もしも君を救えたならば











白い空間に静寂が戻る。

アラジンを見ると、何も言わずにただ俯いている。


やっぱり図星だったのか。そうだよな……。好きでこんな所まで敵だった奴を助けに来る奴なんて、いるわけないよな……。



「もういいだろ。悪いこと言わねぇからさっさと帰れ。俺はこのまま「……じゃ…ない………」



突然聞こえた自分以外の声により、俺の声は遮られてしまった。


そして目の前には、拳を握り締めて俺を睨むアラジンがいた。


「嫌々なんかじゃない…。
中途半端な覚悟でここに来たわけじゃない!!」



「へ……………」


そう叫んだアラジンが突然








飛 び か か っ て き た








「うおぉぉぁ!?」



いきなり過ぎるアラジンの行動に、何も出来ない俺。

勢い良く押し倒され、頭を強打する。



「ってぇ……。
おいコラ何し…て………」


ふと、自分の胸の辺りに水滴が落ちたのを感じた。

そして、俺の上に馬乗りになって俺を見下ろすアラジンの目からは大粒の涙。



「ジュダルくんのバカァ!!

嫌々でこんな所まで来れるわけないだろう!?
何の覚悟も無しに僕が来たとでも思ってるのかい!?」


あまりの気迫に唖然とする俺を余所に、アラジンは言葉を続ける。


「君って、いっつもそうだよね!?人の気持ち考えないで勝手なことばっかり言って弱いくせに強がって!

しかも、わざわざ助けに来たのに「帰れ」?「俺に構うな」?

ほんっっっとに、清々しいくらいバカだよね君は!!」



「はい……」


ここまで言われると、肯定せざるを得ない。



「ここまで来たのは僕の意思だ。こんなことで君を解放出来るのかも正直分からないし、失敗すれば………




君に残った黒いルフの作用で、僕は堕転するかもしれない」



「なっ……!?」


アラジンが堕転する?
そんな馬鹿なこと……。


「あり得ねーだろ……」


しかし、俺の言葉にアラジンは首を振った。


「いや、十分あり得るよ。

君がさっきまでいた黒い空間を覚えてるかい?
あそこが、君の精神空間…心の中なんだ。

そして、この白い空間が僕の空間。

今は君の中にお邪魔している状態だから、僕の空間はほんの僅かなものでしかないし、常に君の黒い空間に侵食されている。


もしこの空間が完全に消滅すれば、僕の精神……つまりルフは黒に染まる」



俺は言葉を失った。

そんなリスクを抱えてまでコイツが俺を助けに来てくれたなんて、全然知らなかった。





でも


それでも…………





「やっぱり、お前と一緒には………行けない」


「どうして……!?」


悲しそうなアラジンの声が耳に突き刺さる。


「俺は今まで沢山の人を傷つけてきた。罪の無い他人を………殺したことだってある。

そんな俺が、今更真っ当に生きるわけにはいかない。

一人だけ のうのうと生きることなんて、許されないんだよ!!」



絶対にコイツの前だけでは泣かないって決めてたのに、俺の目からは自然と涙が溢れ出た。

今日だけで少なくとも二回は泣いてるな……。俺って本当に弱い奴。



「そう思うなら、これから真っ当に生きて犠牲にしてきた人の分まで生きろ!
それが君に出来る罪滅ぼしだろう!?」


「それが出来ないから
こんなことになってんじゃねぇかよぉ……。

堕転から解放されたって、どうせまた奴らに利用されるに決まってるし。




本当は、マギになんか生まれてきたくなかった。

普通の人間として生きたかった……!!」



アラジンに攻め立てられ、つい本音が出てしまった。




そうだ……
本当はマギになんか生まれたくなかった。
普通の人間として、普通の村で、普通の家族に囲まれて、普通の暮らしがしたかった。


ただ、それだけなんだ。




「………わかったよ」


そう言うとアラジンは俺の上から退き、すっと立ち上がった。
体の自由を取り戻した俺は上半身だけをゆっくりと起こす。

流石のコイツも泣きじゃくる俺を見て諦めたようだ。

いやほんと、恥ずかしくてしょうがな―――――



「僕が君を、マギでも魔法使いでもない………







ただの人間にしてやる」




「えっ……………」




えぇぇぇぇぇ!?




「むっ…無理無理!!そんなこと出来るわけねーって!!」


「そんなのやってみなきゃ分かんないよ?」


「「やってみなきゃ」って、お前………。



大体、俺が普通の人間になったところで身内も帰る家もないし、どうしろっていうんだよ……」


「シンドリアに住めばいいじゃないか。
シンドバッドおじさんとは兄弟なんだろう?」


さも当たり前かのように
きょとんとした顔で
とんでもないことを言いやがった。

シンドバッドが俺を受け入れる?



ないない。絶対ない。



「無理だって。アイツ俺のことスッゲー嫌ってるし」


俺の返答に「そうなのかい?」と意外そうにするアラジン。逆に、何故意外そうにするのかが知りたい。


「うーん……じゃあさ」


次は何を言ってくるのか。

内心ビクビクしている俺がいる。
















「僕と兄弟になればいいんじゃないかな?」















ほら、また変なことを言い出し…………




言い……………………









「はあぁ!?」



なに考えてんだコイツ!?








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