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ナルト君との邂逅


「やいやい! そこのお前ェ! ちょっと待つってばよ!」

 ナルト君の声が聞こえる。今日も元気に頑張ってるなぁ。私と同じく『何故だか周りに嫌われている人』として、ほんの少し親近感を覚えていた。サスケくんへ対抗心を剥き出しにして食って掛かるところは、他の誰にも真似できない、すごいことだと思う。

「……ってェ! 無視すんなってばよ!」

 今からお昼ご飯を食べるために屋上へ行くところなのだけど、サスケくんは用を足してから向かうということだった。最近は屋上に、空ばかり見てる男の子やその友達が居ることがあるので、場所取りのために少しだけ急ぐ。

「コラァ! 碧! 待てって言ってんだろ!」
「! え、え?」

 名前を呼ばれて驚いた。ナルト君がさっきから呼び止めていたのは私だったらしい。
 慌てて振り返れば、キツネのように目を細めてプンプンと怒った様子のナルト君。いくら心当たりが無いからといって、全く見もしなかったのは良くなかった。申し訳ない。

「ったく、ちっとはこっち見ろよな、お前」
「ご、ごめんね……」

 ナルト君に話し掛けられるのは初めてだ。春にクラス替えがあって同じクラスになったのだけど、私は相変わらずサスケくん以外とはろくに話していないので、今回なぜ、どのような用事で呼び止められたのか、皆目見当がつかない。
 心当たりを探していると、ナルト君が怒ったように問い掛ける。

「お前、サスケと付き合ってんだってな?」
「えっ! え、えと……うん」

 本当に何の話なんだろう。
 私がサスケくんと『お付き合い』させてもらい初めてから、半年以上は経っている。それをなぜ今、怒られるのだろう。目線をナルト君の顔に合わせられないまま、うろうろと彷徨わせる。

「なんでお前なんだ?」
「……え?」
「お前よりかわいい子なんかいくらでも居るじゃねえか」
「ええ……」

 グッサグサ胸に刺さることを言われて、心の涙がぽろり。それは私だって何度も疑問に思ったことだよ。むしろ今でも分かってないよ。そんなことを私に言われたってどうしようもないよ。

「パッとしねえし、地味だし、暗いし。なんだってアイツはお前なんかを選んだんだってばよ!」
「…………うぅ……」
「サクラちゃんとか、イノのやつならまだ分かっけどよ」

 ナルト君は私を言葉のナイフで殺す気なんだろうか……。酷いや。

「ええっと…………」
「……けどサスケのやつ、なんか前より落ち着いたっつーか、穏やかになったよな」
「?」

 なんとか反論の言葉を絞りだそうと尽力していると、ナルト君が攻撃をやめた。(彼にとってはそんなつもりもない、ただの疑問提示だったのだろうけど)

 穏やかに、なった。言われてみれば確かに、『前』はもっと、目付き鋭く余裕もない様子で、一点を見据えて修業に取り組んでいるようだった。その『一点』が復讐であることをはっきり教えてもらったのは割と最近だけれど、そのために強くなろうと努力しているのは今も変わりない。
 だけどそもそも、『前』のように取り憑かれたようにがむしゃらに強くなろうとし始めたのは、一族が皆殺しにされ、仇への復讐を誓った『後』であって、元来のサスケくんはそうではなかったはずなのだ。では、そこから“穏やか”になったのは何故なのか。これという理由付けは難しいけれど、有り得るとしたら、復讐一点を見据えていたのが、そうでなくなり、元のサスケくんが戻りつつある、ということだろうか。全く自信のない推察。
 考え込んでいると、ナルト君が疑問をぶつけてくる。

「お前がなんかしたのか?」
「ええっ! 滅相もない!」

 驚いて咄嗟に否定する。サスケくんが私に優しいのは最初からだ。私が何かしたからではない。よく他人を突き放すような言動をするけれど、だからと言って優しくないわけではない。でなければ、そもそも私なんかに構ってくれるはずもない。

「あたしがサスケくんにしてあげられてることなんて、……これっぽっちも……」

 私はサスケくんに貰ってばかりだ。返すことなんて、途方もなく、到底できやしない、それくらいの恩義。毎日のお弁当くらいでは、全然賄えない。それどころか一緒に食べてくれるんだから、それでまた私は『貰って』しまうのだ。二人分のお弁当箱を抱え直して俯く。

「んー……けどお前以上にサスケのヤローと関わりのあるやつなんか居ないだろ?」
「ええと……そうかな」
「はあ? そうだろーがよ」

 恐れ多くて肯定し損ねたら、ナルト君が上から肯定した。会話しにくそうに困り顔になり始めたから、やっぱり私はサスケくん以外とはまともに話せないらしい。というか、サスケくんが全面的に私に合わせてくれている感すらある。申し訳ない。

「あー、なんか……分かったような、分からないような……」
「?」
「お前ってなんか、ほっとけねーっつーか……ほっとくと不安っつーか……」
「……」

 腕を組んでうんうんと、考える素振りをするナルト君。なんだかとても失礼なことを言われている気がするが、私だって一人で、……一人で…………ううん、やっぱり独りは嫌だな。そして私にはサスケくん以外に頼れる人が居ないので、必然的にサスケくんと一緒に居ることになるのだけれど。

「なんかよくわかんねーけど、そういうことなのか?」
「……それは知らないよ……」
「あー! ッたく! はっきりしねえな!」

 そもそもナルト君は、何を一番聞きたくて私に話しかけたのか。私にはまだそれすらはっきり分かっていない。入口の疑問であった『なんでお前なんだ?』がまだ引っ掛かっているし、『穏やかになった理由』もいまいち判然としないままだ。私が会話下手なのと、ナルト君の質問下手が重なって、こんがらがってしまった。

「おい、何してる」
「! サスケくん」
「ゲッ! サスケ……」

 ナルト君の後ろから、サスケくんが現れた。話題の中心人物なだけに『噂をすればなんとやら』と言いたいところだけど、まだ教室からそう移動できていなかったので、当然といえば当然の展開だ。
 サスケくんがナルト君を睨み付けると、ナルト君もそれに応じて睨み合いになる。ナルト君が一方的にライバル視しているのかと思いきや、サスケくんも『コイツにだけは絶対に負けてやらない』と意地になっているようで、なんだかんだライバル関係が成立している。面白い関係だなぁ。

「フン、さっさと行くぞ」
「あ、うん」
「ケッ、スカしやがって」

 後ろから「すけこまし」だの「ムッツリすけべ」だのと野次が飛ぶのを無視して早歩きで行ってしまうのを、小走りで追いかける。酷い言われようだが、サスケくんがそんな人でないことは分かっているし、ナルト君が構われないライバル心からそういう言葉が出てしまうのもなんとなく分かったので、サスケくんも大変だなあと思うに留まった。



(170317)
しらどりさんへ、イラストのお礼&受験合格祝い!


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