終わる世界で、約束を







「おい、何をして――――













ぐぁっ…!?」






苦悶の表情を浮かべるシンドバッド。



奴の腹には巨大な氷の刃が貫通し、それが消滅すると傷口から大量の血液が流れ出した。



「くっ…そ……。
ジュダル…な、にを…した…!」


部下に支えられるシンドバッド。だが、もう永くはないだろう。


俺は立ち上がり、シンドバッドを見下ろした。



「…もう終わりにしようぜ、シンドバッド。
どのみちこの世界は崩壊する。所詮変えられるのは、それが遅いか早いかくらいだ」



そう言いながら俺は杖を構える。


ただ、それはいつも俺が使っていた杖じゃない。

















倒れていたアラジンの傍に落ちていた、アラジンがいつも使っていた杖。




所々付着した血液は黒く変色し、何とも言えない不気味さが漂っている。



しかし、その見た目とは裏腹に自分の中に流れ込んでくる暖かいもの。

それが何なのか……俺には全て分かっていた。




「これで……終わりだ!!」




俺が力を込めると同時に、周囲の白ルフが渦を巻いて集まる。

それは杖を通じて俺の全身を駆け巡り、一筋の光となって厚い黒雲を突き抜け、世界中を光で包み込んだ。




(あ…れ……?)



そんな一連の出来事の最中、俺は自身のある変化に気付く。


「ルフが…」


自分の身に纏うルフが全て白くなっている。

初めてのことに戸惑いながらも、先ほどの光景を思い返す。



「あっ……」



さっき感じた、体の中をルフが通り抜ける感覚。

まさか、あの時―――――





「ばっかじゃねえの…」



笑いたいのに、俺の目からは次々と涙が零れ落ちる。

ふと、光の中に小さな人影が浮かび上がった。
それは嬉しそうに俺に近付き、泣き崩れる俺の前までやってきた。



「お前、さ……。死んでからも俺を堕転から解放しようなんて…何考えてんだよ……。なんで死んでからも俺に関わろうとすんだよ…。なんで殺されたのにそんなに嬉しそうなんだよ…!」


影は何も応えない。

ただ俺を見つめ、俺と目線を合わせるようにその場にしゃがみ込んだ。


「なんか言えよ…バカチビ…」




馬鹿は俺か…。ルフになったアラジンが言葉を発することなんて出来ないと分かっている。
分かっていても、もう一度だけ…たった一言でいいから、アラジンの声が聞きたかった。


自分の名前を呼んで欲しかった…。




うなだれる俺に伸ばされた手。
その手は、俺の頬と、杖を握る手に添えられた。



そこに現れた一匹のルフ鳥。
そいつは俺たちの周りをゆっくりと旋回し、影――――アラジンの肩にとまる。




『ねえ、ジュダルくん』


『なんだよチビ』


『君は、好きな人なんかはいるのかい?』


『別にいねえけど…』


『じゃあ、僕が好きになってあげようか!』


『はぁ?なんだよそれ』


『人に好きだって言ってもらえるのは、とっても嬉しいことなんだよ!
君は、そう言ってもらったことはないの?』


『…あるわけねえだろそんなもん。俺のことが好きな奴なんて…』





「これは……アラジンの記憶…?」



フッとルフが消えると、また次のルフが現れアラジンの肩にとまる。





『どうしてこんなことになっちゃったんだろう…。
僕、精一杯頑張ってきたのに。僕のやってきたことは、全て無駄だったのかな…?』


『チビ……』


『ねえ、ジュダルくん…。この世界が駄目になってしまっても、僕と一緒にいてくれるかい?僕のこと、好きでいてくれるかい?』


『当たり前だろ!俺たちはずっと一緒だ。この世界が終わるまで、俺がお前を守ってやる』


『……ありがとう、ジュダルくん』





「…………っ!!」


そのルフが消えた瞬間、霞んだような影だったものがはっきりとアラジンを形作った。
後ろで腕を組んでニコニコしているアラジン。


思わず伸ばした腕は、無情にもその体をすり抜ける。



「アラジン、俺……俺っ…!」



言いたいことは山ほどあるのに、全てが涙と嗚咽にかき消される。

今言わなきゃ絶対に後悔する。もう二度と、アラジンには会えないんだ。



「ごめんなアラジン…。
お前のこと、守ってやれなくて…。世界を救えなくて…。約束したのに、俺…何一つ守れなくって…!」



しかし、アラジンは首を横に振る。

そして、「見ろ」と言わんばかりに自身の口を指差した。



「………?」
















『ず』


『っ』


『と』



『い』


『っ』


『し』


『ょ』


『だ』


『よ』












それは、まだ果たせていなかった最後の約束。






俺は涙を拭い、アラジンと向き合った。


「そう…だよな。俺たちは、ずっと一緒だよな」



アラジンは笑顔で大きく頷く。




そうか……俺が言うべきことは、「ごめん」なんかじゃなくて―――――――











「アラジン…ありがとな。俺に色んなことを教えてくれて…好きになってくれて。













――――――愛してる」
















『僕も、ジュダルくんのこと大好きだよ。これからは、何があってもずっと一緒にいられるね―――――』
















そして、俺たちは


世界を包む光へと溶けていった。









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――――――――
――――――
――――
――








十年後、荒れ果てた大地は復活を遂げ、世界には新たな王が誕生した。






「アリババ大王!!」



「アリババ大王!!」





「アリババ大王とその「ジン」と「眷属」、そして王を選びし「マギ」たちよ!!」





かつてのバルバッド王国を中心とした一つの国。




そこには多数の死者を悼む慰霊碑と


二つの赤い宝石のはめ込まれた墓が建てられていた。
















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偉大なる二人のマギ


ここに眠る

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