようと思っただけですよ」
その声は、僕からしてもとても冷たいものだった。
ジャーファルお兄さん、本当にジュダルくんのことが嫌いなんだな…。
「とんでもねぇよ!!やっぱお前嫌い!!」
「ジャーファルお兄さん穏便に!穏便に済ませようよ!」
流石にジュダルくんに同情してしまい、なんとか平和的な方向にもっていこうとする。
僕が訴えかけると、ジャーファルお兄さんはフッと小さく息を吐いた。
「……アラジンがそう言うなら仕方ないですね。
今回は勘弁してあげましょう」
優しい笑みに安心してしまった僕だったが、よく考えればこの人がここで終わる筈もなく―――――
(よかった…)
(助かっ……「ってぇ!?」
鈍い金属音に驚きジュダルくんの頭上を見ると、何故かそこにはジャーファルお兄さんの眷属器が…。
どうやら、あれの平面部分でジュダルくんの頭を叩いたらしい。
「あなたがここにいることを無視するとでも思ったんですか。この害虫が」
「がっ…害虫…!」
害虫…ということは、ジャーファルお兄さんの中でのジュダルくんのイメージは完全にゴキブリだろう。
叩き潰すような勢いだったし。
「ジャーファルお兄さん、それはちょっと言い過ぎじゃ…」
すかさずフォローを入れるが、ジャーファルお兄さんの鋭い眼光が向けられる。
「…大体、アラジンも何故こんな奴と仲良くしてるんですか。シンに、ジュダルとは接触しないように言われていたでしょう!」
「えっ…」
「それ…は……」
言われたからといって、急に突き放すことなんて出来なかった。
それが今回の事態を招いてしまったわけだが…。
「あなたを守るためにシンは気を使って警告したのに、本人がそんな調子でどうするんですか!」
「うぅ…」
厳しいジャーファルお兄さんの言葉に、目に涙が浮かぶ。
そんな僕を見かねてか、ジュダルくんが僕達の間に割って入った。
「おい、もう許してやれよ。チビも反省してんじゃねえか…」
「ジュダルは黙ってなさい!私だっていつもアラジンに甘いわけじゃ………
アラジン…!?」
ボロボロと大粒の涙を流す僕を見てジャーファルお兄さんが声をあげる。
もう……
どうにでもなれ!
「ジャーファルお兄さんなんて大っ嫌い!!
もういいよ!僕、このままジュダルくんと一緒に煌帝国に帰るから!!」
「えぇっ!?」
「はぁっ!?」
案の定驚いた声を出す二人。
「それで、そのまま煌帝国のマギになってやる!シンドリアなんてもう知らない!!」
「ちょっ……ちょっと待ってください!そんなことされたらシンに何と説明したら…!」
「ようやくその気になったかチビ!そうと決まれば住民票の登録をだな…」
オロオロするジャーファルお兄さんとは反対に、にこやかに――――何処から出したのだろうか――――煌帝国の住民登録用紙を差し出してくるジュダルくん。
まさか、常に持ち歩いてるのかな…。
「てめぇ、なに勝手に手続きさせようとしてんだ!
ほら、アラジン。私はもう怒ってないですから、煌帝国に行くなんて言わないでください…。ねっ?」
必死なジャーファルお兄さんだが、なんとも説得力がない。
全てはおじさんのためだろうが…。
「ジャーファルお兄さんって、本当におじさんのことが好きなんだね…」
「なっ……なななな何を言い出すんですか急に!
王に仕える者としてその主を慕うのは当然のことでですねぇ…!」
ほら、やっぱり。
「顔真っ赤だし」
「アラジン!いい加減にしないと怒りますよ!」
怒ってる怒ってる。
でも本気で怒るとおじさんに嫌われちゃうから、怒れないんだよね…。
「おじさんに言っちゃおうかなー。でも、おじさんなら普通に喜びそうだよね」
「やっ…やめなさい!
そんなこと絶対に言わないでください!」
もう少し。
「ジャーファルお兄さんが髪を解いてくれたら、全てが丸く収まるんだけどな…」
「ぐっ…」
あと一押し。
「ジュダルくんのことを見逃してくれたら、おじさんには秘密にしておくんだけどな」
「うぐぅ…」
そして僕は、泣いていたことも忘れて満面の笑みを浮かべた。
「ジャーファルお兄さんは賢い大人の人だから、どうすればいいか分かるよね?」
笑顔の僕とは対照的に、頭を抱えるジャーファルお兄さん。
申し訳ないけど、しょうがないよね?
「……分かりました。
ジュダルのことは、今回は見逃します」
「わぁ!ありがとうジャーファルお兄さん!」
計 画 通 り
(チビすげぇ…)
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