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誤解のある二人組


「かわいい付き人さんだね」

「あの従者にも伝えておけ」

「……誘拐?」

 俺と碧の見た目の釣り合いが取れないことが主な原因だとは思うのだが、あまりにも誤解が酷い。
 並ぶと俺の胸のあたりまでしか背丈のない碧は、何も知らない他人から見ると、ほとんどは従者に見えるらしい。俺が平均以上、碧が平均以下。そこらの親子よりも身長差が開いている。だからなのか、どうしても『俺が碧を従えている』という印象を与えるらしい。

「分かってたけど、夫婦だとは思われないねぇ」
「……」

 誘拐犯の誤解だけは解いて、売るために広げていた薬を荷箱へ片付けながら碧は苦笑いする。
 里に家を建て、俺が署名した婚姻届も出し、俺たちは正真正銘『夫婦』になっていたが、それは見た目で判るものではない。今のところなにも実害はないが、さっきのように誘拐犯だと思われるのは少し危ないか。

「(“夫婦らしいやり取り”は、やるとむしろ違う誤解が深まりそうだな……)」
「?」

 荷箱を背負い立ち上がってもなお、一尺ほど低い位置にある碧の頭を見下ろして思う。
 碧はただ背が低いだけなのだが、どうにも幼く見られがちだ。童顔というわけではないと思うが、まだ年齢が顔に出るほどの歳でもない。服装は外套を羽織っているのでほとんど分からない。自分で作った薬を一人で売るのすら、誰かの手伝いだと思われる始末。やはり完全に背丈で判断されているようだ。

「身長を伸ばす薬もあるにはあるんだけど、ちょっと副作用がね」
「そこまでしなくてもいいだろう」
「でも、見た目だけでも釣り合いを取りたいなって」

 “だけでも”とはなんだ。
 俺が顔をしかめたのを見て、失言に気付く。おそらく卑下しているのではなく、癖でそういう言い回しをしてしまうだけではあろうが。
 碧は軽く咳払いするように誤魔化して、気を取り直すように、しかし特に発言の訂正はせずに続ける。

「んんと、でも実際不便じゃない?」
「なにがだ」
「現状、気軽にキスもできないもん」
「……背が並んだとしても、軽々しくはしないからな」

 例えばの話だと笑っているが、お前の冗談は見分けがつかん。

「まあキスは例えなんだけど、つまり言いたいのは……」
「?」
「……夜のほうかな」
「!」

 碧は声を抑えて、少しだけ言いにくそうにして言った。察せなかった俺も悪いがお前こんな道端で。周りを気にするように一巡り視線をやって、誰もこちらへ聞き耳を立てていないことにため息を吐き、再度碧を見下ろす。

「……そんなに不便をした覚えはないが」
「それはサスケくんが変に器用なだけだと思うけど」
「……」
「片腕もないのに、ホントに器用だよね……」

 思い出すようにしてやや頬を赤らめながら、染々と感想を述べる。昼間からする話ではないな。

「……ともかく、宿を取りに行くぞ」
「はぁい」

 商店の並ぶ通りを歩き抜け、宿屋へ向かう。さきほど、この街で近々祭りがあるという話を聞いた。それ目当ての観光客で部屋が残り少なくなっている可能性がある。
 宿といえば以前、従業員に俺達二人の関係を危ぶまれ、一部屋で取れなかったことがあった。その時は二部屋取ることで妥協したが、今回一部屋しか残っていないにも関わらず入室を断られる、なんてことは起こらないだろうな。
 俺が嫌な予感に足を速めるのを、碧は必死に小走りで追いかけた。




「申し訳ございませんが、現在二人部屋が一部屋しかありませんで……。お客様方は……すみませんが、どういったご関係で……?」
「…………」

 やっぱりか。
 正直に“夫婦”であると告げたところで、この受付は信じるだろうか。訝しげにこちらをじろじろと見て、長身の男と小柄な女の間柄を見極めようとしている。
 仕方がないので、一旦カウンターを離れて碧と話し合う。

