×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

[]      [
彼女が惚れ薬を作ったらしい


「サスケくん。惚れ薬って、作ったら使う?」

 碧が数日前にそんなことを言っていたなと、冷蔵庫の中を見て思い出す。透明な瓶に詰められた数個の丸薬。俺に叱られたことをきちんと改善したようで、飲み薬でもなければ、瓶に『惚れ薬』とラベルまで貼られている。
 しかしその質問をされた時には確か、「……何に使うってんだ」と否定したはずだったが。まあ碧のことだから、興味の有無だけで作り上げたのだろう。変なところが頑固なので、『作る』と彼女の中で決まったのなら、それがどんなに必要なかろうと作ってしまうのだ。

「……」

 小さな瓶を手に取り、冷蔵庫を閉める。一度は必要ないと言ったが、目の前に在ると効果を試したくなるものだな。
 別室のソファで寛いでいる碧の元へ行き、隣に座る。丸薬が中で踊り、カラカラとガラスの渇いた音が響いたから、碧が俺の手元に目をやった。

「あ、それ」
「結局作ったんだな」
「うん。面白いかなと思って」

 まあ、面白いか面白くないかで言えば、面白いであろうが。
 ふ、と笑うと碧が俺の手から瓶を取った。金属の蓋をくるくると回して開け、傾けて手のひらに薬を出す。黒くつやつやとした丸薬。

「チョコ味なんだよ」
「なんでだ……」
「チョコレートには媚薬の効果があるって言われてるから、それに因んでね。まあ迷信レベルなんだけど」

 言いながら、それこそ菓子を摘まむようにして口へ放り込んだ。
 驚いた。試しに飲んでみてくれないかと持ち掛けようとは思っていたが、そのようなやり取りも無しにいきなり食べてしまうとは。

「大丈夫なのか?」
「え? うん。もう何粒か食べてるから」
「は、……」

 と言うことは、碧にはすでに効果が出ているということか。しかし特段変わったところは無かったように思うが。
 カリコリと丸薬を噛む音が、碧の口から聞こえる。ニコニコしているから、美味いらしい。

「やっぱり元々大好きだったらあんまり意味無いのかな」
「……惚れ薬だからな」
「ふふ、なんとなく気持ちが強くなってる感じはするけどね」

 碧に限って失敗作は無い。そもそも失敗作をわざわざラベル付の瓶には入れないだろうし。
 服用から十五分ほどで効果が表れるとか、元々好いている人への情愛が高まるだとか、薬の説明をくれる。略奪愛のようなことはできないということか。
 ふうん、と感心の相槌を打つと、碧は薬を乗せた手を俺の前に差し出した。

「サスケくんも食べて」

 にこりと微笑みかけながら、甘えるような声で言う。白い手のひらの上の黒い丸薬。眉をひそめ、チョコレート味であるらしいそれをねめつける。

「……甘いんだろう、それ」
「噛めばすぐだよ」
「…………」

 引く気は無いらしい。
 碧の『お願い』に弱い自覚のある俺は、今回もそれに屈することになる。別段、勝つつもりも無いが。
 溜息を一つして、碧の手から黒丸を摘まみ取る。もう一呼吸の間それを睨み、覚悟ができたら口を開ける。
 放り込んだ黒い玉からは確かにチョコレートの味。しかしまあ、薬の味もするので、決してチョコレートそのものの味ではない。

「不味い?」

 その聞き方はどうなのだ、と思いながら「……苦手だ」と返す。以前飲んだ変身薬に比べれば、食べ物の味であるだけましではあった。
 ガリガリと噛み砕き、ごくん。水で甘みを流し込みたいところだが、そういえばさっき冷蔵庫に行ったのは飲み物を取りに行ったのだった。持ってくるのを忘れていた。
 そんなことを考えていると、右腕に重みが掛かる。碧がもたれ掛かっていた。

「ふふふ」
「……なんだ」
「なんでもないよ。ただ、薬のせいかなぁ、甘えたくって……」
「……」

 肩に頭をすり付けるようにして、それから腕も絡める。決して珍しいわけではないが、頻度は少ない碧からのスキンシップ。薬なんかよりよっぽど効果覿面だ。
 幸せそうに、頬を緩めて目を閉じて。なんとなく照れ臭くて、反対側の手でむにむにと頬を摘まんでやる。くすぐったそうにまた笑って、少し顔を上げたから、目が合って、自然な流れでキスをする。ああほら、やっぱり惚れ薬なんか要らなかったじゃないか。

「サスケくんはまだ薬が効いてきてないはずなんだけどなぁ」
「これは元からだ」
「えへへ、嬉しい」

 碧は、俺と居る時にはほとんどずっと口角が上がりっぱなしなのだが、それが今日は顕著なようだ。その程度の効果。
 いやしかし、元々ベタ惚れである彼女の気持ちが更に強くなるということだ。それってなかなかに凄いことなんじゃないか? (俺の自惚れすぎか)

 いい加減、幸せそうにほやほや笑う碧に我慢が効かなくなってくる。碧に絡みつかれている右腕を、彼女の腰の方へ回して、手を突く。そうすると自然と、俺に凭れていたのを少し離れて、俺を窺うように見た。それをそのまま、ゆっくりと押し倒し、ソファの手摺に碧の背が乗ったから顔が近付き、流れでそっと口付ける。俺の腕に絡んでいた碧の腕は、それを望んでいたと言わんばかりに俺の首後ろへと回り、抱き付いている。碧の口角が相変わらず上がっているのが、キスをする唇の感触で分かる。
(可愛いすぎる……)
 キスを深めると、小さく声をこぼす。絡まる舌の感触、碧の唾液の味、息遣い。全部愛おしい。なるべく密着しようと碧が動くのに、俺も応えようとソファに膝を上げる。碧の首元に顔を埋めるようにして、抱きすくめる。

「んん……」
「はぁ……。やっぱ薬、いらねえな」
「そだね」

 今は顔が見えないが、声の様子から笑っているよう。また頬ずりをして、俺の髪をくしゅくしゅとこすっている。

「サスケくん」
「……ぅん?」
「その、……するの?」

 はっきり言葉にはしなかったが、いわゆる男女の絡み合いをいたすのか、とそう問うている。それには首を横に振り、ひとまず今はその意思は無いと答える。

「“今”はな」
「?」
「あと十分もすれば、どうせしたくなるだろ」
「ああ……まあ、そうなのかな」

 だから今は、せいぜいスキンシップを楽しませてもらう。別に、性行為をするだけが愛情表現じゃ無い。(相手を思う気持ちが強くなると何故だかしたくなるのも真実だが)
 ただ、碧が少しもじもじと物足りなさそうにはしているので、その時にはめいいっぱい、愛してやるつもりではある。



(151022)


 []      []
絵文字で感想を伝える!(匿名メッセージも可)
[感想を届ける!]