×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

[]      [
家族でクリスマス


 今年のほとんどの年中行事は、『家族三人で過ごす』という意味では初めてで、毎回少し特別に感じている。

「碧」
「はーい、なあに?」
「少し相談がある」

 12月に入って二週間ほど。あまりにも珍しいその申し出に、椅子の背もたれ越しに振り返ったポーズのまま二度見した。サスケくんが私に、折り入って「相談がある」だなんて。
 何事かと、作業途中の調合を放り出して、階段近くに立つサスケくんのそばへ行く。地下研究室は、そのほうが集中しやすいという理由でほんのり薄暗い。一尺ほど高い位置にあるサスケくんの顔を見上げれば、言葉の通り悩んでいる様子の目元。

「なにかあったの?」
「いや、そういう訳じゃないんだが……」
「?」

 これまた珍しく、言葉尻を濁してやや目を泳がせるように私の顔から目線を逸らした。これは照れくさい時の仕草。

「(かわいい……)」
「もうすぐ、あれがあるだろう。……クリスマス」
「うん、あるね」
「…………だから、何かやったほうが、いいのか、と」

 ピンときた。これあれだ、『何かしてあげたいけど何をすればいいのか分からない』ってやつだ。それもたぶん、私にじゃなくて。
 顔がゆるみまくって、にーっこりと笑ってしまう。そっかぁ、サスケくんにもそういう、父性を満たしたいって気持ちがあるんだね。

「んふふ、そうだね。一緒に考えようか」
「……助かる」

 にっこにっこしながら、一緒に階段を上がる。私相手には何をするにも慣れているけれど、娘の相手は初心者だものね。微笑ましい悩みだなぁ。
 笑いすぎだと小声で咎められたけれど、仕方ないじゃない、幸せなんだから。




 服は本人の好みがあるだろう、手袋やマフラーなどの防寒具はすでに所持している、娯楽品は特に望んでいない、本は図書館で読めるだけ読んでいる、忍具はさすがに味気ない。

「…………」
「……大丈夫?」
「ああ……」

 消去法でダメなものを除外していっているのだけど、じゃあなんだったら良いんだの段階にまで達している。私もあまり提案力があるほうではないので、一緒になってうーんと考え込む。ハンカチは安すぎる、ぬいぐるみは卒業した、お化粧もまだ早いかなぁ。

「お前なら、何でも喜ぶから楽なんだが」
「えへへ」
「褒めてないぞ」

 そもそも、恋人からと親からでは、プレゼントの内容は変わってくるでしょう。
 パソコンは共用のもので十分だし、携帯通信機は私も持ってないからどうせなら揃えたいけどそれはさすがに高いしクリスマス感もないし、水筒は自分でかわいいのを買っていたし、紅茶はサラダが好きな茶葉をすでに揃えてあるし……。

「サラダの好むものも、俺はまだよく知らないからな」
「サラダが好きなもの……紅茶……でもそれはもうある……」
「紅茶か……。そういえば、自分用のマグカップとかは持ってるのか?」
「え? 持ってない、ね……あ! いいんじゃないかな、それ」

 サスケくんの一言に、それは名案だと頷く。食器一式も、別段どれが誰のものというのは決まっていない。強いていうなら最近サスケくんのために少し大きめのお茶碗を買い足したくらいだ。
 サラダはよく紅茶を飲むし、専用マグカップはきっと嬉しいんじゃないかな。そうでなくても邪魔にはならないだろう。

「うん! じゃあ、早速お店に見に行こう」

 思い立ったが吉日、善は急げだ。かわいいのが無くなる前に確保しなければ。サラダの喜ぶ顔のために、いざ行かん。





 クリスマス本番前の最後の週末だからか、ショッピングモールはたくさんの親でごった返していた。木ノ葉中のサンタさんたちが集まっていると思えばとても心温まる光景だけど、その只中へ自分たちも行くのだと思うとほんの少し怯む心地がした。

「えっと、まずは食器を置いてるお店を探さないと」
「ああ」

 入口近くに設置されていたモールの地図を取り、歩きながら広げる。生活雑貨のお店はどれだ、と指でなぞりながら探す。

「碧」
「ん、大丈夫、見えてるよ」

 マップを俯いて見ながら、前から歩いてくる人を避ける。正面からのはさすがに見えるよ。
 いつも私の左側を歩くサスケくんが、すいと反対側へ移動した。それから私を道の左端へ寄せて、人通りの少ないところを歩かせてくれる。
 高い位置にあるサスケくんの顔をちらりと見上げる。サスケくんの表情は、長い前髪で隠れて見えなかったけど。