「……人間関係の証明、か」
「うーん、哲学かな? 身分証明になるようなものなんて、額当てくらいしかないもんねぇ」

 俺は『うちはサスケ』という名で様々な方面から恨みを買っていることを自覚している。また、恨みはなくとも“眼”を狙われる可能性もある。少しでもそういう面倒を避けるために、今は家紋も身に付けないようにしていた。揃いで家紋を背負っていれば多少の説得力もあったかもしれないが、無いものは仕方ない。

「ならお前が一人で泊まればいい。俺は野宿で構わん」
「ええっ、それはヤだよ。それをやるなら、サスケくんが泊まるか、二人で野宿かのどっちかだね」
「(俺が一人で泊まるのは、それはそれで従業員に白い目で見られそうだが……)」

 碧はこう言うだろうと分かっていたが、一応の提案だ。折角町へ来たというのに、二人揃って野宿となるのは本当に最後の手段としたい。定食屋で食事をし、洗濯場で衣服を洗い、銭湯で風呂を済ませれば、あとは寝床が『布団』か『地面』かだけの違いではあるのだが、妻だけでもきちんとした宿に寝泊まりさせてやりたいというのが男心というものだ。
 碧の言葉に了承しかねて黙っていると、碧が「あっ、そうだ!」となにやら閃いた様子で声を上げた。

「写輪眼で幻術かけて手続きしちゃうのは?」
「……却下だ」
「むーん、サスケくんは真面目だなぁ」

 罪のない一般人に術を掛けて不正をする趣味はない。そしてお前は意外と不真面目だな。
 却下されて残念そうに、碧は腕を組む。それから仕方なさそうに言う。

「じゃあもう正直に言ってみて、それでダメなら宿は諦めよう」
「……そうなるか」

 関係を偽って受付を欺くにしても、兄妹にしては似ていないし、親子というには難しい。主人と従者だとして同じ部屋で枕を並べて寝るのは不自然で、そしてロリコン疑惑は以ての外だ。下手な嘘を吐くより、いっそ本当のことを言うほうがましだと判断したのだろう。
 碧が一人先に歩いていき、受付に自分達が夫婦であることを正直に話す。相手は相当驚いた様子で、何度も俺と碧を見比べては納得がいかなさそうに顔をしかめている。

「こう見えて同い年ですから」
「ええ……?」
「……」

 受付の困惑する気持ちも分からないではない。碧は、俺の腰上ほどまでの高さしかないカウンターに身を乗り出すようにして腕を乗せているが、碧の腕は胸より上まで持ち上がっている。その姿は遠目には『好奇心でカウンターを覗き込む子供』にしか見えず、俺と比べるまでもなく大人には、ましてや人妻には見えまい。

「嘘じゃないですよ、嘘をつくならもっと信じてもらいやすいまともな嘘にしますから」
「ううーん……確かに」
「私の背が低いだけなんです。見た目が釣り合わないのは百も承知なんですけど、こればっかりはどうしようもないのです。本人たちも困っています」
「(他人事か……)」

 実際、困るのはこうして人里に来るときくらいであるし、誤解はあるがそう毎回実害があるわけでもない。受付を説得するための『口から出任せ』に近いもので、感じた通り、他人事のようなものなのだろう。
 答えを出しあぐねている受付に、碧は肩をすくめながらこちらを振り仰いだ。

「うーん、式はしなくても結婚写真とか撮れば良かったね。それを見せれば話が早かったかも」
「……そんなタイミングは無かったろう」
「この町に写真館はあったかなぁ?」
「今から撮ってどうする。それこそ捏造に見えるだろう」
「えー、結婚してるのはホントなのに」

 あ、でも“コスプレ写真”って言われたらおしまいだね! とおかしそうに笑いながら言う。お前、この状況を面白がっていないか。

 結果的には、俺達の話す様子が夫婦漫才仲睦まじく見えたらしく、無事二人部屋に泊まることができた。



(180615)


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