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嫌いになるよとほのめかしてみなさい2/3


 話の長い担任のホームルームを終えて、放課後。これの所為でいつもいつもサスケ君が先に帰ってしまうのに追い付けない。今日は昨日の色々があったので会う気は無いけど。そんな訳でゆっくり帰り支度をしながら、帰って行く友達にバイバイと何度も手を振る。サクラちゃんにも手を振って、私もさて帰ろう、と鞄を肩に掛けた時だった。

「ちょ、ちょっと紫静!」
「? なに、どうしたの?」

 サクラちゃんが慌てたように戻って来て言うから、きょとんとして返事をする。サクラちゃんが気にしているのは廊下の方で、何かと思って私も見てみた。ら。

「……!」
「サスケ君待ってるじゃない! のんびり支度してんじゃないわよ、バカ!」
「え、え、でも、」
「ほら早く、行きなさいって!」

 今日はサスケ君と一緒に帰る約束だってしていないし、そもそも今日は会っていないし、それ以前にサスケ君が私の所へ自らやって来るなんて。有り得ない。絶対無い。これはもしかして今日一度も会いに行かなかった間に何かあって私に怒っているんだろうかそうかもしれないきっとそうだ……!
 ヤバイ、マズイ、コワイ。

 しかしそうやって尻込みする私の背中をサクラちゃんがぐんぐん押して、遂に廊下に押し出された。窓から見えていた通りサスケ君は壁にもたれるように立っていて、少しだけ不機嫌そう。ポケットに突き入れられた両手や眉間の皺やへの字口がいかにも怒っている、という空気を醸し出している。

「……」
「ぁ、えっと……」

 左足の甲の擦り傷が、むずむずと疼く。肩に掛けた鞄を持ち直すふりをして、咬まれた所に触れた。
 私が目を泳がしている間、サスケ君は何も言わないし何もしない。ただじいっと頭のてっぺんから睨むように見ているだけ。サクラちゃんはいつの間にか居なくて、たぶん気を遣ったつもりなんだろうけど、どちらかと言えば居てほしかった。何かされるんだろうかと冷や汗を浮かべながらサスケ君の反応を待つ。ただただ待つ。

「……、……」
「…………おい」
「はい、」
「……わざわざ俺から来てやったっつーのに、なんも無しか」
「っ、……」

 礼も、謝罪も。そう言いながら、サスケ君はさり気なく私の足を踏み付けた。またしても左の足を、ぎゅう、と。怪我の上からだから余計に痛くて、でも周りにばれちゃいけないような気がして、なんとか眉をひそめるだけにとどめる。

「ご、めんなさい、……ありがとう」
「……フン」

 絞りだすように言えば、鼻を鳴らして足を退けた。どうやら及第点を頂けたようだ。ほっとして、先に歩き始めたサスケ君の後を追う。って、あれ、本当に一緒に帰るのかな。

「サ、サスケ君……?」
「なんだ」
「え、かえ……付いてって良いの?」
「…………」
「ぅ、……」

 どうやらマズイことを言ってしまったようで、サスケ君は鋭い目をキツく細めて私を振り返った。ギクリとして足を止め、俯きがちにその視線から逃れようとする。

「……お前マジでうざいな。それくらい空気読めねえのか」
「……ごめんなさい……」
「分かったらいちいち聞くんじゃねえ」

 不快な気持ちを隠そうともせず、舌打ちもあからさまにしてくる。縮こまってその言葉と痛い程の不機嫌なオーラとを受けて、半ば泣きかけ。素直に黙って付いて行けば良かった……。そうかと思って少し浮かれてしまったのがいけなかった。
 また歩き出したサスケ君の後ろを、今度は何も言わずに付いていく。もう同じ過ちは繰り返さないぞと誓って、2回も踏まれて怪我の疼く左足をやや引き摺りながら歩くのだった。


 


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