(思えば、デートみたい)

 親としての使命感のようなもので飛び出して来たけれど、やってることはお買い物。やったね、ラッキー、僥倖だ。ほんのり浮かれて、だけど本来の目的を遂行すべく、マップの解読を続ける。前方はサスケくんが見てくれているから安心だ。





「えっ、手伝う? ご飯作るのを?」
「……そう言ってる」

 数日経ってクリスマス当日。サスケくんの言葉に耳を疑って、思わずオウム返しに聞き返してしまった。いや、うん。え? いやいや。ほんとに?
 私があんまり驚いた顔でぱちくりぱちくり目をしばたたかせるものだから、サスケくんはややむっすりと顔をしかめさせてしまった。ごめん。そんなつもりはないんだよ。

「ええと、うーんと……」
「……」

 自分の中で組み立てていた料理の手順を、二人分に分割するように組み直す。いや、でも単純に分割するのではダメだ。サスケくんは片腕しかないのだから、両手がなければできない作業はさせてあげられない。
 こういう『作業』はいつも一人でやるものだから、人との分担は慣れていない。もちろん振り分けも慣れていないから、考えるのにも時間が掛かる。あれとあれとあれはサスケくん一人でもできるかな。
 そうして口を開きかけて、すぐ閉じる。い、いやいや、そうじゃない。そうじゃなくて。

 一緒に。全部、一緒にやろう。

 これは仕事じゃない。サスケくんがしたいのは、『作業の分担』ではなく、『料理の手伝い』だ。
 私からの指示を待つようにじっと立っていたサスケくんへ、顔を上げて目を合わせる。

「えっと、今日の献立と手順を一通り説明するね」
「ああ」

 眉を緩めて、穏やかに返事をくれた。

 サスケくんが食材を切るなら、私がその食材を押さえておく。サスケくんが卵を溶くなら私が器を押さえておく。それでいいのだ。効率的にやる必要はない。
 卵の薄焼きは傍で見守って。お酢とご飯をまぜて酢飯にする。まぜるのはサスケくん、桶の保定と扇いで冷ますのは私。魚やイカを切り身にして、ドーナツ状に固めて置いた酢飯にそれを散りばめて、細く切った薄焼き卵をまぶして、リース風に盛り付ける。リースちらし寿司の出来上がり。
 同じようにして二人でフライドチキンを揚げ、クリスマスツリーのように野菜を可愛く盛り付けたサラダもできた。片腕が無いというのに、サスケくんは手際がいい。あんまりテキパキと進めるものだから、私のほうがあたふたしてしまった。元々一人暮らしで家事はいくらかしていたし、そうでなくても器用なんだ。うんうん、流石だなぁ。

「ただいまー」

 ちょうど良く、玄関からサラダの声がした。アカデミーの頃の友達と、クリスマスをきっかけにちょっとした同窓会をすると言っていた。プレゼント交換などで、マグカップがかぶったりしていませんように。

「えっ、なにこれ、すごいじゃん」
「うん。折角だから頑張ってみました。ね」
「……」
「? 父さんも手伝ったの?」

 いやまさかね、と自分の発言を取り消すように呟きながら、サラダは手を洗いに行った。サスケくんを窺い見れば、バレなくて安堵したような、その逆のような、なんとも微妙な無表情をしていた。複雑な父心だね。



 食事が一段落して、あたたかいお茶で一服する。紅茶ケーキも美味しかったし、料理でクリスマス感を完璧に出せたし、満足満足。あとは、サラダにプレゼントをあげるだけだ。
 サスケくんが、トイレに立つような自然な仕草で部屋を出る。どこへかは知らないけど、“厳重に隠す”と言っていたプレゼントを取りに行ったのだ。何故だかわざわざチャクラを練っていたような気がするけど、気のせいだろうか。

「ね、お母さん」
「ん? なあに?」
「結局……父さんって手伝ったの?」

 サスケくんが席を立ったのを見計らったように、サラダが問い掛けた。青いメガネを押し上げながら、どこか恐る恐る、でも好奇心が宿る目で。かわいくて、思わず笑ってしまう。

