もう一人のマギ
「単刀直入に申し上げます」
混乱する住民たちの間に、アラジンの凛とした声が響く。
「ジュダルは「マギ」です」
一瞬の静寂。
まるで時間が止まったかのように、人々の声がピタリと止んだ。
だが、その顔は皆青ざめている。
今まで自分たちがしてきたことは。
自分たちが蔑んでいた者は。
今自分たちが殺めようとしていた命は――――――
「あなた方が今まで虐げ、殺そうとしていたのは、王とこの世界を導く「マギ」。ならば、この惨状も自業自得でしょう」
アラジンの言葉に町の人たちの動揺は広がる。
「お…お待ちくださいマギ様!!どうか、我らが町にルフの加護を……!」
しかしアラジンは冷たい表情を崩さない。
「それは僕に頼むことではないはずですよ。
この町には「マギ」がいるんですから」
住民たちの目線が一気にジュダルに集中する。
「お…俺……!?」
慌てるジュダルに、アラジンはさっきとは打って変わって優しい声音で語りかけた。
「この町の人たちを許すか許さないか……。
君の意見を聞かせておくれ」
いきなりのことに驚くも、ジュダルは決心したように住民たちをしっかりと見た。
「俺は…………
この町の人たちを許すよ」
「ジュダル………」
信じられない。しかし、どこかホッとしたような表情をする住民たち。
「酷いことも色々と言われたけど、それは俺にも責任があるし……皆が皆、悪い人じゃないってことも分かってる。
だから俺は、この町の人たちを恨んだりはしないよ」
住民だけでなく、アラジンもその言葉に驚き目を見開く。
が、どこか嬉しそうに笑うと柔らかい表情で人々にこう言った。
「この町の「マギ」は、あなた方を許すと言いました。いずれこの町にはルフと、それに愛されし「マギ」の加護があることでしょう」
「しかし…」と、アラジンは言葉を濁す。
「ジュダルはまだ「マギ」として未熟です。おまけに、この町には魔法を教えることの出来る魔法使いはいない。そこで――――――」
アラジンはジュダルの肩に手を置いた。
「ジュダルを、僕の旅に同行させたいんです」
ここぞとばかりの満面の笑みで、とんでもないことを言うアラジン。
当然、その周りの人々も、ジュダルさえもが固まった。
「無理に、とは言いません。一緒に行くかどうかはジュダル自身の判断に任せます」
「しかし、それではマギ様のお邪魔になるのでは…」
そんな言葉に、アラジンは首を振る。
「邪魔になんてなりませんよ。それに、「マギ」にはこの世界を知る義務と権利がある。その点、今のジュダルは世界のことを知らなさ過ぎます。
だから、ジュダルには僕と一緒に来て世界のことを知って欲しいんです」
アラジンの言葉に納得したのか、住民たちはジュダルの方を見た。
「ジュダルはどうしたい?この町に残るか、僕と一緒に来るか……」
「俺…は………」
決めかねているのか、ジュダルは俯いてしまう。
が、勢い良く顔を上げ、アラジンを見た。
「俺は、アラジンと一緒に行きたい。
もっともっと、この世界のことを―――――自分のことを知りたい!!」
ジュダルの発言に、アラジンは満足げに笑う。
「と、いうことらしいので。
ジュダルのことは僕に任せてください」
「マギ様…ジュダルのことを、宜しくお願いいたします」
一斉に頭を下げる住民たち。毛嫌いしていたとはいえ、心のどこかでジュダルのことを気にかけていたのかもしれない。
アラジンも軽く頭を下げ、ジュダルのほうを見る。
「出発は明日の朝にするよ。それまでに、大事な荷物をまとめておくんだよ」
「うん…。あの、アラジン…」
アラジンが振り向くと、笑顔のジュダルがそこにはいた。
「ありがとう…!」
「どういたしまして。
これから宜しくね、ジュダル」
微笑み合った二人の「マギ」。
そんな二人の旅を祝福するかのように、一羽のルフ鳥が鳴き声を上げ空高くへと昇っていった。