貿易の国「バルバッド」後編





男を追い掛け、俺はひたすら細い路地を走った。

初めて訪れた国の裏路地なんてわかるわけもなく、引き返そうにも戻れない。


それならいっそ、






(あいつを追い掛けてた方がいい!)



……気がする。










どれくらい走っただろうか。
ふと、目の前を行っていた男が立ち止まった。





「何なんだお前、人の後をしつこく付けて来やがって!!」


こちらを振り返りいきなり怒鳴る男。
そんな男に負けじと、俺も息を整えながら男を指差す。


「ふざけんなよテメェ、店の商品盗んだくせに!!」


その言葉に男の顔が引きつる。


「おまっ…何でそんなこと……!?」


「お前がしたことは全部お見通しなんだよ!大人しく商品を返して自首しやがれ!!」


ここまで追い詰めれば男も大人しく自分の行いを悔い改めると思っていた。


だが………




「ガキが偉そうに指図すんじゃねえ!どうやら痛い目みないと分かんねえみたいだな…」


「へ………」


男が取り出したナイフを俺は呆然と見つめる。


(ちょっと待てよ、これって……)



結構ヤバいんじゃないか?





ナイフを構えゆっくりと迫ってくる男と、ジリジリと後ずさりする俺。
恐怖に怯える俺の顔を見て、男はいやらしい笑みを浮かべる。




どれくらいそれを続けていただろうか……。

突如、俺の背中に堅いものがぶつかった。


「げっ………」


振り向き目に映ったのは、高く聳え立つ壁。
いつの間にか袋小路に入ってしまっていたようだ。


「もう逃げられねえぞ…。覚悟しろ!」




(あ―――――――)


ナイフを高く振りかざす男。覚えのある光景に、俺の体は完全に硬直した。


太陽の光を反射させギラギラと光る刃。

向けられる刃先。

動かない体。





(前はどうやって助かったんだっけ……)


こうやって誰かの恨みをかって、追い詰められて


(今みたいに、殺されそうになって……)





ギリギリのところで








アラジンが助けに来てくれた。





(そうだ、アラジン…)



強くて、優しくて、いつでも俺を守ってくれる存在。



でも、今はいないんだ。



これは自分で招いたことだから。だから、自分が傷つくのも仕方のないことなんだ…。



「死ねぇっ!!」




振り下ろされた刃が不思議とスローで見える。


いよいよ目前まで迫った刃先に、俺はギュッと目を瞑った。





















(あれ……?)




何も感じない。

強すぎる痛みは逆に感じないと聞いたことがあるが、ここまで感覚の無いものなのだろうか。



恐る恐る目を開けようとした、その時………









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