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真夏のお誘い


「それではみなさん、有意義な夏休みを」

 そうやって締められた朝礼。
 長い時間立ちっ放しだったから少し足が疲れた。


 真夏のお誘い




「注意のプリントを良く読んで、保護者にもちゃんと見せるんだぞ」

 教室に戻るとたくさんの連絡プリントを配られ、成績表も順番に渡された。隣のサスケくんと成績表の見せ合いっこをしてみたりもした。やっぱりサスケくんはどれも1位で、すごいなあと感心する。かく言う私は学年で11番目で、女子の中では3番目か4番目くらいだった。クラスは二つしかないから、54人中11番と言えば結構上だ。でもサスケくんには「思ってたより下だな」と言われてしまったので、なんだか照れてしまう。

「テストの点数は悪くねえのに」
「たぶん、寝てたりサボったりしたからだと思う」

 欠席も何日かしてしまったから、平常点が低いんだ。でもあれは仕方ないと思うんですが。

 夏休みの宿題は昨日までに配り終わっていたみたいで、新しい課題が増えずほっとする。宿題が多いと医療の勉強に回す時間が減ってしまうから、心配していたのだ。ただでさえあまり捗っていないから、夏休みの間になんとか本だけでも全て読んでおきたい。幸いいくら遅くまで起きていても遅くまで眠っていても怒る人は誰もいないから、自分のペースで好きなだけ読める。
 学校の宿題は早い内に終わらせてしまって、医療の勉強をいっぱいしよう。それが今年の夏休みの過ごし方の予定。今までは余計に暇な時間が増えるだけの苦しい時期だったけど、今年は充実した有意義な夏休みになりそうだ。


 先生が解散の号令を掛けると、教室内はがやがやと動き出す。しばらく人が少なくなるまで待って、私とサスケくんも立ち上がった。小さく何度か咳をするサスケくんの後ろへ付いて教室を後にする。

 数日前の雷雨の日から、軽い風邪を引き摺っているみたいだ。拗らせはしないかと心配しながら、口の前に軽く握った拳を当てながら咳をするサスケくんを見る。

「……まだ治らない?」
「ん、ああ……。しつこい風邪だ」

 幸い今日から夏休み、ゆっくり身体を休めて養生できる。そうするようにサスケくんに言えば、分かってるよと苦笑いしながら言われた。

「心配性だな」
「だって、……心配だもん」

 世の中には風邪を拗らせて死んじゃう人だって居る。たかが風邪なんて油断してると危ないんだ。

「それにサスケくんだって同じ立場だったら、きっと同じように注意してるよ」
「……ん、そうかもな」
「ね?」

 サスケくんは私に関してはやたらと心配してくるくせに、自分のことには無関心なきらいがある。だから余計に心配なんだけど、サスケくんは分かってくれない。しかしそれを言えばサスケくんは、「お前だって似たようなもんだろ」と返してきた。え、そうかな。

「そんなことないと思うんだけど……」
「お前は辛いのを隠そうとするだろ。辛い時に気付いてやれないかもしれねえから、そういうのやめろよ」

 だって、辛い辛いって無闇に言ったって、相手を無駄に心配させたりイラつかせたりするだけだから。我慢できることならなるべく我慢した方が良いと思うの。
 でも、約束したから。

「……大丈夫だよ。どうしても無理な時はちゃんと言うから」
「ホントか?」
「うん。……ほら、この前だって、どうしてもカミナリ怖いから、サスケくんに頼ったよ」
「……そう、だな。そうだった」

 思い出すように斜めに空を見上げながら、サスケくんは呟いた。図々しくも泊まらせてと自ら願い出たその時のことを思い出すと、やっぱり恥ずかしい。体温が上昇するのを感じて、汗を拭う振りをして頬を隠す。まだ空を見ているサスケくんの横顔を窺えば、なんだかにこにこしていて、余計恥ずかしくなった。

「……サスケくん、嬉しそうだね」
「……まあな。あん時のお前、可愛かったからな」

 そ、そんなこと考えてたの!? は、は恥ずかしい……。
 かっかと熱が上がる顔をなんとか隠そうと俯くけど、サスケくんに「耳、真っ赤だぜ」と言われて無駄だと気付く。しかし顔を上げるのはかなわず、しばらくそのまま歩き続ける。

 燦々と太陽が照り付ける道が暑くて敵わない。風もあまり吹かないし、吹いてもそよ風、しかも熱風だ。蝉も鳴き始めているから、聴覚からも『暑い』と信号が送られる。そんな夏真っ盛りな気候だけど、まだもう少し暑くなるだろうか。今の時点で正直うんざりするくらいの汗を掻いているのだけど、もっとなんて大変だ。汗臭くなってたらやだなあ、もうちょっと距離を置いたほうが良いだろうか、なんて思ってしまう。この間泊めてもらった朝なんて、近く寄り添って(いや実際は「抱き締められて」なんだけどそう言うと恥ずかしいだけです)寝ていたはずなんだけど、起きて気が付くと暑かったのか離れていたし、寝汗もかなり掻いていて焦った。恋する女の子には気苦労の絶えない季節です。

 しかし夏休みに入れば、必然学校には行かないし、会う機会も少なくなるのだろうか。それはちょっと寂しい。でも会いたいなんて言ったら、迷惑かなぁ。いやサスケくんに限ってそんなことは言わないし考えないだろうけど、私はまだ遠慮しいなところがあるみたいなので自然とそう考えてしまう。修業熱心なサスケくんのことだから、電話が繋がらないなんてこともありそうだ。それは凹みそうだなあ。

