二人の旅





「うあー……。あっちー…」


真夏のような日差しにうなだれるジュダルの呟きを聞きながら、ただひたすら歩を進める。

ジュダルのいた町を出て早一週間。僕たちは西の貿易の国、バルバッドを目指していた。



「これくらいでへばってるようじゃ、立派なマギにはなれないよ?」


ジュダルの方を振り向き、からかうように言う。

するとジュダルはムキになったのか、僕のずっと前をズンズンと歩いていった。


(もう一週間だからね…)


流石に、ジュダルの扱いにも慣れてきた。というか、彼の行動パターンが決まってきた気がする。

機嫌が悪ければ挑発すればいい。機嫌が良ければそれをキープすればいい。


(相変わらず単純だなぁ…)


まぁ簡単でいいんだけど。


さて、今日はあとどれくらい進めるかな……。




…………………………

……………………

………………






「……ジュダル?」



僕の先を歩いていた筈のジュダルと何故かすれ違う。見ると、息を荒げて完全にへばっていた。

こうなると、いくら挑発しても無駄だろう。



「……今日はもう休もうか」


野営の準備をするために、僕は木陰に荷物を置いた。

だが――――――


「嫌だ!俺はまだ歩ける!!」


意地っ張りなジュダルが納得するわけがない。


「あんまり無理したら明日が大変だよ。それに、僕ももう休みた「嘘だ!絶対嘘だ!」」


喧嘩をしている猫のような唸り声をあげながらジュダルは反論する。


「だってアラジン、『僕はまだいけるけどジュダルがもう無理みたいだし今日は休もう』って顔してるじゃねえか!!」




どんな顔だよ。




「そんな顔してないよ…」



ジュダルがもう無理だとは思ったけれど。


「それに、まだ時間が早いから……ただ休むだけじゃないよ」


僕の言葉にジュダルは首を傾げる。


「何すんの?」



きょとんとしたジュダルに僕はフテキな笑みを向ける。


「ジュダルの大好きな魔法のお勉強だよ」



それを聞いて、あからさまに嫌な顔をするジュダル。ゆっくりと後ずさりをし、そして―――――



「あっ、こら!」



全速力でどこかへ走って行ってしまった。

が、


「うわぁっ!?」



数メートル先で派手に転んだ。
まぁ、体力が無い状態だったので当然だろう。



「はい捕まえた。
大人しく勉強しなさい」


「やだやだ!勉強なんてつまんない!!」



またこの子は……。
どれだけ勉強したくないんだ。



「勉強しないと魔法も使えないし、「マギ」にだってなれないんだよ?」



それを聞いて慌てたのはジュダル………
ではなく、彼のルフのほうだった。

鳴き声をあげながらジュダルの周りを忙しなく飛び回っている。



「君たちからもジュダルに何か言ってやっておくれよ。
君たちだって、どうせならジュダルに使ってほしいだろう?」



肯定するように鳴くルフたち。

だが、ジュダルには逆らえないようだ。



「そもそも、勉強なんかしなくたって魔法って使えるもんじゃないのか?」



「使えたら苦労はしないよね」



厳しく即答してやる。

するとジュダルは不機嫌そうな顔をして僕を指差した。


「じゃあ、アラジンも勉強したのかよ!」



「そりゃもう、狂ったように魔導書を読み漁ったよ」



「どうせやってないんだろ」とでも言いたそうな顔で言うジュダルに、現実を教える。

普段はジュダルに対して優しくしているつもりだが、魔法が絡んでくるとそれはまた別の話だ。



「アラジン怖い……」


「何とでも言えばいいよ」




正直僕だって焦っている。

何故かこの世界の「マギ」は役目を疎かにし、あまり王を選んでいない。
その分例外の「マギ」である僕が王を選ぶことで、僕が導くべき王の数が極端に偏っているのだ。

だから、ジュダルには早く
「マギ」として一人前になってもらい、王を導いてほしいと思っていたのだが…。



(この様子じゃ、まだまだ時間が掛かりそうだね)



ジュダルがやる気を出すまで、気長に待つしかない。


「そこまで嫌だって言うなら仕方ないね。
君はいい「マギ」になれると思ったんだけどな……」



僕はわざとらしい溜め息をつき、木陰に座り読みかけだった魔導書を開いて、それを読みながら視界の端に映るジュダルを観察する。

彼は暫く僕の方を見ていたが、くるりと後ろを向くと俯いて肩を震わせた。



(少し意地悪し過ぎたかな…)



僕は自分の大人気ない言動を反省しつつ、ジュダルのもとへ行こうと立ち上がりかけた。


しかしそれより早く、こちらを振り向いたジュダルが目を擦りながら歩いてきた。
僕も、そんな彼を見ながら広げた本を閉じる。


(やっぱり泣いてたかぁ…)



涙を溜めた瞳と鼻を啜る姿を見て、一気に申し訳なくなってくる。

お互い見つめ合うだけの沈黙の中、先に口を開いたのはジュダルのほうだった。






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