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決戦に備えて


「碧、もういい」

 サスケくんに遮られて、一旦治療の手を止める。
 医師用の仮眠室。治療でもあるが、正確には敵の攻撃から子供達を守りきって消耗したチャクラの回復をしている。

「でも、行くんでしょ? 私のチャクラ、全部渡すから」
「もう十分だ。あとは他の怪我人に使え」
「ううん。私には薬の在庫があるから。それでいくらでも他の人を助けられる。だから、チャクラだけでも連れて行って」
「……」

 輪廻眼による時空間移動には多量のチャクラを使う。向こうに移動した後にも、戦闘のためにチャクラは必要だ。だから、渡せるだけのチャクラをありったけ。
 それから、特製目薬と丸薬も手渡す。移動直後に目薬を差す隙があるかは分からないが、差せば瞳力の弱体時間を短縮できる。須佐能乎も天手力も、必要な能力のはずだ。それと、向こうでサスケくんのチャクラが切れてしまったら、回復するまでしばらくこちらに戻れなくなってしまうから、チャクラ回復用の丸薬も。

「周到だな」
「うん。頑張ったでしょ」
「……ああ」

 疲労の隠せない笑顔を向ければ、優しく頭を撫でてくれた。

 信じているよ。サスケくんならきっと、あんな奴ら倒してくるって。サスケくんたちなら、きっと勝って帰ってくるって。
 だから甘えるのは、ナルト君と一緒に帰ってきたあとにするよ。

 不安が無いわけじゃない。怖くないわけじゃない。あんなにも恐ろしい敵を相手に、絶対に勝てる保証なんてどこにもない。
 それでも、サスケくんとナルト君なら、成し遂げられる。そう信じている。


「……へへ、チャクラ空っぽになったから、ちょっと休むね……」
「……」
「あ……薬の一部はすでにサラダたちに渡してあるから、ちゃんと有効に使ってくれてるはずだよ。ちょっとくらいなら、あたしが行かなくても大丈夫……」

 ふらふらと、仮眠用の狭く粗末なベッドに腰掛けながら、言い訳をする。細長いピルケースの中身をざらざらと口に流し入れ、噛む余力もなく、そのまま飲み込んだ。

「薬代……どうしようかな。みんなに渡した分はもう仕方ないとして……これから病院に卸す分は、……材料費だけでももらわなくちゃ……」

 薬を作るのだってタダじゃない。材料を買い集めたり採取したりするのにもお金が掛かるし、精製するための道具にも保管のためにもお金は掛かっているし、何よりも私の知識と技術と手間と膨大な時間が掛かっている。全部を無償で提供してしまったら、1年は貯金を削って生きていかなければならなくなる。

「…………んん……」

 そんなことを考えながら、うとうとと船を漕ぎ始める。結界にもたくさんチャクラを使ったし、あの後病院へ患者を移動するのも結構大変だった。さっき、その身の炎で傷を癒す霊鳥“鳳凰”の巨大な羽根だけを口寄せ(本体を呼ぶには万全でもチャクラが足りない)もしたし、残ったチャクラは全部サスケくんに託したし。

「我慢せずに寝ていろ」
「……うん、そうする」
「俺が戻った時に、また治療してもらわなきゃならん」
「ふふ、そうだね……」

 そうだ、その時には私が、サスケくんを治してあげなきゃいけないんだから。それまでに、私も体力を回復しておかなくちゃ。それに、敵を倒したからといって、みんなの怪我が治るわけじゃない。今居る怪我人たちの治療も、まだまだ掛かるんだから。
 噛まずに飲み込んだから、薬の効きが遅い。横になり、まばたきに瞼を閉じれば、もう眠気が脳を覆い始めた。

「起きる頃には戻る。少しだけ、待っていろ」

 サスケくんの強気な発言は、私を安心させてくれる。その言葉が本当に成るように、常に最善を尽くす人だから。
 疲れに身を任せ、すんなり眠りに入る。夢に落ちながら、優しく頬を撫ぜられる感触。サスケくんの手は、いつになってもあったかいなぁ。





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