 悶々といろんな事を考えていると、サスケくんが少し言いにくそうに切り出した。「なぁ、その……」と濁している間に私は今までの思考を打ち切り、サスケくんに向く。

「……どうしたの?」
「その……あれだ、……明後日の、……」
「?」

 顔を向こうに背けてしまっているから表情がよく見えない。「その」とか「あの」とか、濁す言葉や音を交えながら何かを言おうとしているサスケくんをよくよく見てみると、ほんの少し頬が赤くなっているような気がするし、耳も同じくそうで、ポケットに入れた手をそわそわと動かしているし、カバンの肩紐に掛けた手も落ち着かないように動いている。要するに緊張しているみたいだ。照れているのか恥ずかしいのか、とにかくそこまで言葉を濁すサスケくんは初めて見たのでちょっと新鮮で、失礼かもしれないし言えば不貞腐れそうだけど可愛いとも思った。

 意を決したのか言い改めるのか、小さく深呼吸して顔を背けるのをやめる。でも真っ直ぐこちらを見るのはまだできないみたいで、正面を向いたままちらりと横目で私を見た。
 ごめんねサスケくん、やっぱり可愛い。

「……明後日の夏祭り、……一緒に行かないか?」

 言いながらサスケくんはもっと赤くなって、少し俯いた。私も一緒になって赤くなり、二人して熱中症か日射病になったみたいだった。

 これはつまり、……その、デートのお誘い、だろうか。

 考えたら余計恥ずかしくなって照れた。今まで一度もそれらしいことはしたことがなかったし、しなくても別に何の不満もなかったけど、いざ誘われるとなんだかすごく嬉しい。
 そりゃあ確かに、……キス、とかしたり、家に泊まらせてもらったりはしたけど、デートだなんて、本当の本当に恋人なんだなあと実感する。いや、ちゃんとそうだって分かってるし一応自覚もあります。あるけど、わあ、なんだか本当に恋人っぽい。

「……う、ん。良いよ。……と言うか是非ご一緒させてください」

 質問されてから何秒か経ってから、ようやく返事を返せた。するとサスケくんはほっとしたように表情を緩めて、それから「なんだそれ」と言いながら少し笑った。
 もしかしてこの数秒の間に、もしか私が断るんじゃないだろうかなんて思ってしまっていたんだろうか。そうだとしたら悪いことをした。恋人っぽいと喜んでないで早く返事をすれば良かった。


 いつの間にやら私たちは私の家に辿り着いていて、私は足を止めたサスケくんにはっとして顔を上げた。時間の経過が早いのか、歩くのが速かったのかは定かではないけど、なんだかいつもより道程が短かったような気がする。名残惜しいなあと後ろ髪引かれる思いで門に手を掛ける。

「そうだ。お前、浴衣とか持ってるのか?」
「え? あ、ううん。持ってない」
「そうか。じゃあ明日一緒に買いに行こうぜ」
「えっ!」

 あれっ、もしかしてこれもデートになるのかな。
 なんて喜んでいると、サスケくんもそれに気付いたらしく急に照れて真っ赤になった。うわあ可愛い、なんて自分も真っ赤になってそれどころではないので今は思えない。

「ぅ、あ、うん! 一緒に、……あっ、でもお金が……」
「あ、それなら俺が、買う、から」
「え、あ、ホント、に? 良いの? 高いかも……」
「良い、どうせ俺も、一緒に買うか、ら、」

 なんだかとても初々しい状態になっている自分たちが、やたらに恥ずかしい。道行く人がちょっと微笑みながら歩いていくから余計恥ずかしい。どもりどもり会話するなんて、付き合い始めの頃にもなかったのに、今そんな状態になっているのがなんだかおかしい。
 だんだんそれが笑えてきて、照れより笑いが上回ってきて、どちらからともなく笑い出した。大きな声でじゃないけど、一緒になってクスクス笑えるのがすごく楽しい。

「バカみてえだな」
「ホントだね」

 幸せだなぁ。
 私すごく幸せだ。

 こんなに優しくてかっこよくて強くて頼りになる人が自分の恋人だなんて、今でも時々夢なんじゃないかと思う。でも何度眠って目を覚まそうがこれは現実で、事実で、真実だ。それを感じる度に私は幸せで幸せで胸が一杯になる。今もだ。
 自分が他人から見てどんなに不幸な境遇でも、それを他人にどれだけ嘆かれようと、私『最低』でも『最悪』でもないよと胸を張って言える。だって私には、サスケくんが居る。
 不幸なんかじゃないよ。
 「不」なんか付けなくて良い。ただの「幸」だ。

「じゃあ、明日迎えに来る。何時頃が良い?」
「え、迎えに!? 良いの!?」
「良いって。ほら、何時にするんだ?」
「えっと、じゃあ……お昼食べてからの方が良いよね? 二時くらいが良いかな……」
「ん。分かった」

 てっきりどこかで待ち合わせするものだと思っていたから、やたらと驚いてしまった。サスケくんがわざわざ私を迎えに来てくれる、なんて思いもしていなかったのだから、仕方ないと言えばそう。

 「二時な」と確認するように呟いた後、サスケくんは嬉しそうに小さく笑んだ。私に向けて、ではなくて、呟きついでに無意識にしたようだったので、その笑みは斜め下の地面に向いていた。その笑みがあまりにも純粋で綺麗な喜びを体現した純粋で綺麗な笑みだったから、一瞬息をするのを忘れて見惚れてしまった。


 ああ、好き、だなあ。
 本当に本当に、大好きだよ。


 きゅん、と胸が締め付けられるような感じがして、とっても暖かい気持ちになる。でもなんだか切ないような気もする。

「じゃ、また明日な」
「うん、また明日」

 門に手を掛けたポーズのままで、歩いて遠ざかって行くサスケくんを見送る。胸はまだ、きゅんきゅんしている。


 今更ですが、
 私 今すごく恋してます。



(20080915)


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