「……ここか?」



馬車から現れたのは、一人の若い男。
質の良さそうな衣に、美しい装飾の施された輝く王冠。後ろで束ねられた深い金髪と同じ金の瞳。

その気品と貫禄から、人を見ることに疎い俺でもただ者でないことが分かった。


「あ…あなた様は……」


男が震えながら言葉を漏らす。


「……………」


馬車から降りてきた男は俺達を一人ずつ確認し、最後にアラジンを見た。
アラジンも男の顔をジッと見ている。

そうしていると、部下であろう兵士の一人が口を開いた。


「我々は近隣の住民より、子供が男に襲われているとの通報を受けた。
見たところ、その男が犯人のようだが…」


兵士はそう言いながら、男の足元を見て顔を引きつらせる。
男の足はまだ氷によって地面と繋がっていた。


「…すみません、今術を解きます」


そう言うとアラジンは軽く杖を傾ける。すると、男の足を固定していた氷が瞬く間に光の粒子となって消え去った。


「よし、連行しろ」


「ちょっと待て」



兵士たちが男を連れて行こうとした時、金髪の男が口を開いた。


「何故こんなことをした」


厳しい目を向けられ、男は狼狽える。だが、次第にポツポツと言葉を漏らした。


「し…仕事がなくて、金も底をついちまって…。でも家で家族が待ってるんです!
だから、金品を盗んでそれを売り払って金を工面しようと思って…。
そこをその子供に邪魔されて、つい…」


話す度にうなだれていく男。


そんな男を見て金髪の男は小さく息を吐き後ろの兵士に何かを命じ、暫くすると何かが書かれた紙を男に差し出した。


「これは……?」



「国が管理する職業案内所の場所だ。牢を出たらそこに行け。そこに行けば仕事は山ほどある…が、選り好みはするなよ。
家族のために、どんな仕事でも必死になって働け」


厳しいが、優しい言葉。

男は紙を握り締め地面に平伏した。



「有り難う…本当に有り難うございます!



アリババ国王様!!」










その後、男は兵士たちに連れて行かれた。

俺はその光景をボーっと眺めていたが、ふとアラジンが気になり顔を見上げた。


すると





「そこの二人も来い」


金髪の男が俺たちを見て言う。
アラジンは何も言わずに馬車へと向かい、俺もその後を小走りでついていった。


「乗れ」



言われるがままに馬車に乗り込むアラジン。
俺も続いて乗り込もうとするが、果たして自分がこんな豪勢な馬車に乗ってよいものか躊躇ってしまう。


「ジュダル」


いつまでも乗り込まない俺を見かねてか、アラジンが手を差し出す。

俺はその手を強く握り、馬車へと乗り込んだ。



俺たちが乗り込むのを確認し、金髪の男も向かいに座る。

それと同時に扉が閉められ馬車が動き出した。








「……………」




「……………」




「………ぅ…」




終始無言の馬車の中。


(いっ…息が詰まる…!)


呼吸さえも許されないような重く沈んだ空気。
目だけを動かして二人の顔を確認しようとするが、よく見えない。

このままずっとこんな空気に耐えなければならないのかと想像し、俺は硬直した。

















「…くっ……あはははっ!」



「えっ?」



「…ふふっ……」



「ア…アラジン!?」



突然笑い出した二人を交互に見る。

金髪の男は腹を抱え肩を震わせ、アラジンは口元を手で覆い笑いを堪えていた。

キョロキョロする俺を見て金髪の男がさらに笑う。


「…っ…わりいわりい。この空気に耐えられなくてつい…。
てかアラジン、なんでお前そんな仏頂面してんだよ!」


「アリババ王のほうこそ、柄にもなく黙り込んだりしてどうしたんだい?」


そんなアラジンの言葉に、アリババと呼ばれた男性は心外そうな顔をする。


「おいおい「アリババ王」なんて呼び方やめろよ。
昔みたいに「アリババくん」でいいじゃねえか!」


「僕だって大きくなったんだから、呼び方くらい変えさせておくれよ…」


この二人、一体どういう関係なんだろう…。
二人の会話を聞く限り相当親しい間柄であることは分かる。

しかも「昔みたいに」って…。


詮索するあまり俺は無意識のうちにアリババさんをジロジロ見ていたらしく、目が合うと此方に微笑みかけてきた。


「っと…自己紹介がまだだったな。

俺はアリババ・サルージャ。このバルバッド王国の第24代国王だ。よろしくな」


「こっ…国王!?」


薄々気付いてはいたが、自分が一国の王と同じ馬車に乗り、同じ目線で会話をしているということに驚きを隠せない。


「あ、国王だからって気ぃ遣うことないぞ。コイツも俺に向かって言いたい放題言ってるしな」


そう言ってアリババ王はアラジンを顎で指す。

アラジンは一瞬アリババ王の方を見たが、小さく鼻で笑うとそっぽを向いてしまった。


「あー……アラジンはちょっと機嫌が良くないみたいだな」


アリババ王は困ったように顔を掻き、それからニカッと俺に笑いかけた。



「とにかく、バルバッド王国 国王としてお前らを歓迎するぜ。



ようこそ、貿易の国バルバッドへ!!」




これが、俺にとって初めての「マギ」に選ばれた王様との出会いだった。






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