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浴衣でお祭り 3/4


 駅からしばらく歩いて、目的地である南賀ノ神社に着いた。花火大会開始まではまだ時間があるので、先に屋台を回ろう、というのはこの場に居る全員が考えていることだろう。

「さあて、どこから潰していくか」

 それじゃ屋台荒らしみたいだよ。制覇するつもりで『順に潰していく』という意味だとは分かっていても、ツッコミが喉から出ようとして、出損ねた。繋がれた左手を引かれて、それを意識してしまい、声が喉でつっかえた。

「(ひ、久しぶりだからドキドキする……!)」

 定番の『はぐれると面倒だから』という理由でもって、駅からばっちり恋人繋ぎをされている。しかも無意識にか知らないけど、サスケくんは時折親指で私の手を撫でる。それに胸がキュンとときめいてしまって、パンツのない股の奥が熱くなってしまう。これ、思ってた以上に困る……!
 襦袢に謎の染みがついている言い訳なんて思い付かないし、さすがに浴衣まで貫通してしまうことはないと思いたいけど、万が一ということもある。だからといって折角のデートなのに『ときめき禁止』とか辛すぎるので心は解放していきたい。どうしよう。
 パンツはサスケくんに預かられてしまったので、たとえトイレに駆け込めたとしても穿き直すことはできない。一体いつ返してくれるのか、聞いても答えてはくれないだろう。

 人ごみの波に合わせるように、屋台の間を下駄を鳴らして歩いていく。並び立つ屋台の入口あたりはガッツリ食事系ばかり。たしかにそろそろお腹の減る時間だ。先に晩御飯を済ませてしまうのも選択肢としては有りだと思う。

「(でも、今は味なんて分からなさそう……)」
「暑いし、かき氷でも食うか」
「あ、いいね、かき氷」

 甘いものは苦手だって言ってたけど、暑さには敵わないらしい。汗ばんだ肌へ風を送るように、空いた左手をパタパタと振っている。体温を下げるついでに水分補給にもなって一石二鳥、美味しければ三鳥だ。
 かき氷屋さんを探して、神社内に沿うようにぐるりと立ち並ぶ屋台を見て歩く。お面屋さんや光るオモチャ屋さん、くじ屋さん、カタヌキ屋さん、射的屋さん、輪投げ屋さん。このあたりはオモチャ販売や遊べる屋台が固まっている。ピンボール懐かしいな。
 そうしてやっと、『氷』の旗を下げた屋台を見つけた。お祭りで氷といえばかき氷しかない。隣には缶やボトルの飲み物を売っている屋台も並んでいる。

「あったあった」
「並んでんな」
「メニュー見える?」

 大盛況で人だかりのかき氷屋さんは、私からではメニューすら見えない。サスケくんの身長ならあるいは、と思って聞いてみると、どうやら見えるらしい。

「俺はみぞれでいい」
「え」
「何にするか決めとけ」
「や、だから見えなくて……」
「白玉宇治金時練乳がけ? よく食うな」
「そんなこと言ってなーい!」

 そしてたぶんそんな立派なメニュー無いでしょ!
 見事にからかわれたので、むむうと唇を尖らせる。ニヤニヤ笑いながら私の帯をぽんぽん叩くサスケくんは、私のぽっこりお腹を揶揄したいらしい。うむむ……あるならそれを食べたい気もするけど……。

「まあ、舌がとんでもない色になると萎えるかもしれねえから、イチゴあたりでいいな」
「う、うん……?」

 さてはキスとか色々する気満々だな? いや知ってるんだけども……すでにパンツが徴収されてるわけなんだけども……。



 かき氷を食べて舌が真っ赤になったり、涼しいを通り越してむしろちょっと肌寒くなったりしてから、改めて屋台を回る。

「サスケくん、残しすぎだよ……」
「シロップは少しでいいっつったのに、がっつり掛けられたからな」
「しゃびゅい……」
「ならなんか温かいもの食うか」

 食べ物屋台は、たこ焼き、お好み焼き、焼きそば、イカ焼き、焼き鳥、じゃがバター、焼き甘栗、フランクフルト、アメリカンドッグ、チョコバナナ、わたあめ、りんご飴、ベビーカステラなどなど、とにかく種類が豊富だ。(自分でもよくこんなに覚えてたなと感心する) 美味しそうな匂いに何度も釣られそうになったことを思い出しながら、神社の入口のほうへ戻っていく。

