「うわああああああ!!」




目の前の男が大きな悲鳴をあげる。



悲鳴に驚き目を開けると、ナイフの刃先は俺に触れるか触れないかというところで止まっていた。




いや、ナイフの刃先という表現は誤りだ。







男の持つナイフから肩までが







氷漬けになって止まっていた。


「腕が……俺の腕がぁ!!」


叫ぶ男を唖然と見る。

男も俺も、何が起こったのか全く理解出来ていない。








「あぁ、すいません。ナイフだけ止めようと思ったんですが失敗してしまいました」



頭上から降ってきた声。
それは、俺のよく知る人物のものだった。




「アラジン…!?」


見上げると、空中にフワフワと浮かんでいるアラジンの姿が。

しかしその顔に表情は無い。


「その子、僕の連れなんです。離れてもらっていいですか?」


この感じ、町の騒動の時と一緒だ。アラジン相当怒ってる…。


「ふざけんな!俺の腕をこんなにしやがって!!」


しかし男がそれに気付くはずもなく、怒りの矛先は俺へと向けられる。


「うわっ!?」


男は氷漬けになった腕とは逆の腕を伸ばし、俺に掴み掛かろうとした。


しかし―――――――






「な…なんだこりゃあ!?」



男の周りを無数の火球が取り巻く。それは初めて見るアラジンの熱魔法だった。



「あなたの選択肢は三つ。

その子から離れるか、氷漬けになるか、火だるまになるかだ。
さあ、どうしますか?」


冷たく見下ろすアラジンの目に怯む男。
「ひっ!」と小さな悲鳴をあげてゆっくりと俺から離れる。


俺からある程度距離をとった所で男は回れ右をし、走り出そうとしたのだが……



「誰が逃げていいと言いましたか?」


「ぐぁっ!?」


アラジンに足元を凍らされ男は地面に突っ伏す。
そんな男を見ながら、アラジンはフワリと下に降りてきた。


「アラジン!!」


「ジュダル……」


渋い顔をしながら俺に近付いてくるアラジン。

俺の目の前まで来ると立ち止まり、そして―――――












パンッ!!






「えっ……」



乾いた音が耳に響く。


何が起こったのか。
それは、ヒリヒリと痛む頬が全てを物語っていた。


「どうして僕から離れた!一人で勝手に行動するなっていつも言ってるだろう!!」


アラジンにぶたれたショックと怒鳴り声に、俺の頭の中は真っ白になる。


「ごめ…なさ……い…」


初めてアラジンのことを怖いと思った。
いつも自分を守るために見せる怖さではなく、自分に向けられた怖さ。

俺はどうしていいのか分からずにただ俯いた。


「一体僕がどれだけ心配したと思ってるんだ!
もし君になにかあったら、僕は――――――」


耳を塞ぎたくなるような叱責に目に涙が滲む。

ここで泣いたら只の弱虫だ。勝手にどこかに行って怒られて泣くなんて、自業自得にもほどがある。


ぐっと涙を堪えていると、嫌でも耳に入っていたアラジンの声が止んでいることに気付く。
顔を上げると、アラジンは袋小路の手前の路地をジッと見つめていた。


「アラジン……?」


恐る恐る尋ねると、アラジンは路地を見たまま声のボリュームを落として言った。


「馬車の音がする」


確かに、耳を澄ますと微かにだが車輪の音が聞こえた。しかしそれが何を意味しているのか、俺には分からない。


「おかしい…。この辺りはどちらかというと貧民層の暮らすエリアだ。
普段馬車なんて入ってこないはずなのに……」


迫り来る音に固唾を呑む俺とアラジン。



張りつめた空気の中、路地の入り口に姿を見せたのは…


「うっわ…すげえ……」




鮮やかな色合いに繊細な装飾。バルバッド王国のものであろう紋章を掲げた、スラム街には明らかに不釣り合いな豪華な四頭立て馬車が細い路地の入り口に停止した。


「あの馬車は…!」


アラジンが驚きに目を見開く。
そこにいる誰もが、その馬車から目が離せないでいた。



そして、ゆっくりと扉が開かれ―――――









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