もう一人のマギ





「よ……っと」


鐘楼塔の頂上に着いたアラジンはターバンから降り、町全体を見渡した。

まださっきの男の仲間が暴れているのか、所々で新たな騒ぎが起きている。



(方角は二時・七時・十時か…。ちょっとキツいけれど、狙えないことはないかな……)



敵の位置を確認し、アラジンは周囲のルフを集め始める。

相手に感づかれないように、慎重に―――――



「すっげー!空飛んだのなんて初めてだ!!
「マギ」ってやっぱり凄いんだな!!」



背後からの楽しそうな声に集中が途切れる。
アラジンは注意しようと振り向いたが、目を輝かせたジュダルの顔を見ると言葉に詰まってしまった。



「いいなぁ…。俺も魔法使いに生まれたかったなぁ…。
いや、どうせなら「マギ」になりたかったかも……」



「………ジュダルなら、きっといい「マギ」になれるよ」



アラジンはジュダルの小言にそう返すと再び前を向いた。
優しい声とは裏腹に、その顔には表情が無い。



(「マギ」になりたい…か)



自分はそんな風に思ったことがあっただろうか。
「マギ」で良かったと思う瞬間は何度もあった。だが、そんなこともアラジンにとってはずっと昔のこと。



(最近はそんなこと考えてなかったな……)



変わってしまった自分に、アラジンは「はぁ…」と溜め息をつく。




「なぁ、どうやってあいつらを倒すの?」



「遠隔魔法で一気に倒す。ちょっと集中しなきゃ駄目だから、暫く大人しくしててね」



そう言いながらアラジンは周囲のルフを集め、魔力に変換をはじめる。
それはやがて渦を巻くほどまでになり、曇った空に映えより一層白く輝いて見えた。









「還れ。ソロモンのもとへ」




アラジンの声と同時に二時、七時、十時の方角にに光の柱が現れる。


そしてそれが消える頃には辺りは白いルフに包まれていた。



「すご………」



唖然とするジュダルを背に、アラジンは苦しそうな表情でその場に崩れ落ちる。



「アラジン!?」



心配そうな顔でアラジンの側に駆け寄るジュダル。

そんなジュダルの顔を横目で確認したアラジンは、安心させようと懸命に苦しそうな表情を隠し、笑顔をつくった。



「大…丈夫……。ちょっと魔力を使いすぎて疲れちゃっただけだから………」



「でも、アラジン苦しそう……」



今にも泣いてしまいそうなジュダルの顔にアラジンは笑みを浮かべる。



「ありがとう。ジュダルは優しいんだね……」



「べっ…別にそんなんじゃ…」



「でも、もう少し頑張らなきゃ……。このままじゃ町が全焼しちゃうからね」



そう言うとアラジンは杖を支えに立ち上がり、町の中心部の方を見た。



「みんな、もう少しだけ僕に力を貸しておくれよ…」


すると、アラジンの声に応えるかのようにルフたちが集まってくる。

さらにアラジンの与える命令式によって、町全体に分厚い雨雲が現れた。



「あとは頼んだ…よ………」



そう言い残すとアラジンはまるで糸が切れたようにその場に倒れ込む。
その数秒後雨雲から激しい雨が降り始め、町からは完全に火の手が消えた。



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