「ふふ」
「……なによぉ」
「直接聞いてみれば?」
「えー……?」

 それはさすがに気まずい、と言うように言葉を濁す。だからこそ私に聞いたんだもんね。
 謎のままにしておいたほうが、どちらの可能性も残って楽しいよ。料理の手伝いなんかしないクールなお父さんか、クリスマスだからと手伝ってくれる優しいお父さんか、どちらでも好きな方で思っておけるでしょ。

 話している間に、サスケくんが戻ってきた。オシャレで小さな紙袋を手に提げているのが、不釣り合いでちょっとおかしい。

「サラダ」

 紙袋を持った手で、小さく手招きをする。サラダは少しだけ緊張したような、期待と喜びを隠すような顔で、大人しく呼ばれる。

「……クリスマスプレゼントだ」
「ん、……ありがとう。父さんが買ってくれたの?」
「…………母さんと二人でだ」

 言い出しっぺはサスケくんだけど、黙っておいてあげよう。あれが無ければ図書券でもあげようと思っていたところだ。
 ややたどたどしい親子のやり取りに、ほんわかと心が温まる。永遠に眺めていたいなぁ。あ、ビデオとか用意すれば良かったな。
 テーブルへ戻り、早速プレゼントを取り出そうとするサラダ。袋を閉じる紙シールをちぎって、中を覗いた。

「あれ、二つ?」
「え?」

 サラダの言葉に、そうだっけ? と一緒に覗き込む。確かに化粧箱は二つ在った。
 不思議に思いながら、サラダが箱を開けるのを見守る。サスケくんを窺い見るけれど、サラダの手元を見ていて目を合わせてくれない。

「わ、マグカップ! かわいい!」

 一つめの箱の中身は、サスケくんと一緒に選んで買った、黒塗りに白抜きで猫のシルエットが描かれたマグカップ。持ち手部分が白い尻尾の形になっていてとてもかわいい。
 ではもう一つのほうは、と少しドキドキしながらサラダが開けるのを待つ。

「あ、こっちもマグカップだ」

 二つめの箱は、紺色に黄色いウサギのシルエットが描かれたマグカップ。持ち手の下部に丸い尻尾も付いている。この二種類でどちらにしようか悩んだものだった。

「でも、なんで二つ?」
「片方は母さんのだ」
「え、えっ!?」

 サスケくんの言葉に、思わず驚いた声を上げてしまった。なんで母さんが驚いてんの? というサラダの疑問ももっともだけど、いや本当に知らなかったのだ。

「いつの間に……」
「お前がよそ見をしている間にな」
「ええ、そんなに長い間一人でうろついてたかな」
「ああ」

 確かに、いろんな商品を見て回るのが楽しくて、サスケくんと別行動になる瞬間はあった。うん、まあ、あれだよ、楽しい時間ってあっという間に過ぎるよね……。
 つんつんとサラダにつつかれてそちらを見れば、高揚を隠しきれない様子でマグカップを指し示される。とても嬉しそうだ。

「母さん、どっちがいいの?」
「え、サラダが選んでいいよ」
「希望が同じならじゃんけんね」
「えーと、じゃあせーので、」

 同時に欲しいほうを指差せば、綺麗に希望は分かれた。サラダが猫で、私がウサギ。
 ウサギといえば、昔サスケくんにお祭りで小さなぬいぐるみを貰ったことがあって、それ以来なんとなく好きな動物だ。そのぬいぐるみそのものは、里を抜ける時に家に置いてきてしまって、そのまま木ノ葉が壊滅と復興を経たため、失ってしまったのだった。

 サラダが嬉しそうに猫のマグカップを眺めるかたわら、私もウサギのマグを見つめてじんわりと思い出に浸る。サスケくんは、あの頃と同じように優しい。ああ、幸せだなぁ。
 喜ぶ私たちの様子を見て、サスケくんも穏やかに微笑んでいる。クリスマスパーティーのメイン目的はサラダを喜ばせることだったので、主催者側である私へは当然何も用意されていないと思い込んでいた。まんまとしてやられてしまったよ。これは、やり返さないと気が済まないな。


 後日、無地のマグカップにカッコいい鷹を描いてサスケくんにプレゼントしたら、こらえるように忍び笑いされてしまった。な、なんで笑うの……?



(171225)
綾さん、りあさんのリクエスト


 []      []
絵文字で感想を伝える!(匿名メッセージも可)
[感想を届ける!]