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危険人物、参戦! 3/11


「わぁぁ……」

 宿泊施設は、観光地のホテル顔負けの豪華さだった。広いフロントは上質なカーペットが敷かれ、歩くたびふかふかして気持ちいい。海に面した大きなガラスのそばには、休憩できるソファーやテーブルも備え付けられていて、今はライトアップされた浜辺が見える。昼間に見るともっと綺麗だろう。レストランも併設されていて、ちょうど晩御飯の時間なので人が大勢見える。ディナーはあそこで頂くのだろうか。

「こ、こんなところ、ホントに泊まってもいいの?」
「ああ。俺は去年、一昨年も来たからな」
「えっずるい」

 一言も声を掛けられなかったし初めて聞かされたんだけど、私の文句もどこ吹く風でサスケくんは外を眺めている。でも今年になって誘ってもらえたということは、去年よりは好感度が上がっていると捉えることもできるのだ。ふふん、この手の裏読み思い込みは得意だもんね。

「あそこのビュッフェは絶品だぜ。特に野菜が美味い」
「そうなんだぁ、楽しみだなぁ」
「肉や甘味ばっか食い過ぎて、水着が着れなくなっても知らねえぜ」
「そ、そんなには食べないよぅ……」

 晩御飯はちょっと控えめにしよう。そう心に誓うのであった。

「着いていたのか、お前たち」

 後ろから声を掛けられて振り向くと、そこにはサスケくんのお兄さんが立っていた。
 イタチさんは、『八多カラス』という芸名で俳優をしており、ドラマや映画に引っ張りだこで、注目度がめきめき上がっている一流芸能人だ。カラスさんと呼ぶべきかイタチさんと呼ぶべきか迷ってもごもごしていると、笑って「どちらでも構わない」と言ってくれる。

「いらしてたんですね」
「ああ。ちょっと撮影があってな」
「海で撮ったんですか?」
「そうだ。雑誌のグラビア用なんだが、発売はいつだと言っていたか……」
「わ、!」

 イタチさんと話していると、サスケくんがイラついた様子で私の手を引いた。いつの間にか追い抜いた身長でもって、お兄さんを少しだけ見下ろすように睨み付けている。
 サスケくんはイタチさんに、ほぼ『嫌悪』と言っていい感情を抱いているらしい。それもこれも全てはイタチさんの言動によるもので、女遊びが激しく、過去サスケ君と付き合っていた女の子を寝取ったこともあり、自宅にはイタチさんの彼女(らしきもの)が監禁されている。私も一度『挨拶』と称してキスされそうになったことがあり、とにかく手が早い。また生粋の変態趣味らしく、聞いた限りでは、サスケくんの所業などかわいらしく思えるほど『ヤバい』、ようだ。

「来ないと言っていたはずだよな」
「予定が変わったんだよ。よくあることだ」
「…………」

 サスケくんの噛みつかんばかりの形相に、私は何を言うべきかと二人の顔を交互に見る。イタチさんは涼しい顔でサスケくんを見つめ返していたけれど、ふとフロントのほうへ視線をやった。

「鬼鮫」
「皆さん、お待たせしました。部屋の鍵です」

 フロントで手続きをしてくれていた鬼鮫さんが鍵を渡したのは、サスケくんではなく、イタチさん。それに驚いたようにサスケくんは鬼鮫さんを睨み付け、苦虫を噛み潰したような顔をした。

「まさか……」
「ここの『三人部屋』はなかなか良いですよ」
「!」
「では、私はこれで失礼させていただきますねェ」
「行くぞサスケ」

 三人部屋。鬼鮫さんは帰る。イタチさんが鍵を持っている。ということはつまり……?

「クソッ、初めからそのつもりだったな……!」
「なんのことだ? 鬼鮫がやったことだ、俺は知らんな」
「グルに決まってるだろうが!」

 私が事に気付いて青褪めた頃には、鬼鮫さんは出口へ行ってしまい、イタチさんはエレベーターへ向かい始めていた。
 サスケくんはフロントへ文句を言いに行ったけれど、どうやら他に部屋は空いていないそうで、イタチさんと同じ部屋に泊まるしかないらしい。サスケくん曰く、『これも兄貴の根回しに決まってる』、だそう。

「そ、そこまでするかなぁ……」
「アイツはやる。そういう奴だ。クソッ、来ないと聞いて油断した……!」

 サスケくんは強く拳を握り締めて、険しい顔をしている。私もイタチさんの所業は聞かされているので、正直同じ部屋に寝泊まりするのはちょっと怖い。だけどまさか、サスケくんも一緒に居るのに手を出してきたりは……。

「(あっ……三人でするのも好きだって言ってたっけ……)」
「……チッ、とりあえず部屋に荷物を置きに行くしかねえか」

 イタチさんはエレベーター前で待っている。心なしかニヤニヤと楽しそうにしているように見えて、ぞわりと肝が冷えた。こんな肝試しは嫌だ……。




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