いい人達の空間
陽炎が立ち上る中、キャンディスが痛む身体を押さえながら反対側に戻るのが見えます。アッシュに何か言っているようでしたが詳細は聞こえませんでした、恐らく「あんなプレイ…ファントムにもされた事なかったのに…」とでも言ってるのでしょう、そうです、きっとそうです。薄い本が厚くなりますね。

ところ変わってサイドメル。


「よいかギンタ!これで3勝1分。勝ち越してはいるが…しかしお前はキャプテン!!お前が負けたら一発で終わり!!よく覚えておけ!!」

バッボが今更な事をガミガミとギンタ君に説教していました。あなたはギンタ君の親ですかと突っ込みを入れたい所ですが相手は子供に甘そうとは言えナイトですしね仕方ありませんね。


「うるせーな〜お前はー、そんな事わかってんだよーっ。」

「あ!!痛い!!なぐったな!?おのれ無礼者!!!」


51


バトル直前に殴りあった(?)ウォーミングアップも終わり、始まりました精神的に悪影響な5thバトル第5戦。
こちらはギンタ君、相手はアッシュ。

ギンタ君が手始めにバッボをウェポンに変化させようと魔力を瞬時に練ると対するアッシュは開幕で腹を境に 真 っ 二 つ になりました。

大事な事なのでもう一度言いますが 真 っ 二 つ になりました。

しつこいようですがもう一度。
真 っ 二 つ に(ry

アホ面を晒しながら声にならない叫び声を上げ同じ事を復唱し考える。

真っ二つですよ、ARMの力で何でも出来る世界とは言え真っ二つですよ?
一瞬、「何やったのギンタ君居合い切り?」やら「子供好きが高じて自ら命を絶つことで相手を勝利に導いた?ギブアップすればいいのに、ヤバいアッシュバカじゃないですか頭壊れてます」などと罵倒が頭を過りました。

ギンタ君もアッシュの圧倒的インパクトに気圧されてハンマーの発動すら出来ず硬直。勿論顔も酷い事に。

そして私以外も声にならない叫び声を上げてアホ面を敵に晒していて、中でもアルヴィス君のアホ面は非常にレアでした。

「行くよーん。」

上半身がギンタ君に向かって飛んでいくとギンタ君は戦うこと放棄し、方向転換して涙目になりながら全速力で逃走開始。

「うわああぁ!!!」

「うおーっ!!!おいていかないでくれギンターっ!!」

そりゃ逃げますよね。きっと今のギンタ君は興味本意で心霊スポットに訪れたら怨霊と遭遇して友人が被害に遭って助けを求めていても逃げる事だけを考えている状態と同じ心理状況に陥っているのでしょう、多分
あーあ砂地が災いして全速力なのに遅い、遅いですよギンタ君。

あと少しで追い付くと言う所でアッシュの腕がパカンと外れる。ギンタ君の頭をわしづかみにし数回イイコイイコと撫で回し、避ける時間も守る時間も与えず瞬時に拳を作りると容赦なくギンタ君を殴り飛ばしました。

個人的にランク付けした自傷行為に近い行動ランキング4位辺りに位置する行動(ギンタ君の頭を触る、アルヴィス君、イアンでも可)を難なくこなすアッシュを見てやっぱナイト級って凄い、私は改めてそう思うのでした。

飛ばされた先で起き上がったギンタ君が顔に縦線を生やし訳のわからないと言った顔で口を開く。

「なんなんだこいつは…!!」

そりゃあ…勿論アッシュですよ。
そのアッシュ本人は相手が子供だからかサービスとしてあっさりARMの正体をバラしてくれます、やさしい。

ディメンションARM『スプリットパーツ』
効果は体のパーツを分離し空間移動が可能に、わあ便利。

「でもあれパーツが別れた状態でARM壊されたらとんでも無いことになるのでは…」

「いや…さすがにその辺りは考えて作られているだろう………多分。」

自信無さげですねアルヴィス君。

「カルデアの彫金師がそんな致命的なミスを見逃す筈無いよね………多分。」

あなたもですか。

「そうっスよ。パヅタウンに売ってるような安物の欠陥品じゃないんスから………多分。」

今さりげなく地元を馬鹿にしましたねジャック君。

「キミら随分と自信無さげやなあ……自分は今までカルデア産らしきごっつう凄いARMいくつも見てきとうたけどダークネス以外で自分の命に関わるような変なのは一つも無かったで。」

