もう一人のマギ






「ん………」


次にアラジンが目を覚ましたのは、見知らぬ民家の布団の中だった。


(体が重い……)


起き上がろうにも体が全く言うことを聞かない。
あれからどれくらいの時間が経ったのか、アラジンには見当もつかなかった。


(やっぱり三カ所同時はキツかったかなぁ…)


奴らの出現に少し焦ったとはいえ、無理をし過ぎてしまった。
アラジンはそんな自分に自嘲気味の笑みを浮かべる。


(まだまだこれからが大変なのに、こんな調子じゃ駄目だよね……。もっと頑張らないと…)


そんなことを考えながら、アラジンは再び瞼を閉じようとした



その時――――――







「この疫病神が!!お前のせいで町が襲われたんだぞ!」



激しい怒鳴り声。
罵倒されているのが誰なのか…それは安易に想像できた。




「奴らは町を破壊しながらお前を探していた。
奴らの口からお前の名前が出たのを聞いた者が何人もいるんだ!!」


「俺は確かに聞いたぞ!
あいつらはずっと「ジュダルはどこだ」と言っていた!」


「あんたのせいで娘は死んだのよ!この疫病神!!」


「前に住んでいた村も似たような奴らに襲われて壊滅したそうじゃないか!
全ての元凶はお前だろう!!」



一向に収まる気配のない罵声に、たまらずアラジンは重い体に鞭を打って家の外へと出た。

見ると、誰かに突き飛ばされたのだろうか――――
ジュダルが尻餅をついて生き残った住民に囲まれていた。



「俺は本当に何も知らないんだよ!村を襲われた時だって、俺は関係なかった!!」


必死に主張するジュダルの声も、怒りと悲しみに狂った住民たちには届かない。


「お前、本当は奴らの仲間なんじゃないのか?
普段からけなされて、その仕返しに町を襲ったんだろ!?」



「違う、俺はそんなこと……!」



否定するジュダル。
しかし、誰も彼の言葉を聞こうとはしない。


「そうだ、そうに違いない」


「恐ろしい子…。まるで悪魔みたい」


「不気味な赤い目なんかしやがって……。
こんな奴、生かしておくわけにいかない」



「いっそのこと、殺してしまおうか」



「それがいい。こいつはただの疫病神だ。死んだって、誰も悲しみはしない」


住民たちは口々にそう言い、ある者は鎌を、ある者は短剣やナイフを手にした。



「や…やめ………」





「殺せ」

「殺せ」

「殺せ」

「殺せ」

「殺せ」

「殺せ」

「殺せ」

「殺せ」



刃物が次々とジュダルに向けて振り下ろされる。



「ひっ……………」















「やめろ!!」




その声に住民たちの手は止まった。
そして、皆が声のした方向を見る。


「マギ様……」


「マギ様だ……」



動かない体を懸命に動かし、人だかりに近付くアラジン。
アラジンが近付くと自然と人々は道を開け、囲まれていたジュダルの姿が見えてきた。


「アラジン……」


安心感からか、ボロボロと大粒の涙を流すジュダル。


「……大丈夫だよ。
君が悪い子じゃないってことは僕が一番分かってる」


そう言ってアラジンは微笑みながらジュダルに手を差し伸べた。ジュダルはそれをしっかりと握り締め、アラジンの隣に立つ。


「マギ様、どうして止めるのですか。そいつはこの町を危機に陥れたのですよ!」


「そうだ、あなたは何も分かっちゃいない!」


いつの間にか非難の言葉はアラジンに向けられるものになっていた。
それでも、当の本人は涼しい顔をしてそれを聞いている。

暫くの間住民たちの不満を聞いた後、アラジンが口を開いた。



「何も分かっていないのはあなた方のほうではないんですか?」


厳しい声音でそう告げるアラジン。その様子に、声を荒げていた住民も怯む。



「どういうことですか…?」


恐る恐る声を上げた住民も無視し、アラジンは冷たい目つきで人々を見回す。
自分たちの言動が彼の機嫌を損ねてしまったのではないかとビクビクする住民たち。



「……この中に占い師の方はいらっしゃいますか」


「え…えぇ、私ですが……」


派手な格好の中年女性がおずおずと手を上げる。

するとアラジンはその女性に近くに来るように言い、横にいるジュダルを指した。



「あなたはジュダルを見てどう思いますか」


「どうって………」


まるで汚いものを見るような目でジュダルを見る女性。そんな女性に、アラジンは淡々と質問を続ける。


「この子のルフを見てどう思うかと聞いているんです」


「ルフ……?」


アラジンの冷酷な表情に耐えかね、目線をジュダルに移す女性。
すると、暫くジュダルを見た後、女性は目を見開き後ずさりをした。



「もうお分かり頂けましたね?」



「そ…そんな……。嘘よ!そんなこと………!!」



豹変した女性の様子に、周囲の人々がざわめき始める。
勿論、ジュダル自身その意味を分かっていない。







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