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 夏休みに入ってからというもの、サスケくんに会うことがなくて寂しいなぁ寂しいなぁと思いながら日々を過ごしています。アカデミーの宿題を済ませたり、医療の本を読み込んだりする傍らで、スケッチブックに絵を描いて気をまぎらわせている。

 鉛筆を斜めに倒して、全体を薄く黒に塗りつぶしていく。その暗い夜の風景に木を描き足し、木の葉が生い茂る枝に隠れるようにして一羽、小鳥を描く。羽を傷つけられ、ろくに飛べもしなくなった小鳥。ただ枝葉に隠れて身を守ることしかできない、無能な鳥。仲間も居らず、外野には罵倒され、鳴くことも諦めてしまった。憐れで無力な小鳥。
 空の一部に消しゴムをかける。そうすると闇の中に、光が現れる。弓形に白く、淡く柔らかく輝くお月さま。それを描いているだけで、絵の外の自分が嬉しくなってしまって、口元が『笑み』を形作るのが分かる。
 月の周りをやや強く消して、そこをはっきりと光らせる。それから放射線状に優しく消しゴムを滑らせ、月の光が地上を照らす様を表現する。月の光に惹かれるようにして森から動物たちが現れ、見上げて、月見をする。

「……」

 そして、木陰で縮こまっている小鳥にも、月の光は差した。独り、泣くこともせず、ただただ世の闇に絶望していた小鳥は、その明るさに驚いて目を閉じてしまった。だけど月光は、瞼の向こうで常に自分を照らし続けてくれている。優しく包み込んでくれている。暖かい。
 小鳥はおそるおそる目を開ける。変わらず月の光は差している。そのあたたかな光に涙をこぼしながら、小鳥は今、その月の元へ飛び立とうと、治りかけの翼を開く。

「…………うん」

 描き終えて、満足してスケッチブックを閉じる。月の元へ飛んで行くためにも、飛ぶ方法を学ばなくては。
 うーん、と伸びをして、気持ちを切り替える。真夏の気温に浮かんだ汗を拭い、扇風機の風量を上げる。クーラーはダイニングにしかないから、普段はほとんど使っていない。濡れタオルと扇風機とこまめな水分補給でこれまでなんとかなっているので、まあこれからもなんとかなるだろう。

 サスケくんは今頃何をしているだろうか。この暑い中をいつも通り、修業をしているのだろうか。しているのだろうな。冷たいお茶やおいしいおにぎりを差し入れたい。でもどこで修業しているのか知らないし、今本当に修業しているのかどうかも知らない。ああ、会いたいなぁ。会いたい。寂しいなぁ。
 窓の外から蝉の声が届くばかりで、私の立てる物音以外には静かな家だから、募った寂しさをまぎらわせる術が少ない。椅子にもたれると、ギィ、と木が軋む音がした。

「………………さて」

 勉強を再開すべく、机に向き直る。
 サスケくんの家に行こうか、と思わなかったわけではない。用事が無くても来たって良い、とサスケくんは言ってくれたけど、それを実行する勇気は今のところないし、そこまで図々しいことをしないといけないほど切羽詰まってもいない。あまりの寂しさに死んでしまう、とまで思ったら行くつもりだ。
 医療の本の二冊目に手を掛けて、後ろから三分の一ほどのページを開く。基礎を学ぶ本として、一冊目と同じ内容の部分も多く、良い復習となっている。三冊目が終わる頃には基礎マスターになっているだろう。

「……基礎なんだから、“マスター”なんて偉そうに言うことじゃないか」

 思考に対して独り言で反論。学校ではほとんどしないのに、一人で居るとよく独り言が出る。しゃべり方を忘れないためなのか、自分のものでも『声』を聞くことで孤独が薄れるのか。
 不思議な現象には思いもよらない理由があるものだ。広い意味の『医療』に関わることだから、心理を学ぶこともいつかしたい。そこまでたどり着ければ、だけど。

 夏休みも残すところあと一週間。あと一週間で、サスケくんと毎日顔を合わせることができる。それまでに、お礼の方法を考えておかなければ。あんなにも思い悩ませてしまった。もしかしたら今も。とても申し訳ない。
 サスケくんにはずっと継続的に救われ続けているので、継続的にお返しし続けられることがいいだろう。例えばお弁当を作るとか。

「……あ、いいなぁ、それ。そうしようかな」

 どうせ、お弁当用におかずを作ると、朝晩のおかずが同じになるくらい余るのだ。だからお弁当箱をもうひとつ用意して、それに詰めるだけでいい。でも、サスケくんのために作るのならば、もう少し凝ったものにしたいよね。夜のうちに仕込んでおいたりして……

「んふふ……」

 『サスケくんのために』。それを思うだけで幸せな気持ちになる。
 サスケくんに生かされているなあ。サスケくんのために生きているなあ。全てを捧げたって良い。一生を捧げたって良い。生きている意味があるのだと、そう思えるだけで。ああ、こんな幸せな人生があるだろうか。


(171012)


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