各々が多分多分と連呼する中、自信ありげにナナシさんが答えます。なら大丈夫なんでしょう、なんと言っても盗賊ギルドルベリアのボス様直々のお言葉ですもんね。

「でも後でドロシーちゃんに聞いとこか。」

結局信用してないじゃ無いですかやだー。

種明かしも済んだところでアッシュが再びギンタ君相手に上半身だけで突っ込みます。対するギンタ君は次は流石に怯まずバッボをハンマーに変形させ攻撃開始。しかし何をやっても当たらない。
直接攻撃が全て空振りに終わるとこれはどうかとバブルランチャーに切り変え、バブルを発射。
ここでアッシュは新たにネイチャー?ディメンション?ARM、三次元シャドーを発動。背後のアッシュの影が立体化し、バブルは全て闇に飲まれ威力を反射するかのようにギンタ君は影に殴られ、再び飛ばされ地に落ちた。

「バブルが影に吸収された!!?」

「影使い!?」

影使いと言うよりはディメンションのスペシャリストですかね?
飛ばされたギンタ君が起き上がるのを確認するとやれやれと言った風にアッシュが口を開く。

「本当はこんな事あんま乗り気じゃないんだよ。オレの子供と同じくらいなんだよなギンタは。オレは子供が大好きなんだ!」

「じゃあ……!!なんでチェスなんかにいるんだよ!!!」

「チェスが強いからさ。チェスにつかねーとオレの子供の命も危ねえ。チェスが世界を統べる事で争いは無くなり、平和は訪れる。世界の子供達も死なずにすむだろ?」

なんと、子持ちだったんですかアッシュ。でもチェスが世界を支配したら子供達はみんなファントムの教育と言う名の洗脳を強いられるんじゃないのでしょうか。逆らったら死刑。
で、最悪ゾンビ化。うーん…幸せとは程遠いような…
考えが極端すぎますかね?

「違う!!!現にチェスは子供も殺してるじゃないか!!!チェスが消えた方が子供達も平和に暮らせるんだ!!!」

「うむ。この男の言い分は間違っておる。」

「お前はまだ子供だからわからねェのさ。誰もファントムは倒せない。戦争を起こす事で、平和を作るのさ。チェスの兵隊がメルヘヴンを平和にする!」

ギンタ君とバッボがアッシュ論を否定するも大人様お得意の「子供にはわからないのさ」が飛んできて言い合いは終了。新たにARMを取りだしつつアッシュは続けて口を開いた。

「さて、ここでマジックを一つ。見学者の中には子供達だっている。これから先の戦いは…子供達に見せたくない。」

その言葉の直後にARMは発動し、黒いオーラのような物がドーム状に二人を包む。
ARM名はサイコスペース。

「何これ!!?」

「中の二人の様子が、見えないスよ!!」

「まるで車のスモークですね。どうせ中のギンタ君はろくな事にならないんでしょう?ねえナナシさん。」

スノウ姫とジャック君が落ち着きを無くす中、アルヴィス君にARMの詳細を聞いてまともに解説が返って来た事が無かったので今回はナナシさんに話を振ってみました。

「ごめんなミツキちゃん、自分あのARMは詳しくないんや。」

これが御約束って奴です。

「ディメンションARM『サイコスペース』だ。」

で、今回はアルヴィス君が知ってると。まあいいんですけど、全然いいんですけど、別に悔しくなんてないですし。本当ですし。

「これを使われるとギンタは…」

「ギンタは?」

「ギンタ君は?」

「苦戦を強いられるだろうな。サイコスペースの空間内にいる人間は術者以外魔力が強制的に半減される。」

「それ…マズくないスか?」

マズイっスね。
回数重ねればどうにかなりそうなゲームを盛り上げる為の難易度上昇やバラエティじゃあるまいし遊ばれてたナイトクラス相手に魔力半減のペナルティなんてマイナス面しかありません。しかもこれ勝つためのチャンス一回きりですし。