「お。豚汁なんか売ってるのか」
「へー。屋台で汁物って初めて見たかも」
「ちょうどいいんじゃねえか。俺はじゃがバター食うけどな」
「ええ、私もじゃがバター食べたい」
「あ? 一口だけな」
「(いいんだ!)」

 わあー優しい! つい裏とか考えちゃうけど、素直に喜んでおこう。
 先に私の豚汁を買って、流れの弱いところでサスケくんがじゃがバターを買ってくるのを待つ。紙コップに入った豚汁をふーふーと吹き冷ましながら少しずつ食べていたから、待ち時間はそんなに長く感じない。

「おいしー、けどあつーい」
「結局汗だくだな」
「両極端……」

 かき氷で冷えた体は、豚汁でぽっかぽかになってしまった。元々蒸し暑い気候だし、人も多くてさらに暑いのに、豚汁はやりすぎたなぁ。でも本当に美味しそうだったから、つい言われるままに……。
 隣でサスケくんも、紙コップに入ったじゃがバターを食べている。ほくほくに蒸された皮つきじゃがいもの、切れ目の真ん中に大きめバター、彩りついでに乾燥パセリ。どんどんとけていくバターがたっぷり付いたじゃがいもを、はふはふしながら咀嚼している。

「(おいしそう……)」
「……乞食みてーに見てんじゃねえよ」
「はっ!」
「仕方ねーな」

 四つ切りのおいもを更に半分に割り、お箸で摘まむ。それを私の顔の前に差し出し、「ほら」と言った。

「(え、え?)」
「要らないのか?」
「い、いるっ!」

 サスケくんの『あーん』を逃すわけにはいかないと、慌ててお箸へ口を開ける。先端に乗ったおいもを咥えようと首を伸ばし、口を閉じる。が、空振り。

「んっ?」
「どうしたよ」

 言いながら、口の近くを彷徨わせるように箸を揺らす。落ちちゃうかも、ほくほくが冷めちゃう、と必死でおいもを追いかける。最終的には届かない高さまで上げられ、たかと思うとサスケくんの口の中へ吸い込まれていった。

「あー!」
「クッ、期待を裏切らねえなお前は」

 またからかわれた。サスケくんは楽しそうにクツクツ笑って、四つ切りのもう半分を再度摘まむ。今度は期待しすぎないぞ……。

「ムスッとしてねえで口開けろ」
「……ほんとにくれる?」
「ほら、“あーん”」
「…………あー、んっ!」

 疑いつつ、大きく口を開ける。すると今度はすんなり口の中へじゃがバターを運んでくれて、まず熱さに驚く。サスケくんがしていたのと同じように、はふはふと口の中でおいもを転がしながら息をかけて冷ましていく。あっつい、けど、おいしいー! おいもに染みたバターのしょっぱさと、皮の食感と香ばしさ、ほくほくおいものほのかな甘みが、見事にマッチしている。
 熱さに涙目になりながら、口の中がサスケくんに見えてしまわないようにお箸を持った手で隠す。

「おふ、おいひいね」
「だろ。お前の豚汁も飲ませろ」
「いいお、ふぁい」

 じゃがバターの入った紙コップと交換するように、豚汁が入った紙コップを渡す。それから遅れて、『あーん』をしてもらったことに気が向いた。ひゃぁぁ、すごいことだ……恋人定番の例のあれ、とも言える行為だよ。すっごい幸せ……。あ、ダメダメ、あんまりときめくとよくないんだった。

「っあー……、うま……」
「(そういえば……私の食べ掛けの豚汁、普通に食べてる)」

 普段も回し飲みはあんまりさせてもらえないし、前のデートの時もこの『ちょっと一口』は全くさせてもらえなかった。私が手を付けていないおかずとかはものすごく強奪されるんだけど、食べ掛けを一部取られるということはなかった。つまりこれ、割とすごいこと、起こってます。

「(油断してるのかわざとなのか、判別つかないや……)」

 普段意識してそういうことをしないようセーブしているのは前提として、油断して無意識にやってるのか、『デートの最中だけ』と決めてしてるのか。うーむ。
 なんにせようっかり嬉しくなってしまったので、お股の状態が心配です。

「もう全部飲むぞ」
「うんいいよ、もう体は十分あったまったから」

 ハートまでぽかぽかなので。





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