望む 「サスケくん、今日の晩御飯は何がいい?」 問われて、冷蔵庫へ向かった碧に目を向ける。しかし別段食べたい物は無く、一瞬考えてみたけれど浮かびもしない。 「……なんでも」 発してから、この『何でも良い』が一番困ると何度か言われていたことを思い出す。しかしまあ、冷蔵庫の有り物で適当に何か作ってくれるだろう。 「ナンかー」 「?」 「ナンはさすがに無いから買いに行かなきゃ。ナンと言えばカレーだけど、野菜も足りないかな」 「!? 待て、待て碧」 俺の聞き間違いでなければ、俺の「なんでも」を取って、『ナン』を食べたいと解釈したような言説であったように思うのだが。 冷蔵庫の中身を確認しながらぶつぶつこぼす碧に慌てて声を掛ければ、「んー?」と呑気な返事。 「…………わざとか?」 瞬時に思考し、その結論に至る。尋ねてみれば、こちらへ向き直ってにっこりと。 「うん、わざとだよ」 「……」 要は怒っているのだ。再三に渡って『何でも良いは困る』と言っているのに、一向に改善されない俺の返事に対して。 改めて頭の中の情報を洗い直し、本当に食べたいものが無いのか考え直す。 「……たしか、鮭が有ったろう」 「うん。焼く?」 「煮付けがいい」 「はーい、お望み通りに」 俺がそうリクエストすれば、ようやく機嫌が直ったようで、いそいそと準備を始める。ふう。一安心か。 碧の機嫌を損ねると、後々に面倒だ。その場ではどうこうならないものの、じわじわと効いてくる毒薬のように、少しずつコミュニケーションに不具合が生じる。それは避けたい。 俺の望みは、碧が機嫌良く過ごし、俺にも機嫌良く接してくれることだ。それだけでこの家は、どこよりも幸せな家庭となるのだから。 (170717) 『確かに恋だった』様より 恋する動詞「望む」 サラダは自分の部屋に居ます [←] [→] [絵文字で感想を伝える!(匿名メッセージも可)] [感想を届ける!] |