腐男子×俺様会長



俺には切っても切れない、腐れ縁という奴がいる。
そりゃもう産まれたその日に並べられたベッドで隣り合わせ、と言う微塵たりとも嬉しくない運命、いや偶然の巡り合わせだ。
あの時、あの日から俺は、その糞野郎とでも言うべき奴に振り回されている毎日を送っている。


頭のネジが一本、いやそれどころではない本数が抜けているだろう彼に好きな奴がいると告げられたのが、中学1年に上がりたての頃。
その時の俺は「あっ、そう」と言う反応を返しただけ。ただの変人変態にも心ときめく相手がいただなんて驚きだったがまぁ、それだけだ。興味も無ければ応援してやろうという気さえわかなかった。むしろ好かれた奴に心底同情した。
そうしてその後何事もなく過ぎていった時間の中で、実は好きな奴は男なんだと告げられたのが、中学2年に上がりたての頃。
その時の俺は「フーン」という相槌を返しただけ。正直好きな奴がいたという話も忘れかけていたけどな。
何故こんなにもうっすい返事かと言うと、まぁ俺達の通う幼稚園から高等部まで一貫したエスカレーター式の金持ち男子校は、閉鎖的な空間な為にホモやらバイやらがうじゃうじゃといた。今更そんな事を言われても、本当に今更だ。
そのまま想い人とどうなったという話を聞く事も無く、また月日は流れ今度は中学3年に上がった頃。
「実は俺なぁ、」と例年通りに口を開いた奴に、これまた例年通り適当に頷いていれば。



「俺な、実は………腐男子なんだわ」



―――その時の俺の反応。
「あっ、そう」でも無く、「フーン」でも無く。
奴の口から飛び出た全くもって聞き慣れない単語に瞳を瞬かせつつしばしの間を空けて、次いでゆっくりと首を曲げて、「…なんだそりゃ」と呟いた。
そんなハテナマークで頭がいっぱいの俺に彼は何時もの、どこと無く悪どい笑みを浮かべながら、口を開いて。


「男同士ですったもんだの恋愛劇を繰り広げてんのが好きな奴の事さ。前に言っただろう?俺は男が好きなんだ、って。それって多分、最初は萌え対象として見てたのが何時の間にか好きになってたんだよなあ」
「………はあ………?」


ハテナマークは増える一方だった。
何を訳の分からねぇ事を。男同士のすったもんだ、だぁ?んなもんこんな学校にいりゃあ嫌でも目に入るわ。何言ってやがんだこの野郎は。
まあこいつの頭可笑しいのは前から知ってるけどな、本当に何故この俺がこんなのと一緒に居るんだか。
――なんて事をのんきに思っていた俺は、奴の手がこちらにまで伸びていた事に、気付かなかった。


ダンッ、


気が付けば視界は反転していて、
目に映るのは天井と、口元に深い笑みを刻んだ奴の顔だけ。
は、と思う暇すら無く耳元に口を寄せられていて、息のかかる感覚に思わず鳥肌がたつ。混乱する中でもとにかく離せと、そう俺が奴に怒鳴り付ける前に、やたらと低い声がそれを遮った。


「でなぁ、慎哉。色んな本やら漫画やらを読んでみたんだが、俺はどうも泣いてる顔にそそられるみたいでよ…あぁ安心しろ、殴ったりはしねぇさ」
「…は、…な…?」
「なぁだから、慎哉」


にっこり、彼が笑う。整った顔だ。俺には敵わないだろうけれど、何てそんな事を言っている場合じゃねぇ。

危険だ。こいつは、危険だ。

警報が頭を鳴らす、何年一緒に居たってこいつが考えている事の一部も理解出来た事なんか無かった。お二人は仲が宜しいんですね、なんて顔を赤らめて言ってきた奴の事を思い出す。仲が良い?馬鹿を言うな。こいつと俺の、どこが仲が良いって言うんだ。だって俺はこいつの考えている事が分からない、目の前にいるこいつが怖い。怖いなんて思う事自体、腹が立つけれど。

のし掛かっている奴を押し退ける事も叶わず、俺はただ半弧を描いた口元がゆっくりと開くのを、息を詰めて見つめていた。



「―――泣いてくれよ、慎哉」



楽しそうに笑う、腐れ縁―――神崎良平がそう言って首筋に噛み付いてきた瞬間、あぁあの瞬間からまさに、俺の悪夢はいよいよ始まっていたに違いない。





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