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喪失1/4


「!」
「来い。サスケの元へ連れていく」

 仮面の男。サスケくんに近付いて、怪しいことを吹き込んで、何かに利用しようとしている人。サスケくんはそれを承知の上で、木ノ葉を潰すと、八尾との戦いで負った傷が癒えるとすぐに、この隠しアジトを発った。
 もしもの場合のバックアップ要員として、……それは態良く吐かれた建前で、私に木ノ葉を潰す手伝いをさせたくないのと、単純に回復役としては香燐さんが居るから必要ないのとで、置いていかれたのだ。
 そしてさっき出たばかりと思っていたサスケくんは、もう用を終わらせて仮面のアジトに戻ったらしい。この薬の調合を始めてからまだ数時間しか経っていないはずだけど、あの木ノ葉がそんなに簡単に壊滅するのだろうか。
 急ぐようだったので調合器具や材料などもそのままにして、仮面の男の時空間忍術によってサスケくんのところへ向かった。




「眼球の移植だ。イタチの眼を、両眼ともサスケに植え替える」

 サスケくんは、イタチさんの眼で、自分のすることを視せたくないと、出立する前まで言っていたのに。もう終わったから、良いの? それとももっと他に、潰したい何か(、、、、、、)が出来たのだろうか。

「…………サスケくん、ほんとにいいの?」
「……ああ。すぐにだ」
「…………」

 仮面の男の所有物であるらしい、いくつもの写輪眼を保管している暗室。その寝台に座るサスケくんは、視線の先に、何か見ているようで、何も視えていないように焦点がずれていた。もうほとんど視えていないんだ。
 元々天照の使いすぎでかなり悪くなっていた視力が、五影や、新しく火影になる予定だった人との戦闘で、もう失明寸前まで来ているようだ。いや、須佐能乎を発動させたことによる反動で、完全に失明するのも時間の問題なのだ。イタチさんも、須佐能乎を使ってすぐに両眼とも失明していたそうだから。それに比べれば、少し長くもっているほうだ。
 万華鏡写輪眼は、他のうちは一族の眼へ移植することで、永遠の光を得る。イタチさんの眼をサスケくんに移し替えることで、サスケくんはその瞳力を失うことが無くなる。それがサスケくんの成したいことに必要なことならば、過去のサスケくんが拒否したことでも、今のサスケくんが望むのならば……。

「……分かった」

 私にはそう頷くしかできなかった。






「やめろ!! なんでこうなんだよ!!?」

 ただならぬ巨大なチャクラ。それがサスケくんの須佐能乎なのだと、駆け付けてすぐに気付いた。静かすぎる外の様子を見に出ることも、監視のゼツたちによって妨害されていたから、サスケくんが倒してくれて助かった。だけど。

「この眼は闇が……よく見える……」

 移植した眼が馴染むまではと巻かれていた包帯を、自ら外しながらそう呟く。サスケくんの両眼には、サスケくんとイタチさんの、二つの万華鏡写輪眼が重なったような紋様が浮かんでいた。そしてサスケくんのチャクラは、感知の訓練を積んでいない私にも分かるほどに、また暗く冷たく、闇に沈んだようなものになっていた。

「サスケ、くん……」
「……お前か」

 震える声で名前を呟けば、こちらへ視線を移した。そうして私に向けられた目も、同じように暗く冷たく、突き放すような、打ち捨てるような、
 須佐能乎を解くこともせず、写輪眼を解くこともせず、私を写す万華鏡。底知れない恐ろしさに竦む足に鞭打って、サスケくんの側へ近付こうと一歩、踏み出したら、いっそう強くギロリと睨まれてまた足が竦んだ。

「な、んで……」

 どうしてそんな眼で、私を睨むの。
 どうして私を、拒絶するの。

 サスケくんが発するものとはまた別種の恐怖が、私を包んで喉を絞める。呼吸が、うまくできない。

「お前はここで斬り捨てる」
「……!?」
「……俺の道に、お前は 邪魔だ(、、、)

 ぐうっと喉を締め付ける恐ろしさが、今度は心臓へ手を掛けた。
 息が苦しくて、何か言おうとして、はくはくと口を開けるけれど、どちらもままならず、のどが音を鳴らした。わなわなと震え出した両手を、押さえ付けるように握りあって、それでも収まらないから胸へ押し付けた。

「う、……そ、だ、…………」
「…………」
「そんな、……そんな、こと、……いまさら……!」

 よろよろと、足の力が抜けて、後ろへ下がる。壁に背中をぶつけて、それを支えに、なんとか立っていた。
 サスケくんは一歩、こちらへ足を踏み出す。ビクリと肩を震わせ、だけどまだほんの僅かな希望を捨てられずに、サスケくんの次の言葉を待っていた。サスケくんは何も言わずに、また一歩、一歩と、私に近付いてきている。逃げるのならば、今しかない。

 ……逃げる? 逃げるだって? サスケくんから? どうして? どうしてサスケくんから逃げる必要なんて、あるんだ。

 ふっ、と体から力が抜けて、壁ぞいにずるずると座り込んだ。サスケくんに殺されるのなら、それはそれで、いいじゃないか。どうせサスケくんに捨てられるのならば、私が生きている意味なんてどこにも、そう何処にも、在りはしないのだから。ならばいっそ、サスケくんの手に掛かって死んでしまえば、いいじゃないか。

「…………」
「…………」

 目の前で立ち止まったサスケくんを力無く見上げながら、恐怖に堪えていた涙を諦めの色に変えて、ぼろぼろと垂れ流した。
 どんな風に殺してくれるのだろうか。その須佐能乎の、黒い炎で形作られた刀で、燃やして塵にしてくれるのだろうか。サスケくんの思い出にも残らないように、綺麗に、消してくれるだろうか。

 眉を八の字に寄せて、邪魔な涙を押しやるようにまばたきして、せめてサスケくんの顔を、焼き付けておこうと、じっと見詰める。サスケくんの美しい、幾何学模様の写輪眼。その瞳力の餌食となって死ぬのならば、そんなにも光栄なことは無い。
 サスケくんはゆっくりと瞬きをして、ほんの僅かだけ、口許を歪めた。ああ、サスケくん、貴方が少しでも哀しく思うのならば、私が貴方の邪魔になんてならないように、できれば、良かったのに。

 須佐能乎が黒炎の刀を振り下ろす。
 ごめんね、サスケくん。邪魔になって、ごめんね。いままで、ありがとう

 さよなら





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