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かくし事


 サスケくんとは時々、数日間の別行動を取ることがある。任務の都合だったり、薬の材料調達の都合だったり、理由はいくつかあるけど、それ以外にも『サスケくんが居なくなる』ことはあった。

 とある民宿へ下宿し始めて二週間。この町で買い集められる材料は粗方買うことができ、付近の森や洞窟で採れるものも大体分かった。造り貯めていた薬を売りながら旅費や材料費を稼ぎ、新しい薬の開発も進めている。旅をしながらではあまり複雑な薬は作れないけれど、限られた手段しか使えないからこそ新しい工夫を発明しては試していた。
 私がそうして町を拠点にして過ごしている間、サスケくんは里からの任務を請け負うでもなく、ただどこかへふらりと姿を消していた。最初の数日は害獣退治なんかを町の人から頼まれたりしていたけれど、今居ないのはそういう理由ではなさそうで。数日ごとに戻っては、別段何かの仕事で稼いだという話もなく、どこへ何をしに行っていたのかを話してくれることもない。後をつけてみようかと思ったこともなくはないけど、そんなことをするのはなんだかサスケくんを信用していないようで憚られてしまって、結局せずにいた。

 二つの寝床を並べて眠った深夜。隣の布団からサスケくんが起き上がる気配がした。私を起こさないよう静かに立ち上がり、衣擦れの音もさせないようにマントを羽織る。襖を滑らせるのも極力音を抑えるようにして、何も言わずにサスケくんは出て行った。
 サスケくんの気配やチャクラが感じられなくなるのを待ってから、私も体を起こす。寝間着の浴衣のまま窓辺へ寄って、月の見えない曇り空を見上げた。

「……」

 サスケくんは、どこへ行ったのだろう。
 サスケくんは、何をしているのだろう。
 サスケくんは、何を隠しているのだろう。
 サスケくんは、何を話してくれないのだろう。

 あらかじめ呼び出しておいた口寄せのフクロウが、裏山の森から音も立てずに飛んでくる。どうやら見失ったみたいだ。申し訳なさそうに頭を垂れるフクロウの、お腹を指で撫でてやる。たぶん輪廻眼で時空間移動をしてしまったから、どこに行ったか分からなくなってしまったんだろう。君は悪くないよ。どうせ、追えたとしてもどうこうするつもりはなかったのだから。
 自由に遊んでおいで、と指示を出してやれば、また静かに羽ばたいて森の中へ消えていった。餌は自分で取るだろう。

 窓を閉めて、布団へ戻る。横になり、空っぽの隣を見て、小さくため息を吐く。
 信頼がないんだろうか。それとも、言うと心配をかけるようなことをしているのだろうか。
 少なくとも、大量にチャクラを消費して瞳力が弱るようなことをしている。フクロウで追えないことを考えると、移動に時空間忍術を使っているであろうことは推測できたけれど、『ただの時空間移動』で瞳力が弱るものだろうか。前例として、六代目が持っていた万華鏡写輪眼(正確にはうちはオビトという人のもの)の能力である時空間忍術の『神威』は、使っても瞳力が弱まることはなかったそうだ。サスケくんは輪廻眼も万華鏡写輪眼も特別だから、何か特別なことをしているとして、では何をしているのか。だけど残念なことに、ここから先はなんの論拠も証拠もなく、仮説を立てることすらできない領域だった。

「…………なにしてるのかなぁ」

 できることなら、私にも手伝わせてほしいのに。きっとそれは、事情があってできないんだろう。でなければこんなに効率の悪いことを、サスケくんがするわけはないのだ。



 数日後の、やはり深夜。人の気配がして、うっすらと意識が浮上した。
 瞼を開くより先に頭を撫でられる感触がして、その優しい手つきにサスケくんが戻ったことを確信する。ああ、おかえり。おかえりなさい、サスケくん。

「……ただいま」

 小さく告げられた挨拶に、私の気持ちは晴れていく。帰る場所が私のもと(ここ)であると、聞かせているつもりがないことが、余計にそれを強く感じさせた。
 疑うことなどなにもない。どこへ行ったと告げずとも、何をしてたと明かさずとも、サスケくんは必ず戻ってきてくれる。それだけで十分じゃないか。
 起きているときには滅多にしてくれなくなった愛撫を、こんな時にこっそりとしていることが分かって嬉しい。そして私は愚かにも、口を滑らせてしまうのだ。

「……どこ、行ってたの?」
「、……」

 驚いた様子で、頭を撫でていた手を引っ込めてしまう。そしてやっぱりサスケくんは口をつぐんで、私の問いには答えてくれなかった。それに何故だかふふふと笑いがこぼれて、困り顔のサスケくんを見上げる。

「ふふ、浮気かな」
「……バカ言え」
「じゃあ、人助け」
「……そう見えるのか?」
「ううん、全然」
「…………」

 あえて見当外れなことばかりを言って、冗談の軽口であることを伝える。私の勘では、『探し物』だ。

 旅をしていて出会う人々との、一時の交流。サスケくんの、他人を見る目が以前とは明らかに違っていて、優しく、素直に、見えるままを受け入れているようだった。人と話し、人と関わり、助けたり、助けられたりしているサスケくんの、している隠し事が、悪いことなわけがない。
 そんなことは初めから判っていた。だからフクロウで追えたとしてもどうするつもりもなかったし、今までこうして問うこともしなかった。きっと私は、少し寂しいだけだったんだろう。

「えへへ……大丈夫。これ以上聞かないよ」
「……」
「その代わり、もうちょっとだけ撫でてほしいな……」

 私が起きていると分かった途端に手を引っ込めてしまったから、少し物足りなかった。
 頭を差し出すように首を傾けて待つ。目を閉じて、それ以上の催促もせず、辛抱強く待つ。待って、待って、ようやくそろりとやってきた感触に、唇がにんまりと弧を描いた。サスケくんに触ってもらうの、大好き。

 それからは、前より少しだけ、触るのも触ってくれるのも許してくれるようになった。私が寂しがりやなのを思い出したのなら、それはとても有り難いことだ。



(180907)


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