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悩む


「サスケ、あのね……妊娠、してるみたいなの」

その言葉を聞いた瞬間、ガンッと衝撃を食らったような錯覚がした。道理でここ2ヶ月くらい、「生理中だからダメ」という断り文句を聞かなかった訳だ。
俺がどう言葉を返すだろうと、少し緊張した面持ちで笑うなまえを、見つめて、ややして、俺があまり喜んでいないのを覚ったのか、その笑みを消してしまう。

「……」
「……喜んで、くれないの…?」
「…いや、純粋には、嬉しい」
「じゃあなんで、そんな顔するの」

今更、『うちはの子』など生まれたって、誰からも歓迎なんてされないだろう。今でさえ、お前は非難の目で見られたりするのに、その上俺の子を産もうものなら、その態度はよりあからさまになるに決まっている。そして生まれたその子も、世間の非難に晒されることだろう。俺が守ってやることもできない、どころか、俺が原因で傷つく。それは、嫌だ。

「…堕ろせ」
「っいや! いやだよ、折角、授かったのに…!」
「……」
「なんで? 何でそんなこと言うの? サスケ、嬉しいんでしょ?」
「…悪い…悪かった、落ち着け」

腹に居る子どもを守るように、両腕で庇う。その様子を見ていると、無理に堕ろさせるのも心苦しくて。そっと抱き寄せて、涙を滲ませているなまえが落ち着くようにゆっくりと背中を撫でる。

「…サスケとの赤ちゃん……産みたいよ…」
「…そう思ってくれて、嬉しい」
「じゃあ、なんで…」
「……お前と、…子どもが、苦しむところばかり、浮かぶ」
「…」
「…悪い……少し考えさせてくれないか」

そろりと窺い見たなまえの表情は複雑で、しかし微かに「…私は幸せなとこしか浮かばないよ…」と漏らして、小さく笑った。無理に作ったのであろうその顔が、胸に刺さって、抜けない。



◆◇◆



「なんだ浮かねー顔してんな、辛気臭せーってばよ」
「………子どもが、できたんだ」
「え、…ええーっ! なんだそりゃ! 聞いてないってばよ!」
「言ってないからな」
「なんだよー、めでてーじゃねーか! ラーメン奢ってやるからもっと食えってばよ!」
「テメーやチョウジじゃあるまいし、そんなに食えるか」
「あん? そういや、なんでそんな暗い顔してんだよ。せっかくめでてーのによ」
「……いや…まあ、な…」
「…まさか、お前の子じゃねーとか?」
「バカ、んな訳あるか」
「(おお、すげー自信…)…あっそう。じゃあなんなんだってばよ」
「………アイツも腹の子も、…今よりいやな思いするんじゃねえかって」
「…。そりゃあ、昔オメーがやりたい放題暴れ回った所為だろ、自業自得じゃねーか」
「……。…昔のことで、アイツまで哀しませたくない」
「…。…っはー、ったくよー、オレもお前も口下手だから、お互い上手く伝わんねーけどよ」
「?」
「オレだってガキん頃は訳も分かんねーでいやな思いしてたけどよ、お前だって一人ぼっちで頑張って過ごしてきたじゃねーか」
「…」
「だからァ、お前の子どもなんだし、そんくらいのこたァ自分で乗り切れるってばよ」
「…」
「それにお前と違って、そいつにはちゃんと両親が居るんだぜ? 全然、ヘーキだってばよ!」
「……」
「……へへ、」
「…おっさん、勘定。こいつの分も」
「まいどありー」
「あ、おいサスケ、オレが奢るっつったろーが!」
「お前に奢られるほど落ちぶれちゃいねーんでな」
「なっ…! テンメー、次会ったらぶん殴ってやる!」
「……次は、大人しく奢られてやるよ」
「! …そん時は、サクラちゃんやカカシセンセー達も一緒だかんな!」
「…ああ」



◆◇◆



「なまえ、」

家に帰るとすぐにその姿を探し、見付けると、そのまま抱き締める。やや困惑した様子のなまえの腹をそっと撫でて、耳元で喜色を帯びた声で言うのだ。


「生んでくれないか、俺たちの幸せを」




悩む
(20100809)
目安箱より、妊娠が分かった時の話


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