もしも君を救えたならば



捏造を含みます

無理な人はUターン

大丈夫な方はこのまま下へどうぞ。
――――――――――――










真っ暗な空間に俺は立っていた。

体がふわふわする。まるで肉体が無く、魂と精神だけで存在しているような、そんな感じ。



あぁ、俺………





「死んだのかな……」


今思えば酷い人生だった。生まれてすぐに親を殺され、利用され、堕転して、常に縛られていた人生。

もし自分がマギとして生を受けていなければ、今頃平和に暮らしていたのだろうか。小さな村で、両親や兄弟――――シンドバットと一緒に。





いや、それよりも




(俺が生まれなければ……)


俺さえいなければ、「世界の異変」は進まなかったのか。煌帝国も、あんなに大きな国にはならなかったのか。
それとも、自分の代わりに他のマギが存在していただろうか。


考え始めたら止まらない。



だが、俺にはもう関係のない話だ。


これから俺は、誰にも出会わないまま一人でこの暗闇をさ迷い続けるのだろう。

でも、不思議と恐怖はない。
今更会いたいなんて思う奴もいない。



「ははっ……。そっか……そうだよなぁ」



一人だ一人だと嘆いていたさっきまでの自分が可笑しくてたまらなくなった。
答えなんて、分かりきったことなのに。


俺は………











「最初から一人だったんだ」







そう口にした瞬間、俺は涙を流していた。


(分かってたことなのに…)


自分には家族も、信頼出来る仲間も、本当に大切な人もいない。


(苦…しい……)


ぐちゃぐちゃになったわけの分からない感情が一気に流れ込んできて、今自分が笑っているのか、泣いているのかもわからない。


(もういい…)


もう、消えてもいい……。

自分の黒いルフが何処に還るのかは分からない。
もしかすると、アルサーメンのもとに戻ってまた利用されるのかもしれない。


(それも俺の運命…か)



もう意識を保つことさえも苦痛になってきた。
このまま目を閉じてしまおうか。

そう思った時―――――


(なんだ……?)


目に入ってきたのは、暗闇の中に浮かぶ光。
まるで自分を誘っているかのような光に、俺はフラフラと近付いていった。


すると………












「うわっ!?」


一瞬強い光に包まれたかと思うと、さっきとは正反対の真っ白な空間に俺は立っていた。


「何処だよここ……」


周りを見渡しても、さっきと同じで自分以外には何もない。だが、微かな温もりを感じる。

本当に、ここは一体―――




「あぁよかった。無事に会えて安心したよ」



「え………」


聞こえてきたのは、ここに存在する筈のないアイツの声。




「チビ……お前、なんでこんな所に………」


呆然とする俺をよそに、笑顔でチビ――――アラジンが近付いてきた。


「なんでって、君を助けに来たに決まってるじゃないか」



「助けに……」



どうして、何でよりによってお前が来るんだよ。
今まで沢山酷いことして、傷付けて、悲しい思いさせてきたのに……。


「でも、俺はもう死んで…」


「君はまだ死んでないよ」


「え…。じゃあ、この体は一体……」


何が何だかわけが分からない。


「君は今……僕もだけれど、ルフの塊でしかないんだ。だから肉体が無いような感じがするんだよ」


成る程な。ようやく理解出来た。
ん?待てよ………


「そもそも、何でこんなことになってんだ?」


俺の問い掛けに、アラジンは眉をひそめる。


「もしかして何も覚えてないのかい?」


俺が無言で頷くと、アラジンはさらに驚いたような顔をして小さく溜め息をついた。


「じゃ、僕が説明するよ。


僕たちは戦ってたんだ。
ついさっきまでね」


信じられなかった。何故なら、俺の中にそんな記憶が全く残っていなかったからだ。


「俺とお前が…か?」


「うん。あと、シンドバッドおじさんやアリババくんも一緒に。
本当に、何も覚えてない?」


「あぁ………」


「…そっか。

でね、その後僕たちは黒いルフの制圧に成功したんだ。つまり、君の周りの黒ルフたちを完全に取り去ったんだよ」


俺の黒ルフを………。
それってつまり、


「俺、負けたんだな……」


負けたから、アルサーメンの奴らにさえ見放されたってわけか。
ある程度覚悟はしてたが、本当にこんなことになるなんてな……。


ふと視線を感じアラジンのほうを見てみると、何とも言えない悲しそうな顔をしていた。


「……そんな顔すんなよ。余計惨めな気分になるだろうが」


「ごめん………」


「別にいいけどよ…。

それより、まだ話の続きがあるんだろ?」


「……うん。でね、その後君は意識を失っちゃって……。その時におじさんが、
『ジュダルを助けるなら今しかない』って」


「俺を助ける?」


一体、何から………?
この状況から…か?




「君を助けるってことは、つまり………






君を堕転から解放するってことなんだ」












……………………




堕転から解放?


誰を?



「俺………を?」


戸惑う俺の前で、チビはいつもの調子で俺に笑いかけた。


「そう、君を。


さぁ、一緒に帰ろう?
そうすれば君はきっと堕転から解放される」


アラジンが俺に手を差し出す。

だが、俺にはその手を取ることが出来なかった。


「無理………だ」



振り絞るように出した声。自分でも情けない。


「無理じゃないよ。確かに、解放された後どうなるのかは僕にも分からない。
普通のマギに戻るのか、ただの人に戻るのか……。

でも、少なくとも今までの辛い状況からは抜け出せると思うんだ。

だから――――――」




「無理だって言ってんだろうが!!!」


俺の怒鳴り声にアラジンの肩がビクッと跳ねる。

「しまった」と思った時にはもう遅かった。
俺の口から、今まで溜めてきたモノが全て吐き出される。



「俺が今までどんな思いで生きてきたか、お前に分かるのかよ!?」



駄目だ


「使い物にならなくなった瞬間捨てられる辛さが、怖さが、お前に分かるのかよ!?」



違うんだ



「お前らの都合だけで堕転から解放だの何だの勝手に決めて」



こんなこと言いたいんじゃなくて



「本当に助けたいなんて
これっぽっちも思ってないくせに」



口が、勝手に動く



「ここまで来たのも、どうせシンドバットに言われて嫌々だったんだろ」



嫌だ


やめろ


辛い


苦しい


悲しい




「中途半端な覚悟で助けに来たなんて言われても全然嬉しくねぇし、助けなんていらねえ!!さっさと帰れよ!もう俺に構うな!!!」









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