×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

[]      [
嫌いになるよとほのめかしてみなさい3/3


 やっぱり会話の無い帰り道。頑張って何か、話そうとしてみるけど、なかなか良い話題が思い付かない。何よりサスケ君の雰囲気が怖くて話し掛けられない。この前見た映画のこととか、昨日見たテレビのこととか、今日学校であったこととか。私が思い付くのはそんなくだらない話ばっかりで、それをサスケ君に話したところでうざがられるか無視されるのが関の山だ。そんな訳で、時々サスケ君の顔を窺うだけで何も話せないまま、もう駅の近くまで来てしまった。

「……」
「……」

 乗る駅は同じだけど、降りる駅は違う。乗り換えも無いけど、私はサスケ君より早く降りなきゃいけない。サクラちゃんやナルト君と地元が同じだって聞いたから、サスケ君は二駅くらい向こうだ。それももちろんサスケ君本人の口から聞いた訳じゃない。サスケ君はあんまり、自分のこと喋らないし、そもそも私の前では話すこと自体が少ない。会話もしたくない、ということではないと、思いたいんだけど、それを打ち消せるような事象は何一つ無かった。

「…………」
「……え、……サスケ君?」

 サスケ君の斜め後ろに付いて歩いているのだけど、サスケ君は真っ直ぐ駅に向かう道から逸れた。まさか毎日通る道を間違えるなんてことはある訳もなく、サスケ君はどこかを目指しているよう。寄り道をするとは思っていなくて、もしかしてちょっとデートみたいになるんじゃないかと期待してしまう。だけどどこに行くのかという不安もある。だってなんだか、少し、人通りが少なくなって、雰囲気も怪しくて、嫌な予感がひしひしとする。

「……サスケ君、どこに……」

 行くの? と、最後まで言う前に、足を止めた。そうして見ているのは、いかにも、な安っぽいホテルの看板。

(え、…………え? ……ぇええ!?)

 声には出なかったけど、それはもうびっくりした。だって、今まで、一回も、一緒に出掛けたことも無いんだよ? そりゃあ付き合い始めてからはもうそろそろ2ヶ月経つけど……。でも、でも、泣かされながらのキスや、踏んだり咬まれたりしかしてない。デートもしてないし、好きだとも、言われて無いのに。それなのに、ホテル。快く「うん」と言うと思っているのだろうか。いや、サスケ君なら、無理矢理引っ張って行くかもしれない。

 じりじりと後退りをする。それに気付いてサスケ君がこちらを向き、二歩で距離を詰めて私の腕を掴んだ。

「逃げようとしてんじゃねえぞ」
「だっ、だって……!」

 青ざめるような気持ちなのに、想像してしまって顔が熱くなる。

「だってまだ、デートだってしたことないのに……!」
「は? んなもん必要か?」
「……!」

 面倒くさい、と目が言っている。デートが面倒なのか、こんなことを言う私が面倒なのか。どちらにせよ悲しくて、じわりと涙が滲む。こんなことしても、サスケ君は喜ぶだけだって分かってるのに。

「い、……ヤダ、やだ!」
「……ッチ、うぜぇな……これだから処女はめんどくせぇ」
「……っ、放してっ!」
「、」

 サスケ君の、言葉に、思わず腕を振り払った。

 やっぱり、サクラちゃんが思っているような感情は持ってないよ。ただ、弄びたいだけで、性欲処理に使いたいだけなんだ。だから、酷いことだって平気でするし、デートも面倒だからしてくれないし、好きとも言わないし、こんな風に、鬱陶しそうな目もするんだ。サスケ君は、私のこと、その程度にしか思ってないから。

「……か、れる…………わかれる……!」
「!」
「別れる! サスケ君、なんか……っ!」

 さっき振り払ったのに、また腕を掴まれる。今度はさっきよりずっと強く握られて、思わず言葉も途切れた。痣が付くんじゃないかというくらいで、はっとしてサスケ君の顔を見上げると、今まで見たことがないくらい怒った顔をしていた。息を飲む。

「“別れる”……? テメェ、解ってんだろうな……」

 今にも殴りかかりそうな形相に、足が勝手に逃げようとする。そうするとサスケ君もこちらへぐいぐい近付いてくるから、足がもつれてよろよろと後ろへ下がる。背中にドンと硬いものが当たったから思わず振り向くと、コンクリートブロックを積み上げた壁が在った。しまったと、思った時には遅く、サスケ君を振り返れば、夕日の逆光で、その表情に暗く影を落としている。

「お前は俺の物だ。手放してなんかやらねえ。ンなことァ許さねえ……」
「ッ、いたい、」
「逃げるってんなら……今すぐにでも……」

 切羽詰まったような言葉に、危険を感じる。腕を振り払おうと動かしてみるけど、力が強くてびくともしない。空いた片手も同じように捕らえられて、壁に押し付けるように強く固定されてしまう。骨も軋むような痛みに、そして恐怖に、涙がこぼれる。

「い、たい! イヤ、放して……!」

 なんとかならないかと、何度も腕を動かしてみるけど、全然どうにもならない。それどころか更に足まで押さえ付けるように踏まれ、余計身動きできなくなる。

「大人しくしろ。縛り上げられたいのか」
「っ……や、だ……!」
「だったら、」
「きら、い、嫌い、だいきらい!」
「!、」

 思い切りそう叫ぶ。もう、嫌だ。サスケ君に振り回されるのも、痛い目に遭わされるのも。私は、普通の恋愛がしたい。アブノーマルなのは、懲り懲りだよ。
 すると、怯んだように、サスケ君の力が弱くなる。え、と顔を上げると、酷くショックを受けたような、悲しそうな、顔?

 それを見てややぽかんとしていると、また力を込めて握られる。再び訪れた痛みに、眉を寄せて目を細めた。と、影が近くなって、唇を塞がれた。

「! っん……!」

 あの、頭がくちゃくちゃになるキスをされるのかと身構える。だけどサスケ君は、短くしただけで、すぐに離れた。

「……なん、」
「痛いだの、イヤだのは、構わない」
「……?」
「…………けど、……きらいは、言うな」

 腕を掴む力が、少しずつ弱まる。もう、振り払うことだってできそうだけど、私はただ、困惑していて。

「言われると、……ムカつく、イラつきすぎて、……殺したくなる」
「!」
「……意味分かんねぇ」

 そうぼやくようにこぼして、手を放した。足も解放されて、自由に動けるようになる。だけど動けない。サスケ君は、そんな私を残して、1人で帰ってしまう。どこかイラついたような様子で。

 意味が分からないのは、こっちだよ。サスケ君が何を考えてるのか、ちっとも分からない。放されたのにまだ痛いから袖を捲ってみれば、やっぱり赤い手形が付いていた。それをぼーっと見て、鼻をすすって、涙を拭く。そういえば今日は、嬉しそうにしなかったな。なんでなんだろう、とぼんやり考えながら、私もやっと歩き出した。キスの意味も分からないまま。




(20110122)


 []      []

[感想を届ける!]