「どうにかならないの?」

「あれだけのARMの発動を維持しながらの戦いはナイトクラスでも厳しいだろう。それを差し引いてもギンタが不利なことには変わり無いが。」

つまり遠回しにどうにもならない、と。
それでも相手はアッシュですから死ぬなんて事は無さそうなのが不幸中の幸いでしょうか。





魔力の上昇や爆発音を聞きながらギンタ君の安否を待っていると少ししてガーゴイルレイがドームを突き破り、砂ぼこりと共に完全に消えると傷を負ったギンタ君とサイコスペース発動前とあまり変化の見られないアッシュが対面していました。

「……たいした信念だよ。どうせなら本当にファントムを倒してみせな!子供達の笑顔…お前に託すぜ。オレの負けだ。」

先程までの心配も何処へやら、アッシュ自らのギブアップによってギンタ君が勝利を得ました(ポズンまだ勝利宣言してませんが)
何があったかはわかりませんがきっとイイハナシダナーな事があったのでしょう。
まあ良かった良かった、ね、スノウ姫。

「変な奴だなお前。まだ戦えるだろうに!」

「なーに。オレは子供達がニコニコして暮らせるならどっちでもいいんだ!」

そう言ってアッシュは仮面に手をかけ、外すと同時に最後の言葉をギンタ君に贈る。

「頼むぜ。ギンタ。」

ギンタ君が笑ってVサインを作ると同時にポズンが勝利宣言を行いました。
これで最悪の事態は免れましたね。

それにしてもアッシュあんな顔していたんですね。

まじまじと戻るアッシュを見続けていると肩を叩かれる。誰ですかと振り向くとナナシさんだった。

「ミツキちゃんああいうのが好みなん?」

「何ですか急に。」

「いやな、いつもなら誰かしら戻ってくれば自分らに混ざって何かしら一言喋ってるようなミツキちゃんが珍しくチェス相手に釘付けになっとるから。」

「なるほど、言われてみればそうかもしれません。」

「で、どうなん?」

どうなのかと聞かれましてもね。

「少しだけいいなと思った気がします。ですが断じ」

断じて一目惚れではありません。
と全て答える前にニヤニヤされながらええやんええやんと背中をバシバシ叩かれた。ちょ、痛い。何ですか何勘違いしてるんですか。

「言っておきますがナナシさんが期待してるような感情じゃ無いですからね。アルヴィス君がおっさんに憧れるのと似たようなレベ…」

「え!?ミツキアッシュに恋しちゃったの!?」

してませんって。
ミンナ恋愛トークダイスキデスネ(棒)

「してません。」

「相手は子持ちやで?」

「だからしてませんって。」

「子持ちの前に敵ッスよ。」

「何度もいいますがしてませんって。あとジャック君がそれ言っても説得力無いですからね。」

ギャーギャー騒いでる最中ギンタ君と喋ってるアルヴィス君と目が合ったのでテレパシーでヘルプを送ると呆れた顔で「まあ頑張れ」と返され(多分)目を合わせないように再びギンタ君との会話を再開した。

わかりました。今後アルヴィス君が似たような扱いをされようがホモ扱いされようが絶対助けませんからね。

「…やれやれ……アッシュともあろう者が、戦意を喪失するとはな。」

誤解を解いていると何処からか声が響き4Thバトルの私戦同様空間に穴が空いて、全員が驚いてその方向へと顔を向けた。

「久しぶりだな。ナナシ……」

あ、命の恩人だ。
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